「お願いしあっす!」
お互いに礼をした。向こうに6人、こちらにも6人。いわゆる試合である。
入学して数日。ある程度入部者が決まったため、1年でそれぞれ何チームか作って試合をすることになった。実力を見たいらしい。これが最初のアピールポイントだと誰もが意気込んでいる。強豪中の強豪、井闥山学園でも1年で公式戦に出ようと思えば出られる。実力主義は強ければ強い学校ほど顕著に現れる。選手層は厚いため、中々大変だがその中でも自分が選ばれるということは本当に凄いことなのだろう。
ある程度ポジションごとに別れ人数を補完しあってから、先輩たち自作のくじを引く。結構使われているらしいクジは少しよれていた。鉛筆で書かれたアルファベットも少し薄い。
僕はBチームだ。
「Bチームはこっち」
その声に反応してそちらに近づく。先程発言したのは佐久早先輩だ。やっぱり身長高いな。今日は先輩たちはこの試合の審判やら案内やらに別れており、練習は最後に1時間の自主練だけのためか、佐久早先輩はマスクをしていた。誰かが"慎重"?で"綺麗好き"と言っていた気がする。あまり近づくと嫌かもしれないと、少しだけ距離を置いて彼の前に来た。
じーーーっ
「……」
「……」
有り得ないくらい視線を感じる。僕が一番最初にたどり着いたせいで1番前だし、今更逃げる訳にも行かない。僕、何かしただろうか。
「宮、祈」
「は、は、はいっ。あ、えっと祈でええですよ」
「祈……」
「あ、はい」
「思ったより小さい」
「えっ?」
お、思ったより小さい!?ディスられたってこと?呆然と先輩を見上げていれば、隣でAチームを並べていた先輩が吹いた。あ、この人は古森先輩だ。リベロの。
「宮くん、気にしないで。こいつネガティブなだけだから。コートにたっている時と随分雰囲気違うねってこと」
「おい古森」
「…………あ、はい」
何を気にしないでいいのかはよく分からない、とは言えなかった。みんなコミュニケーション力高いな。あ、僕が低いだけか。
全チームが並び終わったらしい。総当りになる試合のトーナメントをホワイトボードに書いた先輩が説明をしていく。それぞれ配られたビブスを着てコートに向かった。
「祈くん、一緒じゃん」
「あ、ああ、涛治くんやん。せやね」
コートでどの位置に誰を置くか会議する前に、声をかけられた。良かった知ってる人いた、と安堵する。それぞれ軽い自己紹介をした後、それっぽく先程決めたポジションに立った。先に向こうのサーブだ。僕は後衛スタートだった。
いきなり向こうのサーバーはジャンプサーブを打ってくる。僕と右の子の間だ。
「取る!」
「任せた!」
初めてのチームなので声出しは大事だ。バレーの時だけはすんなり出る声に反応する声が返ってくる。手に当たったボールは良い放物線を描いてセッターのところに行った。よっしゃ、大成功。
レフト!と叫んだ涛治くんに綺麗に上がったトスは良い音を出して相手のコートに落ちた。
「な、ナイス!」
「ヨシっ!」
パチン、パチン、パチン。
初めてのチームであるのにまるで昔からそうであったかのように真ん中にみんなで集まってハイタッチ。これがあるからバレーはいいのだ。
それから攻防は続く。僕は結構レシーブはできたし、ブロックもできた。二段トスも上手くいった。サーブはちょっと微妙だっが、結構いい試合ができているのではないだろうか。コートの外や2階のギャラリーから見ている先輩たちが視界に入るため、そんなことを思う。
「……っ!誰か頼む!」
ファーストタッチがセッターか。あー、相手の人上手いな、と思いながら足が動いた。
「上げる!」
声を出す。頼んだ!という声が何だか心地よかった。ボールの所へ行き、一歩踏み出し、そして周りの把握。
さて、誰にあげようか。
相手コートに背を向けて考える。ライト、いや、ブロックは先程から連続で得点しているライトを意識している。チラリ、相手コートを確認する。僕の様子を伺う目と目が合った。あ、この人知ってる。上手いんだよなあ、ブロック。まあ、負けないけれど。
___ああ、おもしろい。
無意識に頬が緩む。それから、軽く視線をレフトにやった。ギリギリ気づかれるくらいの小さな動きだが効果覿面だ。後ろで人の動く気配がする。うん、やっぱり上手だ。ボールに合わせてセットアップ、ボールを送るのはレフト___、
「なっ!?」
「ありゃ」
じゃなくて、相手のコートだ。
「げ、いきなりツーかよ」
「祈!ナイス!視線こっちくれたから来るっ!て思ったのによ」
「……はは、何やろ。つい」
「ついってなんだよ」
頬をかけば自チームに笑われる。
「コートの中だと人見知り発動しないんだな」
「……う、ん。長年の習慣的な?……後、人見知りしている暇がもったいないやん、…試合では」
「平常でも充分もったいないと思う」
「そ、そうやろか」
でもコートから出たら僕はなぜだかダメになる。どうしてそうなるのか、そればっかりは分からない。まあ物心ついた頃からこうなので、多分兄たちに人と交流する力は持ってかれてるのだろう。
試合もガンガン進みまた前衛になった。自チームの子がサーブしたボールは綺麗にリベロに行った。うわ、やっちまったという声がする。向こうのリベロは綺麗にセッターの所へと上げた。さて、セッターはどこへあげるだろうか。自チームのリベロの位置を一応確認してから、もう一度セッターを見る。この人も上手いな。さすが強豪って感じだ。彼は誰に打たせる?考えろ。ボールをよく見ろ。ツーの可能性は?今のところは低い。後衛のひとりがいい位置にいるからもしかしたらツーが来ても大丈夫かも。じゃあ僕は気にせず飛ぼうかな。
「レフト、クロスしめようか」
「分かった」
「……せーの!」
バシン
「うわ、ドシャット」
今日、ストレートを数本決めている彼を2枚で見事に止めれた。彼はクロスが上手い人だと聞いたことがあるのもあるし、自チームのリベロがストレートで待っているためクロスを塞げばどうにかなるだろうと思った。結果上手くいったわけだ。ラッキーである。
その後も何本かドシャット決めれた。やっぱり今日は何だか冴えてるなあ。身体も動くしいい調子だ。相手の高身長ブロッカーに負けたくないし、隣の一緒にブロックに飛ぶ彼にも負けたくない。スパイカーにだって当然負けたくない。その思いも今日は大量だ。
みんなも調子が良いらしくこのコートの試合が終わる。25-18、25-21で勝利だ。
「やっぱ宮くん怖ぇえよ。相手190はあっただろ。ドシャットって」
「ええ……?そうやろか?」
「試合で対峙するといつも心臓握りつぶされそう。コート出ると逆に心臓握りつぶしてないか心配しないといけないのに」
「な、なんやねん、それ」
「そ、その顔で笑うな。イケメンか!」
「ええ!?」
この試合で何とか馴染めたみんなと冗談まで言えるようになった。コート出ても大丈夫にならないかな。
「宮、やなくて祈でええからな」
「あ、オーケー」
うん、と頷きながらコートを出る。するとさっきまで相手していた子たちに囲まれた。
「祈くん、怖ぇよ。あれ殺気?何かオーラ出てたよ」
「え、えあ、あ、そそ、そうかな?」
「そうだよ!……って、さっきまで普通だったじゃん!オンオフ酷いな」
「ご、ごめんなぁ」
話しかけてきた向こうのチームの子には申し訳ないが、いつもこうなのである。助けてくれる兄たちはもちろん居ない。居なくたって頑張るって決めたはずだ。大丈夫、のはず。
と顔を上げた。そこには自分よりも高身長の人が3人もいた。
あ、あかん。怖い。同級生のはずなのに。あれ、あかん。やばい、あかん。
ピンチを感じると語彙力があかんに収束する癖もあかん。
どうしたものかと思っていれば、僕の隣に誰かが立った。
「はいはい、Aチームは、次、2コートに移動だよー」
「おっす!」
隣を見れば古森先輩が「ほら、行った行った」と言って笑っている。それに返事をして彼らは2コートに向かっていった。たすかった。ほっとした。やっとのことで周りを見れば、次の対戦相手はまだ試合をしていたし、その後も他のチームが試合するのでまだまだ時間はある。
「……さっきのレシーブ良かったね」
「え、あ、ありがとう、ございます」
「ブロックも凄いけど、そのレシーブ力どうなってんのさ」
「…せ、先輩には、……いいい、言われたくないですけど」
「ふふ、まあ俺はレシーブ専門だし、当たり前と言っちゃあ当たり前でしょ?」
「そ、そうですね?」
突然声をかけられて驚いたが、僕はちゃんと話せているだろうか。頭は割と大混乱である。こ、この人もコミュ力おばけだ。僕の周りはコミュ力おばけしかいない。何でこんな反応されて、不快に思わず会話しようとしてくれるのだろう。なんていい人達ばかりなのだろう。
「俺、2年の古森元也よろしくね」
「ぞ、存じております。い、1年の宮祈です。よろしくお願いします」
「ぞ、存じておりますって…」
「わわ、笑わんといてください」
「ははは、だってめっちゃガッチガチ」
あれ?この人もしかしなくてめっちゃ話しやすいのでは?なんで?どういうテクニック?それに困惑しているうちには話が弾む。目を合わせて会話するところまで行けた。先輩、多分最速記録です。すごいっす。
このコミュ力、どんなバレーをしたら身に付くのだろうか。
「せ、先輩に負けたくない…」
「え、急に何の話?……祈面白いねー。……あ、勝手に呼び捨てにしたけど大丈夫?」
「は、はい!大丈夫です」
(すっげ古森、手懐けたぞ)
(佐久早の時もだけど相変わらずだな。って、佐久早と古森は従兄弟だし、チームずっと一緒か)
(佐久早&宮マスター古森)
(つっよ)