夢に見た今日は確か、
「…ッ、げほッ、けほッ…」
何度か咳を繰り返してから口元を拭う。
前世ではどうだったか覚えてはいないが、この体になってから今の
でも、あんなに空腹だったのによく動けたものだと思わず自分に感心する。これが俗に云う火事場の馬鹿力って奴なのだろうか?まあ、使い方が合っているかは解らないけれど。
視線を移し、引き上げた人を改めて見た。
それは確かに文豪ストレイドッグスの太宰治、その人だ。
あれ?もしかして助けるの遅かったかな?
彼がピクリとも動かないため、少し不安になりその整った端正な顔を覗き込もうとすれば、いきなり彼の両目が開いた。
「ひッ」
突然のことだったため、驚いて変な声が出てしまった。身体も少し仰け反った。彼は何事も無かったかのようにサッと体を起こせば、周りをキョロキョロと見回している。
「だ、大丈夫ですか?」
と聞くが僕の質問には応えてくれない。完全に無視だ。この人僕の声聞こえてる?
「_助かったか、……ちぇっ」
そして、口を開いたかと思えば、
ちぇっ、って云ったよね!舌打ちしたよね、今!?
口を開けてその様子を呆然と見ていれば彼が
「君かい?私の入水自殺を邪魔したのは??」
と、
「いや、邪魔なんて、ただ助けようとしただけなのに……って入水?」
「知らんかね?入水、つまり自殺だよ」
「は?」
真顔でそう云い放つ彼を見て呆れてしまう。
そして、文ストの最初ってこんな感じだっけ?
と曖昧な前世の記憶を引っ張り出そうとするが何も出てこない。
「私は自殺しようとしていたのだ。それを君が余計なことを……」
「は、はあ…」
あれ、僕なんか怒られてる?なんでっ!?
ブツブツと説教じみたことを云っている彼を見て思う。
「まあ、人に迷惑をかけない清くクリーンな自殺が私の信条だ。」
はぁ、そうですか……。
清くクリーンってなんだ?
「だのに迷惑をかけた。これは此方の落ち度、何かお詫びを……」
彼がそう云いかけた時、
ぐううぅぅっ!
タイミングよく盛大になる僕の腹の音。
嗚呼、そう云えば腹が減っていたんだった。
彼のせいですっかり頭から抜けていたと思いながら、お腹をおさえる。
「空腹かい少年?」
クスクスと綺麗に笑いながら、そう問いかけてくる彼の言葉に頷く。
「実はここ数日何も食べてなくて…」
と云えばまた、ぐううぅっ、という音が聞こえる。
あれ、僕じゃないぞ?
と思いながら、自分のお腹から彼へと視線を移せば、手でお腹をおさえているのが見えた。
「私もだ。ちなみに財布も流された」
「えっ、助けたお礼に何かご馳走という流れじゃないんですか!?」
と聞けば、?を頭に浮かべながら首を傾げた。
「?じゃねぇ!」
思わず口が悪くなる。
はぁ、とため息をついたとき、
「おぉーい!」
と云う声が聞こえてきて、其方へと視線を移した。
「こんな処に居ったか唐変木!」
眼鏡を掛けた背の高い男の人が此方に向かってそう叫んでいる。
「おー、国木田君。ご苦労様」
どうやら彼の知り合いのようだ。
てことは、もしかして文ストのキャラか…。と考えるが矢張り何も浮かばないので、考えるのを止め二人の会話を聞き流す。
「そうだ君、良いことを思いついた。彼は私の同僚なのだ。彼に奢ってもらおう」
「へ?」
涼しい顔して結構酷いことを云ってるぞ、この人…。
「聞けよ!」
という国木田さん?の声が聞こえてくる。
「君、名前は?」
その声を無視して彼は僕にそう問い掛けてきた。
「な、中島…敦です」
何時ものようにそう名乗る。
「ついて来たまえ敦君。何が食べたい?」
その問いの答えはすぐ出てきた。
「えっと、その…茶漬けが食べたい、です」
そう声に出して云えば、
「はっはっは!餓死寸前の少年が茶漬けを所望か!」
という笑い声が聞こえる。
確かに茶漬けは少し可笑しいかもしれないが、僕からしたらそれはご馳走だ。
「良いよ。国木田君に三十杯くらい奢ってもらおう」
「俺の金で勝手に太っ腹になるな、太宰!」
という怒った声が聞こえてきた。
「太宰?」
名前は一応知っているが、そう問いかける。
「ああ、私の名だよ。太宰、太宰治だ」
(それが始まり)
(そうして僕らは出会った)