あかん、帰りたい。恥ずかしい。僕もう死ぬんや。あかん、何があかんのやっけ。あれ?あかんってなんやっけ。
「お、おう。そんな緊張しないで。はい、次」
めっちゃ気を遣われとるやん。あかん埋まりたい。埋まって日本の裏側の人たちにその陽気さを分けてもらいたい。みんなが陽気なんかは知らんけどな。
そんなことを考えているうちには、ほかの1年生の自己紹介も終わってしまっていた。
あかん、誰の自己紹介もきけてへんやん。みんなせっかく喋っとるのに、僕、あかんのちゃうか。
暫く1年生同士で交流してて、という主将の言葉にハッとした。
あかん、なんか出遅れた気がする。
本日何回目か分からないほどの"あかん"を心の中で唱えながら周りを見る。
「祈くん、久しぶり」
「…ひえっ!?……え、……あ、うん。そうや、ね」
「お兄さん達の方の学校は行かなかったんだね」
「……う、うん」
隣を見れば僕よりも高いところに頭のある彼が僕を見ていた。彼は中学の時に1回だけ戦ったことのある人だ。確かアツミ君?だったか。僕のことをまさか覚えててくれるなんて、という嬉しさはあったが、僕のコミュ力がそれを邪魔している。しかし、彼は気にすることなく話し掛けてくれた。やさしい。
「えっと、アツミくん?」
「…そう、そう!俺、
「えっ、あ、ううん。全然大丈夫。えっと、僕は…」
「宮祈くんだよね?」
「そ、そう。うん」
手のひらに自分の字を書きながら漢字を教えてくれる温海くん。ほんまに"さんずい"が4つや!とか"じ"って漢字は治兄のやつやな、と思っていれば、はっとした彼がそう言って苦笑する。それに首を振ってから、僕も、と自己紹介しようとすれば彼は知っていると頷いた。
ま、まあ"兄ちゃんたち"って有名だもん。僕も似たような顔だからきっと何となく認知されているのだろう。所謂、おまけだろう。中学時代からそんなことには慣れているからべつにいいけれど。
「すごいブロッカーだと思ってたんだよね」
「へ?」
「俺のあの試合で1番のスパイクを止められた時、本当に心臓がギュン!ってしてさ。割と絶望した」
「……え、っご、ごめん?」
「でも、同時に絶対にぶち抜こうって思ってたんだよね。そんな祈くんが同じチームとか頼もしすぎる。やべ、俺ラッキーじゃん。練習からあのブロック食らえたら怖いもの無しだろうし」
「お、おう?」
あの試合とは多分中総体の試合だよね。絶望、という単語に青ざめたが、その次の瞬間にはそれがなくなった。ラッキー、と満面の笑みを浮かべる彼は決して嘘はついていない。呆気に取られていると、彼はよろしくというように手を差し出してきたので、握手した。
「よ、よろしゅう」
「うん、よろしく」
「……」
「……」
……あ、やばい。沈黙。コミュ障的にはもう何も思いつく言葉ないです。どうしよう。
そう思っていれば温海くんが口を開いてくれた。
「ね、祈くんって勝手に呼んじゃってるけど大丈夫かな?」
「え、……ええよ!兄ちゃんたちのこともあるし。ぼ、僕も涛治くんって呼んでもええ?」
「ええよ!大歓迎!」
「……ふふ、移っとる、方言」
「……!い、イケメン。ほんものだ」
「え、なんて?」
「いや、なんでも」
もごもご、と何かを言った彼の言葉が聞き取れなくて聞き返すが、彼は首を横に振る。まあ、いいか。それよりも喋れる子が出来て良かったと安堵する。僕の心配はこれしかなかった。バレーはチームでやる。コミュ力皆無、しょぼメンタルの僕はまずとけ込めないのではと思っていたが、1人だけでも喋れる子が初日にいるのはありがたい。でも、できれば他の子や先輩ともなかよく___、
「なあ!宮くん!」
「……は、はひっ!?」
「うおっと」
突然後ろから声をかけられた。それに驚いて変な声を上げながら、さっと涛治くんの背に隠れる。やば、兄ちゃんたちと同じ扱いしてしまった。と思いながらもコミュ力なさ過ぎて動けなかった。
「……お、驚かせたかな?」
「多分」
「…さっきもさっきだったけど、人見知りって本当なんだ。なんかバレーの時と雰囲気だいぶ違うけど」
「ね、あのスパイク全て叩き落とします、潰します、殺します、通しませんっていう殺気放ってる祈くんからは想像できないよね」
叩き落とす?潰す?殺す?僕、そんな物騒なこと考えてると思われてるの。通しませんは思ってるけども。
「ぼ、僕、そんなこと考えながらバレーしてへんけど」
「え、マジで?あのブロックしてて?むしろ何考えてるのさ」
「……負けへん」
「なんて?」
「絶対に負けへんって気持ち」
涛治くんに続き、彼もコミュ力おばけかな。まだ顔みてないから誰かは分からないけれど。涛治くんの背に隠れながらブロックのときに思っていることを言えば、聞き返された。
「負けへん、ねえ」
「お、おん。スパイカーにも、一緒にブロック飛んどる人にも、兄ちゃんたちにも絶対に負けへんって思ってんねん」
「それ、スパイカー以外、全部自チームの人じゃん。うける。負けへんて!」
「……そ、そうかな?」
何かおかしなことを口走ったかもしれない。それが何かは分からないが。ケラケラと笑ってくるので、何ともいたたまれない気持ちになって涛治くんの背から顔を出した。声ではピンとこなかったが、その顔は知っていた。
「
「お、おお!そうそう!栄くんだよ!栄くんって呼んで」
「お、おん。なら、そう呼ぶわ」
「あつみんもそう呼んでいいよ」
「あ、うん。あ、あつみんってなに……」
彼とは練習試合を含めれば何回か対峙したことがある。彼も同じ学校か、と思っていれば涛治くんにあつみんと早速あだ名を付け始めた。
コミュ力!すご!わ、分けて欲しい。
何食ったらそうなるん?
どんだけバレーしたらそんな人と話せるん?なんて聞きたいことが沢山増えた。
(何か祈くん、目が輝いてない?)
(え、何で?なんかしたか?)
(つーか、よく見なくてもやっぱりイケメンだなあ)