時に前に立ち守る壁となり、時に味方の攻撃が通りやすくなるように誘導をし。
不利になりかけたら次の攻撃の起点となる強烈な一撃を繰り出す。
アルマータだけじゃなく、味方の動きも全て先読みしていなければ到底叶わない、攻守の臨機応変さは長い歳月を生き抜いた歴戦の強者と言っても過言では無いだろう。

10年前から一段と増した切れ味、安定性のあるペース配分。
必ず彼女に合わせてくると読んだカロンの背後からヴァンは重い一撃を薙ぎ払い。

「フェリ!援護射撃!!」
「はい!!」

くるりと回るように避けた後、後衛に回ったカロンはフェリに指示を出した後拳銃を取り出しこれ以上前線を上げられないように牽制する。
一撃の重いカロンの弾丸にフェリのアサルトソードから無数の弾丸が飛び出した。
踏み込んでこようとしていたメルキオルが一瞬下がったのを見て、彼女はシリンダーに残っている薬莢を全て地面にばら撒いた後新たな弾を詰め込む。
一種の様式美である一連の動作をどこか熱を帯びた目で見るメルキオルに、ヴァンは舌打ちしながら切り込んだ。

挑発するように嘲笑ったメルキオルはダガーでスタンキャリバーを受け止めながら、後衛に向かってボムを投げ飛ばす。
けれどそれらは全てアーロンが切り落としーーー爆風に背を押され、加速するように駆け上がった後、飛びかかるように双星剣をその首目がけて振り落とす。
メルキオルはヴァンの腹を踏み台にするように蹴り飛ばし、後ろに下がった。

メルキオルが後ろに下がると同時にオランピアの詠唱が完了し高威力のアーツが全体に降り注ぐ。
しかしそれを予知していたリゼットがザイファを駆動ーーー広範囲にシールドを展開、防ぎきれなかったダメージをアニエスが導力杖を携えて癒しの力を解放した。

後衛組の援護の隙を、アーツとクラフトの発動の隙を狙い、イシュタンティが襲いかかるがーーー降り下ろされた腕はリゼットにも、アニエスにも届くことはなく。
代わりに鈍い金属音が響き、力と力で拮抗した後シリンダーが一つ分回転する音を出して爆発と共に弾き返す。
高威力の攻撃に怯み一瞬隙が出来たのをカトルは見過ごさなかった。
お返しと言わんばかりにその背後にいるオランピア共々地属性アーツがリゼットのブーストを受け躍動し、炸裂する。

カトルのアーツをその身に受けたオランピアは、しかしながらそこまでダメージを負っている印象はない。
けれど何かに納得したような、どこか見限ったようにイシュタンティを連れ離脱。

メルキオルの方もヴァン、アーロン、フェリの連携攻撃を交わしつつ、ヴァンが意地で通したスタンキャリバーを横腹で食らったものの。
此方もさしてダメージを負ってないような素振りだが、メインターミナルの方に視線を一瞬逸らすと片手を軽く振り。
右手にダガーをそのままに、左手で刃の部分を添えるように持つとうっすらと広角を上げる。

すでに激しい戦闘で、カロン、ヴァン、リゼットを除いた面々は息が上がっている。
カロンは庇うように武器を構えて後衛から前に足を踏み出して。

「っ……てめえ…………今まで本気じゃ無かったな……!?」
「アハハ、剣の乙女さんと流星にはちょっとは見せたけどねぇ……?」
「戦力、想定の範囲内ですか。そちらの導力ドローンも含めて。」

オランピアの“人形”に加えて“爆弾”の古代遺物。
どちらかだけでも厄介だというのに両方だと尚更タチが悪い。

暗殺組織≪庭園≫の底の見え無い力を実際に戦闘で感じてヴァンとリゼットは顔を歪める。
カロンもまた、故障させることなく守り抜かなければならない天文台を見据えて小さく舌を打つ。
特製の弾薬は攻撃に回すと火薬のみの通常弾の威力を大きく上回る。
けれど文字通り“特製”であるだけにこの立ち位置で、この距離の近さで使えば天文台も、メインターミナルも無事では済まない。

「うふふ、ホントいいねぇ君たち……揃いも揃って嬲りがいがありそうでさァ♪この状況で底を出し切って無い流星もゾクゾクするしねぇ?」
「悪食の坊やに本気を見せてやる程ヤキは回ってないさ。」
「……最高……♡……ああもう我慢出来なくなってきたよ……。……ボスが気にしてたみたいだけど内緒で食べちゃってもいいかなァ……?」

メルキオルの挑発に、カロンも挑発で返す。
坊やと呼ばれる度にどこか光悦した表情を浮かべるメルキオルの視線を遮るようにヴァンがその背中でカロンを隠した。
先程からカロンの攻撃を喰らうたびに、声を向けられるたびに、表情を変える相手に彼自身に絶え間なく流れる血液がドス黒く濁るような不快感を感じる。
背で隠し一番前に躍り出てーーー隠しもしない憎悪と殺気の籠った目でメルキオルを睨み。
一連の動作と、性質の違う熱が込められた殺気。それを受けてメルキオルは一つの仮説に思い当たり、下卑た笑みを浮かべた。

方や、なぜ背中に隠されたのかイマイチ理解に苦しむが背中で隠してくれるならありがたいと判断して。
メルキオルやオランピア、イシュタンティに観測されないうちに拳銃の弾丸を入れ替える。
それは淡く、オイルで灯る小さな光源のような輝きを持つ彼女特製の弾丸。
6発装填出来るシリンダーの1番目の弾丸を入れ替えて音もなく腰に装着し直す。

「私のボスではありません。お好きにどうぞ、メルキオル。」
「ククク、上等だ……とことんやってやろうじゃねぇかーーー!!」
「クルガの“炎”はここからですーーー!」

今にも火花が散りそうなメルキオルとヴァンの熱気に煽られるように。
他、血気盛んな2名が息を整えて改めて武器を構える。
すぐに第二ラウンド突入か、そう思った矢先唐突に、アニエスが持っていたゲネシスが瞬いた。

アニエスの驚きの声にヴァンは振り返り、同じく驚愕の声を上げ
中央端末に取り付けられていたゲネシスもまた眩く輝き始めーーー機械音声が流れる。

『“デコード”完了ーーー自己創発プログラムを起動します。』
『…………ここ…………は…………。……そうかーー成功したのだな。』

その音声は今までの戦闘中も処理が実行されていたプログラムが完走したことを意味する。
聞こえてきた聞き慣れた声に信じられないとカロンは中央端末に目線を向けた。
カトルも聞こえてきた声に愕然とし、振り返る。

「アハハ、上手くいったみたいだね!どうだい教授ーーー1と0の世界の居心地は!?」
『ああーーーこの上なく快適だとも。』

中央端末にキャラハンの姿を写した映像が展開する。
聞き慣れた声、見慣れた顔。
記録映像と決めつけるにはあまりにも、そこで生きているような生々しさを感じて。


『ううむ、実に気分がいい。そうか……こういう事なのだな。余計なものを脱ぎ捨てたおかげか、思考がかつてなくクリアになった……!これならば最後の一歩も余裕だ!君たちの期待にも応えてやれるだろう!』
「ウフフ、さすがは教授♡ご褒美もたくさん用意しないとねぇ!」

カロンはヴァン達が何に行き着いて、キャラハンを追いかけたかは知らない。
考えたくなかったと言い切ってもいいだろう。何せ彼女は止めたのだ、4年前に。

『ーーそうだ、お嬢さん。これは映像などではない。』
『私はデビッド・キャラハンーーーバーゼル理科大学の物理工学教授にして、ゼムリア大陸の歴史に名を刻む研究者だ。』

その亡骸を見てきた裏解決屋に動揺は走る。
けれどそれを気にすることなく、カロンが一歩前に出る。

「何が歴史に名を刻む研究者だって?精々愚者と称されるのが妥当だろう。」

その声音は吹雪の夜のように冷え込んでいた。
それを耳にした、最も耐性のないアニエスがガクン、と足の力が抜けるような圧を一身に感じる。

「それは人が辿り着いてはならない兵器だと言ったはず。それに手をつけなければならない程既に閃きはなく衰えてもいたとでも?」
『ーーーカロンーーー』
「人は“力”を正しく使えない。それは“劇薬”になってしまう。そんなこと……それこそ研究者の貴方がよく知っていたでしょう。」

カロンはまるでその映像の人物がその場で生きているかのように、容赦なく言葉で責め立てる。
肌にひりつく怒気を込めた声はーーー激情を押し殺すように哀愁を帯びた。
責め立てられたキャラハン教授は何も言葉を返すことはなく、ただ視線を逸らすこともなく。
モニター越しに交わる視線を見て、ハッと気づいたようにアーロンが我にかえる。

「いや、そもそも……どうなってやがる……!?」
「そうです、さっき峡谷の沼で……」
「……知性と人格、記憶の全てをAIとして“変換”したのでしょう。」

キャラハンを見つめながら、リゼットが言う。
考えるように目を伏せて、そして開いて。

「恐らく≪ゲネシス≫の力で……ーー人としての“枷”を外れて≪技術的特異点≫その物とならんがために!」

峡谷の沼で息絶えた姿で発見されたキャラハン教授。
その姿を確かに裏解決屋一向はその目で目撃していた。
何をどうやってやったかまでは解らないが、しかしそこには≪ゲネシス≫が関わっていることは明白だった。

的確にキャラハン教授の状態を言い当てたリゼットを見て、メルキオルは体ごと振り返る。

「ウフフ、そこまで見抜くのか。思った以上に厄介なメイドだなぁ……。」
「メルキオルーーー悪い癖です。この場での目標は達成されました、行きましょう。」

イラつきに黒いオーラを纏ったメルキオルだったが、それはオランピアに諌められる。
その言葉に肩をすくめて手に持っていた武器を懐に戻して。

「はいはい、そうだね。ーーーそれじゃ、教授もまた後で。」
『ああーーー待っているよ』

その言葉を最後に、キャラハン教授を表示していた電脳の画面は閉じる。
それを確認するとオランピアがイシュタンティに指示を出し、アウローラに取り付けられていたゲネシスを回収する。
オランピアはイシュタンティに大事そうに抱き上げられるように、メルキオルはぶら下がるようにその装飾部に手を伸ばした。
そしてその時にはすでに、中央端末≪アウローラ≫に無数のボムが取り付けられておりーーー

メルキオルの手際の良さに行動は遅れた。
爆発物を検知して警告を出すFIOの電子音が響く。

「! ≪アウローラ≫が……!XEROS!スタンモードで封じてーーー」
「おっと、それはダメさ!」

メルキオルの投げたナイフはXEROSに直撃し、小さく鳴き声を発した後地面に臥した。
それを見て、打つ手がなくなったカトルはパルスガンを構えたまま飛び出していく。

ヴァンが止める時間もなく、小さな影は彼の横を通り過ぎた。
一瞬遅れてヴァンが、アーロンが駆け出す。
ヴァンの掴もうと伸ばした左手は、しかし空気を掴むだけだった。

「よせえええっーーー!!」

ヴァンの静止の声も、カトルには届かない。
今の彼には博士の場所である天文台を守ることしか頭になかった。
それを見てメルキオルは楽しそうに笑い、掴んでいない方の手でナイフを取り出すーーー。

そんな時一人の女性の足にばちり、電気が走るような音がした。
それは瞬間的に超加速を生み出し、一瞬でヴァンを抜き去り、カトルの肩を掴み後ろに放り投げる。
ーーー加速は止まらない、そのまま真っ直ぐに、爆発寸前の天文台に進んでいく。

驚いたような顔をして後ろに飛ばされていくカトルの顔をリゼットは見る。
一瞬だけ悟ったように目を伏せて、カトルに向かって優しく微笑んだ後。
それを塗り替えるような赤に視界が覆われる。

リゼットはこの加速についてこれる人間がいることに目を見開いた。
そして同時に焦りと恐怖の感情が生まれる。
この身は機械で構成されており、四肢の一つや二つ紛失しても死にはしない。
けれど、今リゼットの腕を掴み、引き寄せるこの人はそうではなかった。

ヴァンが絶望したような声音でその人の名を叫ぶ。
そうだ、この人を死なせるわけにはいかない。リゼットは防御シャードを展開しその身で庇うように覆いかぶさった。
その意図に気づいたカロンは苛ついたように舌打ちした後懐から拳銃を取り出す。

カロンが引き金を引くのと、メルキオルがボムにナイフを投げるのはどちらが早かったのか。

大量に仕掛けられたボムは大爆発を起こす。
それは全ての視界を遮ったがーーー空中に浮いていたメルキオルは、確かにその視界に捉えた。
すぐに煙幕に遮られたがその威力の痕跡は確かに、天文台の壁に大穴を開けるという証拠を残す。

「その一撃は“流星”であり“龍星”であるーーー。運命を越える永き尾の輝き……。」

メルキオルが見ているなら、当然オランピアの視界にも映る。
ガーネット、トパーズ、シトリン。
まるで様々な燃え盛る色を持つ宝石が溶け合ったようなレーザー状の一撃はボムの衝撃に負けることなく。
迫る濁流を文字通り力づくで押し流した、まさしく星の奔流ーーー目が眩むほどの光彩。

爆風は止み、視界が晴れる。
そこには突き刺したガンブレードで体を支え、残った体全体でリゼットを守るように身を丸くしたカロンの姿があった。
遠目から見る限り四肢の欠損はないーーーヴァンは駆け寄り、背中に腕を回し彼女が抱えているリゼットごと抱き寄せた。

「カロンッ!リゼット……!!無事か!?」
「私はいい。それよりも、リゼット……。」

遅れて駆けつけた一行は信じられないものを見た。

「……………ッ…………。」
「アハハ、妙な気配はしてたけどそこまでだったんだ……!?これも“あの皇帝”辺りを観測・研究した成果なのかな!?」
「マルドゥック社……想定以上と言うべきでしょうか。」

動揺しているヴァン達を差し置いて、方や楽しそうに笑い、方や、何処か羨望が混じった声でリゼットを褒め称える。
天文台の外にアルマータの高速艇の姿が映った。

「おっと、噂をすればか。ーーそれじゃあ今日は退散するよ。」
「同じ“傀儡”に関わる身として敬意を表しますーーそれでは。」

メルキオルとオランピアが乗ったイシュタンティは、窓の外に消えていく。
現れた高速艇はメルキオル達を回収したのちに彼方へと消えていく。
入れ替わりにそれよりも巨大な艦がバーゼルの空に浮かんだ。
ヴァンはその巨大な船を下から見上げるように眺める……。





窓の外に向かって去っていくアルマータと高速艇
その後マルドゥックの巨大艦船が来訪。

それをヴァンは下から見上げるように眺めて。
言葉にすることが出来ない面々に、後悔するように自分の体を片腕で抱きしめ、俯くカトルと。
カロンは抱きかかえたままだったリゼットを離し、ゆっくりと横にして肩を抱き上げる。

「ごめん、ショートさせてしまった。」
「元々加速した時点でオーバーフローでしたので……。私を庇われてしまいましたが、お身体は……。」

欠損こそはしていないもののーーー。
体には負荷がかかり、幾らカロンが軽減したとは言え爆風を受けた四肢……
特に左腕と右足はバチ、バチと電流が火花となり散っている。
その姿はーーーリゼットが人の肉体を持っていないことの証明だった。

「私のことはいい。……痛かったし、怖かったでしょう。」

愚弟のために、身を挺させてしまったことを許してほしい。
謝罪するカロンを見て、リゼットはその頬に手を添える。

「貴女がいなければ四肢も失っていたことでしょう……。……心配して下さって、ありがとうございます。ですが貴女も治療を……。」
「……うん、解った。だから今はゆっくりおやすみ……。」

リゼットを抱えたまま、その頭を優しく撫で付ける。
柔らかくて、優しい感触、温かい温もり。
それを感じてリゼットは静かに瞼を落としたーーー。



茜色に染め沈みゆく


(カロンさん、今応急処置を……!)
(ありがとう。左腕を頼んでいいかな、両手撃ちなのに片手で撃ったから反動がひどくてね。)
(ヴァンかアーロン、リゼットを任せてもいい?)
(俺が運ぶ。オッサンは流星を運んどけや。)
(いやそこまで酷い状態じゃないから。とにかくリゼットを優先して。次に自分を優先しなさい。)

2022/8/14

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