そして稼働している人形兵器よりも遥かに多く横たわってるそれらは到着前の戦闘の激しさを物語っていた。
ーーーああ、そういえばこんな匂いだった。独特の火薬の匂いが風に煽られて充満する。
その匂いに押されるように、足は逃げ遅れた民間人の救出に走り出していた。
肩に担いだスタンキャリバーはそのままに、持っていたコインを人形兵器に向かって弾く。
視線が民間人からヴァンに移ると同時に後方でザイファを起動していたアニエスのアーツが人形兵器に降り注いだ。
その間を縫うように、兵器の丁度真ん中あたりに飛び込んでスタンキャリバーを振り下ろす。
少し離れた位置、リゼットのサポートを受けてアーロン、フェリ、カトルの4人組が人形兵器の撃破を完了している姿を見て彼は獲物を肩に担いだ。
「ビルに隠れてろ……!ヴェルヌに請求するから証言よろしくな!」
ヴァンの言葉に驚きながらも感謝の言葉を述べながら民間人は建物内に向かって走り出す。
遠くから走りながら駆け寄ってくる音が耳に入った。
姿も見えない内ではあったが検討のついた人物に軽く肩を竦めて体を向ける。
案の定、少し遅れて駆けつけてきた遊撃士はこんな状況でもミラの話をするヴァンに不快感を露わにした、が、それはもう一人の遊撃士に諌められた。
続いてカエラにアニエスの同級生でもあるアラミス生までも集った後、菫色の少女も姿を現す。
「通信状況が悪いのが気掛かりだけどね。警察や他の遊撃士の人たちにも可能な限りの指示は出しておいたわ。」
「……貴女が来ていたのが不幸中の幸いだったってところね。」
「ここまで出来たのも一番最初に人形兵器が大量に出現した瞬間にほとんど相手取った人が居たからよ。」
「ーーー流星。そう、確かにこの硝煙の匂いは……。」
「流星だって?!来ているのかバーゼルに?!」
流星の名前を聞いて驚きに声を上げたのはアルヴィスだった。
驚きに目は開ききり、薄く口も開いている。
「風の剣聖が同格と言った人物じゃないか……!!彼女は今どこに、いっつぅ!!??」
興奮冷めやらぬといったアルヴィスの足を、ヴァンが力を込めて思いっきり踏みつける。
抗議しようとその顔を睨んだアルヴィスは氷のように冷えた眼差しを向けてるく相手に一瞬言い澱んで。
その様子を見ていたレンはクスクス、と笑う。
「あらかたの人形兵器を殲滅した後、エアロトラムのワイヤーを足場にして理科大学に向かったわ。」
凄かったわよ?
人差し指を口に触れるように当てて、どこか挑発的に笑う少女にヴァンは罰が悪そうに視線を逸らした。
リゼットに『危機管理的にこの局面での本命は?』と話題を変えるように尋ねる。
それに対してキャラハン教授の“研究開発”が終わってないと見なされること。
アルマータがそれを引き継ぎ、完成を目指しているとすれば都市全体の処理能力とエネルギーにおける“結節店”が狙いであろうと告げる。
それを聞いたカトルが気付いた様に天文台の場所を告げた。
博士の研究室でもある天文台は、その基部に導力ネットのメインターミナルである“中央端末”が格納されている。
そしてアルマータの高速艇もまた、理科大学に飛んで行った。
アルマータの狙いは天文台で間違いない。
レン達に人形兵器の撹乱を任せた後、裏解決屋一行は天文台に向かうために職人街からのルートを選ぶ。
道中逃げ遅れた人がいないか確認しながら長い坂道を。
道すがら、走りながらも止まったエアロトラムを見て。
この細く頼りないワイヤーを駆け上がった人の姿を思い浮かべる。
理科大学に、天文台に向かったのならば。
恐らく先にアルマータの幹部と衝突する可能性が高い。
カロンの実力を疑ってるつもりもないけれど、それでも。
無事を祈りながら、スタンキャリバーを掴む手からは軋むような音が聞こえた。
人形兵器の視線を掻い潜り、戦闘を避けるように走り抜けながらガンブレードと拳銃のシリンダーに弾丸を補充する。
補給用に理科大学に隠しておいた弾丸も回収済み、通常弾、特殊弾諸共に余裕がある状況だ。
いざとなれば自身のエネルギーを利用して弾丸に使えはするがそれには充填するためにコンマ数秒のラグが発生する。
激戦であればある程その隙は致命的になる、そもそもエネルギーを使うなら弾丸にするのではなく、載せる方が格段に“上がる“
カロンにとってエネルギー弾のみにさせられるのは負けを意味することと同意義だった。
昔は考えなく使い切って、古馴染みにボコボコにされたものだ。そんなことを思い出しながら。
ーーー際限なく出現する人形兵器に、全部相手にしていたらキリがないと割り切ったのは突入してすぐのことだった。
幸いにもクロンカイトが理科大学に居た為協力して、教授や生徒たちが逃げれる道を切り拓き安全の確保を最優先に動く。
けれどその時に天文台に2名入り込まれた。
アルマータの幹部であろうそれらを放置するのはリスクがありすぎる。
粗方避難誘導も目処が立っていたところで、同じく行動を供にしていた警官と遊撃士に後を託す。
後はクロンカイトが後方にいる今の状況であるならば問題はない。
進行方向にいる人形兵器を背後から貫いて、片手だけで上に切り裂く。
爆発音に周辺を索敵している人形兵器が来る前にその場を後にした。
そうしてルートを変えながら、なんとか天文台に続く道に出ることに成功する。
ーーー周辺に人形兵器がいないことを確認して緩やかなカーブの坂を登った。
天文台には精密機械がたくさんある、可能ならば天文台から叩き出したいがそうも言ってられないだろう。
窓を割ればその限りではないが、出入り口は一つしかない。
一つだけと言うのは防衛という観点から見ると有効的であるが、攻め込む側としたら不利になる。
こんなことなら以前の滞在時に避難口でもなんでも作っておくべきだった。
兎にも角にも、入らなければ進まない。
右手に獲物を構えた状態で、扉に手をかけてー……ガンブレードでその身を庇うように防御すると同時に爆弾の衝撃波に耐えるために両足に力を入れた。
「うーん、普通ならこれで結構手痛いダメージ与えられるんだけどなぁ。」
爆発によって生じた煙幕を武器で薙ぎ払う。
開た視界にはエメラルドグリーンの髪をした青年が怪しげに光る目を細めてカロンに視線を向けていた。
結構、どころではない量の爆発だったが今はそれを気にする状況ではなく。
楽しそうに笑う青年の後ろには人形のような冷たさを持つ少女がいた。
その少女はどこか守られるように天使型の人形兵器を従えている。
「……どっちも古代遺物か。」
何かを処理中であろうメインターミナルに一瞬視線を動かしながら。
青年が持つ球体型の兵器と少女が使役している天使型の人形兵器を見て確信を持ったように告げる。
「ご明察♡ 君の武器も興味深いけどね?」
「ただの懐古厨だよ、懐古厨。……いざという時に全部自分でメンテナンス出来る方が肌に合ってるんでね。導力関連は得意じゃないし。」
「ふぅん、けど確かに弾丸を補充する仕草は様式美ではあるよね。火薬の独特な匂いも癖になる。」
「案外武器に関してだけは話が合いそう。」
その他は全部相性最悪だろうけど。
カロンはそう言いながらガンブレードを肩に担ぐ。
「振られちゃったよ、オランピア。」
「メルキオル、お遊びもそのくらいに。……お初にお目にかかります、流星。」
「どっちとも出来れば一生お目にかかりたくなかったんだけど。」
「それは此方とて同じこと。……とは言え此方は2名、契約の遂行には問題はないでしょう。」
「流星とは一度やり合って見たかったんだよねぇ?戦闘もそうだけど……よかったら夜のお相手もどうかな?」
「残念、タイプじゃない。顔を洗って出直してきな、……坊や?」
「ん〜、ふっふっ……。いいなぁ……!!」
煽るようなカロンの発言に、乗せられるまま高揚した表情を浮かべるメルキオルは自身の獲物を取り出す。
一触即発の雰囲気を察したのか、少女もまたイシュタンティ、と天使型の人形兵器の名を呼ぶ。
銃剣の柄を握り占めたカロンもまた、いつでも踏み込めるように重心を前に傾けた。
合図はどれだったか。最初に駆け出したのは誰だったか。
天文台に激しい戦闘音が響き渡るーーー。
それから少しして、裏解決屋が職人街を駆け上がり、理科大学に辿り着き、天文台をその視界に入れた時にはすでに戦闘は始まっていた。
鳴り止まぬ爆発音、銃撃音、アーツ行使の衝撃波。
刃と刃が衝突し、鍔迫り合いになる時に発生する独特の金属音。
見ずとも解る激しい戦闘音に一行の足は一瞬止まった。
我に帰ったヴァンは天文台に続く坂道を駆け上がる。
吹き飛ばされた扉の先、飛び込んできた光景。
メルキオルのダガーをガンブレードで受け止めながら角度を変え銃口を顔面に向けて引き金を引く。
背後から襲いかかってきたイシュタンティを察知して、振り返りながらメルキオルに回し蹴りを入れて距離を取る。
そのまま人形兵器の腰を片腕で抱き抱えるようにした後、ザイファを駆動しているオランピアに向かって投げつけた。
距離を取られたメルキオルはその瞬間に大量のボムを投げつけるが、その全てを拳銃で撃ち落とし爆風が充満する。
爆風で見えなくなった視界を利用するように、メルキオルがダガーを構えて仕掛けてくるがそれを見過ごすことはない。
ガンブレードのシリンダーが回転する、相手と鍔迫り合いになる前に薙ぎ払うように振るわれたその切っ先から無数の散弾式の弾丸が放出された。
「1つの弾薬から複数の弾丸が飛び出るのは卑怯じゃないかっ!!」
「自分の獲物と戦闘スタイルを一度見てからもう一回同じこと言ってくれる?」
戦闘音は絶えることなく、まさに一瞬でも気を抜けば均衡が崩れるとでも言ったところだろうか。
だというのに軽口も途絶えることはなく。両者、まだ余力を残している状況というのが目に見えて解った。
流石に散弾は当たるとまずい、そう判断したメルキオルは距離を取りーーー視線をエントランスに向ける。
「ーーーやはり来ましたか、アークライド解決事務所。」
「あーぁ、流星とやり合えるのはここまでかぁ。……ウフフ、半月前の映画祭ぶりか。これも女神の導きーーー運命の赤い糸ってヤツかな?」
「半月前もこんな輩と遭遇してるの?嫌だな……私だったら厄祓いに行くね。」
「カロン姉!!大丈夫……?!」
「見ての通り、五体満足だよ。」
カトルの心配する声に振り返ることはなかったがその無事を伝えた。
目線はアルマータの幹部から逸らすことはない。
懐からシリンダーに弾丸を詰めながら、アルマータと裏解決屋の間に位置取る。
「しかしマルドゥックのSCが正式加入ーーー。ハミルトン門下の秘蔵っ子君までたらし込んでるなんて中々やるねぇ?」
「ハン……こっちの若いのはあくまで“相談窓口”だけどな。」
裏解決屋とアルマータの因縁は確かにある。
けれどカトルにとっても尊敬していた教授を誑かした相手がまさに目の前にいる状況だった。
怒りに声を震わせながらメルキオルを睨みつける。
その視線を、声を受けてもメルキオルは動じることはなかった。
キャラハン教授とはそれなりの付き合いであったし、今特殊なプログラムを走らせている中央端末の使用許可も“一応は”貰っていること。
サルバッドのギャスパー社長の時と違って完全にギブアンドテイクであることを機嫌よさそうに告げた後。
薄らと、わざと思い出したように
「ああ、彼にそっちの気があったのも色々とやりやすかったかな……?煽って、その気にさせたら次々と一線を踏み越えてくれたからね♡」
「っ……。」
「ああ、いいんじゃねえか?性癖なんざソイツの自由だしなァ。ーーーてめぇが煉獄に堕ちるべきクソ野郎ってのは変わらねぇが。」
「ええ……私たちはその焔の代わりを果たしましょう。ゲネシスを取り戻し、みんなの“仇”を討つためにも!」
アーロンとフェリの発言に、滲み出る焼きつけるような殺意。
それを感じとったメルキオルは戯けたように肩を竦めた。
「アハハ、すっかり嫌われちゃったなぁ。ーーーオランピア、慰めてくれない?」
「自業自得でしょう、完全に。ですが契約上ーーーこちらも従うわけにはまいりません。」
オランピアの合図に天使型の人形兵器が呼応する。
カトルの指示を受けたFIOが構成物質のスキャンを試みるが、結果は測定不能。古代遺物の一種と推測する。
それを聞いたヴァンは察してはいたものの確証が得られたことで腑に落ちる。
けれどーーーヴァンもリゼットも仕込んでいる何かに勘づいた。
オランピアは二人の勘の良さを素直に褒めた後、サルバッドでは名乗る機会が無かったと語り始める。
そうして改めて向かい合い、«金の庭園≫の管理人、オランピアであること。
天使型の人形を指し示してイシュタンティという名を告げる。
「アルマータとの契約完了後、という条件付きにはなりますがーーーいずれご用命を検討の際にはご贔屓の程を。」
そう告げた声には感情も、抑揚もない
冷たくも感じる声音で言い放った言葉に一向は驚きに目を見開く。
けれどカロンはオリンピアを見てイシュタンティを見た後に、またオリンピアに視線を戻す。
普通であれば、今現在敵対している相手に何の温度もなく言える発言ではない。
感情を殺しているのではなく、まさしく“無い“と言い切って良い身の振り方。
少しだがモヤッとした不快感を感じるが今は考えることでは無いだろう。
「……?単なる営業に過ぎませんが。」
「ふふ、大マジだから勘弁してしてあげてよ。見ての通り仕事人間、いや仕事人形でね。」
メルキオルがダガーを構えて、鋭い視線を向けながらも笑みを浮かべた。
「それじゃあ僕もーーー≪管理人≫としての力、披露しようかな?続きも遊んでくれるよね?流星。」
「できればご遠慮願いたいけど……そうも言ってられないか。」
途端にドス黒いオーラを出しながらそう言ってくるメルキオルに、カロンもまたため息を吐きながら答える。
息が詰まりそうなその威圧感を感じながら、ヴァンもカロンの隣に並び立つように前へと踏み出した。
「チッ、やはり今まで“抑えて”いやがったか……!」
「皆様、最大限のシャード活用を!何とか凌いでくださいーーー!」
「私が援護するから思う存分戦いなさい!常に相手の行動の先を読むことを怠るな!!」
「よくわからないけどーーー行くよFIO、XEROS!!招かれざる客をこの聖域から追い払うために!!」
火花散り、幕は上がる
(あれから10年か。成長が楽しみだね?)
(ああ、少なくとも隣には立てるぐらいには成長したつもりだ……!!)
2022/8/3
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