これで晴れて福丸隊が本当の意味で結成できたらしい。4人とも隊を結成したことがないので、何だか新鮮な気分だね、と言い合って笑う。
「作戦室は明日教えて貰えるって」
「何置こうかな」
「テレビ、ゲーム、漫画、冷蔵庫、あとは.....」
「そのラインナップは最早住むみたい」
「確かに」
作戦室の中はそれなりに自由に物が置けるらしく隊によって様々らしい。なかには家のようにテレビとコタツがある隊もあるとかないとか。
4人でこれからについて色々と話をしながら廊下を行く。いつの間にか私も夢依も敬語ではなくタメで話すことに慣れていた。最初は割とビクビクしていた岳さんも表情はあまり見えないが、声音からだいぶ打ち解けたのではないかと思う。
「……」
うーむ、それにしてもやはり視線が気になる。何だか居心地悪いなあ、と思いながらラウンジの四人席に座って、周りを見回す。
他の3人の話を聞きたいが、それよりもそちらが気になって集中できない。
「ね、名前。どう思う?」
「……へ、何が?」
「何がってアンタ…」
「...ごめんごめん」
あはは、と苦笑いをすれば、夢依が「まあ分かるけど」と言った。視線のことに気を取られすぎていて、話を聞けていなかった。瀧さんも岳さんも視線がこちらに向いているのには気づいていたらしく、苦笑している。
「なんで最近こんなに見られてるんだろうね」
「ね?」
夢依とため息混じりにそう言っていると、瀧さんが「あれ?」と声を漏らした。私と夢依の視線が彼女に行く。
「知らないの?」
「へ?」
「知らないの、とは?」
夢依と顔を見合わせる。瀧さんは何か知っているらしい。岳さんも「あれ?」と首を傾げているので、もしかしたら知っているのかも。
「名前さ、この前太刀川さんとランク戦したでしょ?」
「え、そうなの」
「ま、まあ」
確かにランク戦はしたな。
ポイント移行なしの設定にして貰ったやつのことよね。気がついたらブースに入れられてて、気がついたら9本取られてて「え?」ってなったもんなあ。さすが1位だった。ボロボロにやられちゃった、と考えながらこくりと頷けば、夢依が「何それ初耳」と呟いた。
「あれ、言ってなかったっけ?」
「一言も聞いてないけど」
......確かに言ってなかったかもな。
「それで一本引き分けたでしょ?」
「えっ!?」
「あー、あれは偶然...」
その時はたまたま動きがよく見えただけだ。「アンタ、嘘でしょ?」って顔で夢依がこちらを勢いよく見るが、残念ながらマグレである。
「マグレでもあの太刀川さん相手だよ。どうりでこんなに見られるわけよ」
「そうなの?」
「そうそう。B級なりたての女子が太刀川さんと一本引き分けてたよって噂があってね」
「それに加えて太刀川さんからの弟子の誘い断ったんだから見られるんだろ...」
そんな噂が流れてたのか、と瀧さんの言葉を聞いて思う。そして岳さんはなんで私が太刀川さんからの誘いを断ったことを知ってるのだろう。
「名前ってば、即答で断ってて」
「知ってるよー。それも噂あるし、本人にも聞いたし。A級とB級の2、3年と大学生たちが爆笑してたもん」
「ば、爆笑...」
「もっとやっちまえ!とか言われてたよー」
もっとやっちまえ?いや、怖くてさすがにそれは無理です。
でもまあ、見られる理由とか「さすがだね」とか「やるなあ」と色んな人から言われた理由はなんとなくわかった。モヤモヤが解けたのでまあいっか。
「てっきり何かやらかしちゃったのかとビクビクしてたから真相知れて良かった...」
「たけのこ食べすぎた?とか変なこと言ってたもんね」
きな粉餅のように出禁とかにされたら学校と家でしか食べれなくなる。それでも多いじゃんとかの異論は認めないけど。
「いや、たけのこ食べれないとか死活問題だから。私の何割を構成してると思ってんの?」
「脂肪と情緒でしょ?.....いやよく考えたら、あんたガリガリだから精神面以外で構成してないじゃん」
「してるよ!この辺とか!」
「分からん!」
「.....さすがたけのこちゃん」
いつもの私たちのやり取りをしていると、岳さんがぽつりと呟いた。やっぱり岳さんもそのあだ名知ってるのか。ここまで来たらメッセージアプリの名前「たけのこ」にしてても誰も何も言わないんじゃないだろうか。
「2人とも仲良しだねー」
「まあ小学生の時から一緒なんで」
「この子ってば、はじめて会った時には既にこんな感じで」
「なにそのアホの子見るような目」
「何だ、気づいてんじゃん」
いや、待って。私、決してアホの子ではないんだが?ただ普通にたけのこリスペクトしてるだけなんだが?
「私は普通だからね!」
「いや、それは.....」
「ほら初対面の岳さんにもこう言われてるけど?」
「はっ!岳さん、さてはきのこ派からの刺客?」
「いや、オレは両方好きなんだけど...」
「ほら、ほら!その思考が既に普通じゃない。ね!瀧さん」
「そうね」
瀧さん!?なんでそんなににっこにこで頷いたの?これはもしかしなくても、みんなきのこ派からの刺客なのでは?
「さすがたけのこ・きのこワールド全開の名前」
「うるさい、きのこ派」
「ついにきのこ派呼ばわりになったかー」
ムッとすると、ニヤニヤと楽しそうにこちらを夢依が見てくる。彼女はとっても楽しそうだ。
「もうたけのこ分けてあげないからね」
「とか言いつつくれるじゃんか」
「だって、美味しそうに食べるし」
「はい、ちょろい」
まるで小学生のような会話だ。あと夢依は私に対してなんでも「ちょろい」と言ってくるのはなぜ?
「この子、たけのこあげると簡単に
「せめてたけの子が良い」
「ちょろいのは否定しないんだ」
「.....それな」
いや、まあ確かに相当重要なこと以外はたけのこくれる側に付いちゃうから、否定の余地はない気がする。
うん。確かに私、ちょろいな。
体育祭のリレーをお願いされた時とか、文化祭の催し物の投票とかみんなたけのこ沢山くれるもんな。
たけのこが最高なので仕方ない。
「いやー、ここまで来るとすごいと思うよ」
「それは同意」
「え?引きました?」
「いや、引きはしないけど。...どちらかと言うとこんな人もいるんだって面白い」
「分かるわー」
お、面白い?面白がられる要素があったのだろうか?思わず首を傾げると、3人から笑われる。
「いやあ、愉快な隊になりそうだねー」
「そうだな」
ニコニコと笑みを浮かべたまま瀧さんが言う。それに岳さんがこくりと頷いた。
「私のこと色々言ってる夢依も実はそれなりに、なんで楽しくなると思います!」
「いや、それなりにって何?」
なんだろうね?そう言ってにっこり笑う。「余計なことは言わないでね?」と長い付き合いのおかげでお互いのことは割となんでも知っているため彼女は「げっ」と今にも言いそうな表情になった。
それから色々とお喋りをしていると良い時間になり、解散になる。そのころには視線のことなど忘れてしまっていた。
「あ、そういえば太刀川さんがねー」
帰る間際、思い出したように瀧さんが口を開いた。
「太刀川さんが?」
「なんですか?」
忘れかけていた話題に夢依と二人で首を傾げる。
「名前を弟子にするの諦めてないってよ」
「え?」
「気をつけてね?」
「...ちょっ」
「気をつけろよ?」
「あの!」
え、「気をつけろ」って何?そして何、その可哀想なものを見る目!?
「じゃあねー」
「また明日」
「待って!その"気をつけろ"の部分を詳しく...」
あ、行っちゃった。
え?何に気をつけたらいいの?あと、なんで太刀川さんは即答で断っちゃったのに諦めてないんだ。
(.....今日もランク戦来ないか)
(太刀川さん、ハチ公ばりにここに居んじゃん)
(...ハチ公?)
(え、知らないんスか...?)