欠伸をするにはまだ早い





「な、なな…何だコイツはーーっ!?」
「火、火を食った、だと??」


あの炎を食べて平然と立っているナツを見て驚きの声を上げるボラ達。


「ナツには火は効かないよ」
「こんな魔法見たことない…!」


ハッピーの言った言葉を聞きながら、ルーシィも驚いたように呟く。

「食べたら、力が湧いてきた!」

ニヤリと笑ったナツ。
スゥーっと息を大きく吸い込んだ。


「いっくぞぉぉ!」

響くナツの声に敵は慌てふためく。
そのうちの一人がはっと何かを思い出して、冷や汗をうっすら浮かべながら小刻みに震えている。


「こ、こいつ…まさか…。ぼ、ボラさん!俺ァこいつ見たことあるぞ!」
「はぁ!?」
「桜色の髪に鱗みたいなマフラー…、間違いねぇ!!コイツが…本物の…」


そう言いかけた時、ナツが手を口の前に輪のようにして持っていき、吸った息を吐くように炎を吐いた。
そう、炎だ。


ドゴゴゴォォ!!


「サラマンダー…」

轟音とともに辺りが炎に包まれた。
ルーシィの呟く声も炎の音に掻き消される。

「よーく、覚えとけよ」

そう言って炎を纏った腕を振りかぶる。


「これがフェアリーテイルの…魔導士だっ!!!」


強烈な1発をボラへとお見舞いする。
白目を剥いて思いっきり飛ばされたボラに周りの敵は震え上がる。
いや、震え上がったのは敵だけではなくルーシィもだ。

「火を食べたり、火で殴ったり…。本当にこれ…魔法なの!?」


口の前に手のひらを持っていってルーシィがそう呟く。それを他所にハッピーは口を開いた。


「竜の肺は焔(ほのお)を吹き、竜の鱗は焔を溶かし、竜の爪は焔を纏う。これは、自らの体を竜の体質へと変換させる"太古の魔法(エンシェントスペル)"」

「何それ!?」

初めて聞く言葉に目を点にするルーシィ。
「元々は竜迎撃用の魔法だからね」
「…あらま」
「滅竜魔法(ドラゴンスレイヤー)。イグニールがナツに教えたんだ」

ハッピーの言葉に今にもパンクしそうな頭の中をどうにか整理してルーシィが言う。

「竜が竜退治の魔法教えるってのも変な話ね」

それに言われてみれば、というふうに固まるハッピー。

「疑問に思ってなかったのね」

そう言いながらルーシィはハッピーからナツへと視線を移した。
視線の先には敵や建物をお構い無しに炎で壊していくナツ。


「ドラゴンスレイヤー。すごい、すごい…けど、やりすぎよぉー!!」

関係のない人まで巻き込みそうな勢いに、ルーシィは思わず叫ぶ。
視界の端にうつるボラはボロボロになって涙を流しながら倒れている。



「こ、この騒ぎは何事かねーっ!!!」



「ぐ、軍隊」
この騒ぎを聞きつけて、慌てて駆けつけてくる軍隊。
ルーシィはまずいと冷や汗を浮かべながら振り返った。


「っ…!!?」
「やべ!逃げるぞ!!」
「何であたしまでーー!?」


ナツに腕を掴まれてしまったルーシィ。どうにか手を離そうと頑張るルーシィをよそにナツは軍隊から逃れるように駆け出した。


「だって妖精の尻尾(オレ達のギルド)に入りたいんだろ?」
「…っ」

ナツの言葉に目を見開くルーシィ。
手を離そうと抵抗するのをやめて走りながらナツを見る。
そんなルーシィに満面の笑みを浮かべて言った。


「来いよ!」
「うん!」

それから、2人と1匹で仲良く軍隊から逃げるのだった。




◇◆◇




「わぁ、おっきいね」


FAIRYTAILと書かれた大きな看板の下、ルーシィは呟く。
自分が見ているこの大きな建物、ここには自分の憧れたギルドの魔導士達が沢山いる。
それを考えるだけで笑みが止まらなかった。
あれから一晩たち、パーティーの前に預けていた荷物を受け取った後、この建物まで来たわけだが…。


「ようこそ、フェアリーテイルへ!」


そう言ってジャンプしたハッピー。
ドキドキという音がして心臓が高鳴るのが分かる。
それを見ていたナツはギルドの扉へと歩いていく。
ルーシィとハッピーもそれに続いた。
そして、ナツは思いっきり扉を開けた。


「たっだいまー!!!」

大きな声で勢いよくそう言ったナツ。そんなナツの足元でハッピーも小さく「ただー」と言って片手をあげている。



「ナツ、ハッピーおかえりなさい」


誰かがナツとハッピーにそう声をかけた。それが聞こえた他の人達がこちらを見る。


「またハデにやらかしたなぁ。ハルジオンの港の件、新聞に載っ…て……うごっ!?」

新聞に載ってた、そう言おうとした音のに向かってナツは飛び蹴りをした。


「アンタ!サラマンダーの情報嘘じゃねーか!!!」


イスや机が派手に壊れる。


「あら、ナツが帰ってくるとさっそくお店が壊れそうね、うふふ。」
「壊れてるよーー!!!」


呑気にそう言った女性に後ろにいた男は素早くツッコミを入れた。
ナツのたった一撃の飛び蹴りから、いつの間にかギルド全体の喧嘩へとヒートアップしている。


「あたし、本当に…フェアリーテイルに来たんだ」


呆然とその光景を見ていたルーシィは小さく呟いた。


(期待と憧れ)
(辿り着いた、出発地点)


星の唄聲が聴こえない