共和国の旧市街で裏解決屋という仕事をしている男は、飽きもせずに一人の女をずっと探している。
裏解決屋の仕事をこなして行くと、必ずその噂話に当たる。
とは言えど、噂ではなく本当のことであり。
所長であるヴァン・アークライドは長い時間をかけながら、行く先々で探している。

クレイユ村、煌都、サルバッドでも。
時折誰かを探すような素振りを、心当たりがありそうな人物に聞き込んだりと。
そうして誰も知らないと言われ、どこか寂しそうに目を細めて。

けれどすぐに何でもないとでもいうように切り替える。
いつか会えると信じながら、あの男は今日も4spgをこなして明日も探すのだろう。

「一途に見えねぇオッサンがなぁ。」

リバーサイドで炭酸を飲みながら青年は呟いた。
椅子と見事なまでに赤い髪を揺らしながら。
そんなアーロンを見ながら、同じく飲み物を飲んでいたフェリが言う。

「見つけてあげたいですよねっ。」
「まぁあのタラシのオッサンがそこまで惚れ込んでる女お目にかかりてぇに決まってるわな。」
「確か……赤い髪に青色の瞳の女性。燃える太陽のような髪色が忘れられないと。」
「一番の特徴だなそれが。俺の髪の色とは違うってーのは聞いた。」
「名前はカロン・ローウェル!明日からバーゼルですし、ヴァンさんの目を盗んで聞き込みをしましょうっ!」
「ロマンチスト拗らせたオッサン程やっかいな奴はいねぇからな。」

アーロンやフェリ以外の……アニエスやリゼット。彼の昔の古馴染みに至っても。
自分以外の誰かが探すのに協力するとヴァンはあまり良い顔をしなかった。
次に開く言葉は決まって「俺が見つけるから気にすることじゃない。」の一点張り。

確かに10年近くずっと探しているなら、拗らせに拗らせるのも仕方ないのだろう。
そんな男が会いたがってる女に先に出会う―……それは中々に面白そうだとアーロンはほくそ笑む。
さて、どうやって探してやるか。そんな事を考えているとカラン、カランと扉を出る音が耳に入った。
その音を聞いてアーロンは炭酸を飲み干しフェリは紙カップを捨てに立ち上がる。

「たっく、人が聞き込みしてる間に呑気に休憩しやがって。」

上を見上げると、腕を組みながら此方を見下ろしてくる男が今話題に上がっていた人物がそこには居た。

「おいおい、オッサンが一人の方が都合が良いっつったんだろが。」
「はい!でも問題ありません。怪しい人影が居ないか等警戒は怠っていませんからっ。」

先ほどまで話した内容は悟られないようにしながら。
ヴァンの元に駆け出していったフェリの後をゆっくり、途中でゴミをゴミ箱に入れながら。
マイペースに歩きながらこっちに来るアーロンの様子を見てヴァンはため息を軽く吐く。

「とにかくこの依頼が終われば今日の仕事は終わりだ。駅前通りに向かうぞ。」





多少の戦闘はあったが、依頼は達成した。
依頼人とはオーバルカフェで待ち合わせし事の顛末を報告する。

東方風のガタイの良さ、その体格からして運送会社で働くのであろう男は快活に笑う。
クロスベルから荷物を運送していたその男は道中何者かに襲われた。
本来ならば強盗で警察に相談しに行くべき所、運んでいた相手先と時間の無さから藁にも縋る思いで4spgを出していた。

「いや半信半疑だったんだが助かった!また何かあれば依頼するぜ!!」
「次からはギルドや警察に頼むのを進めるぞ。最終的には確かにこっち側の依頼だったがな。」
「ガハハ!そん時はそん時だな!じゃぁまたよろしくな!!」
「おっと、おい、その前に少しいいか?」

受け取った荷物を抱えて足早に立ち去ろうとした男の背にアーロンが「待った」をかける。
少し目を丸くして振り返った男に問うた。

「燃えるような赤い髪に青色の目。カロン・ローウェルっつー女について何か知らねぇか?」

バッと勢いよくアーロンに振り返るヴァンと、更に目を丸くした依頼人。
こりゃあとで小言だな、内心うんざりしながらも依頼人から視線は外さない。

「龍老飯店に時々来る姉ちゃんのことか?昨日店で会ったぞ。」

俺はクロスベルの仕事に行ったら必ずそこの店に食いに行くからまぁ顔見知りだな。
ビックリするくらい綺麗な赤い髪だから居たら目立つのなんの。時々一緒に酒も飲むぜ。
考えることもなくさも当然に言い放つ、その依頼人に思わず固まる。
10年近く探した人物の情報が、こんなあっさりと手に入るとは思わなかったから。

「あ、あの!今はどんなお姿ですか?!特徴は……。」
「なんだなんだ?」

ぐいっと詰め寄るフェリに押されながら依頼主は思い出すように特徴を言う。
編み込みをしながらまとめた髪を左側にアップにしてまとめている。
黒の革製の膝丈までのジャケットに、銀色に鈍く光るガンブレードが良く目立っていた。

「バーゼルにいつもより長めに滞在するとかぼやいてたな。」
「バーゼル?!」
「おう、マスターと喋ってたな。俺は最後まで話を聞く前に仕事で出たが……昨日で今日だろ?長めっつってたしまだ居るんじゃねぇか?」

じゃ!俺は仕事があるから!!またよろしくな!!
そういって去って行った依頼人の背中をヴァンは茫然と見やる。
アーロンからの生暖かいような、どこか呆れたような、そんな視線を。
フェリがとても嬉しそうにやりましたね!ヴァンさん!!なんて言ってくる声も
どこか遠くに感じながら。

バーゼルに長めの滞在。クロスベルから昨日出発した。
長めということは大体短くても1週間はある。つまり、ということは。

「……会えるのか?」

言葉と思考がぐるぐると反復し、繰り返される。
それが実感できたと思うと声が口から洩れた。
その声を、耳が拾うと途端に心臓が暴れだす。

会いたかった、10年も探し続けた。
何で今まで会えなかったんだと、探してるの知ってただろとか、感情が驚愕から不満に変わっていく。
けれど、不満は今度は形容しがたい感情に染められていく。

会える、会える、会える。
バーゼルは確かに広いが首都程ではない。
裏解決屋として人探しは幾らでもやってきた。
あの特徴的な赤い髪の女を見逃す筈もない。
サイドテール、黒い革のジャケット、ガンブレードは恐らくあの時の頃と同じ武器で……。

「いってぇ!」

そんな事を考えていると背中を思いっきり、強く蹴られた。
よろめく体をうまい具合にフェリが支えて体をぐるっと反転させてきた。

「バーゼルか。安心しろよ、オッサンより早く見つけてやっから。」
「俺が一番先に見つけるってんだろうが!!後お前今蹴りやがったな!!」
「そんな事よりヴァンさん!早く寝ないと!!最高のコンディションで臨みましょう!」
「ハン、どうせ興奮して寝れねぇだろ。」
「うるせぇ!!」
「ま、俺は早く帰って寝るか。明日バーゼルについてからが勝負だしよ。」
「私もお手伝いします!ヴァンさんがずっと探している女性、会ってみたかったんですからっ!」

ヴァンを蹴り飛ばしておきながら楽しそうに笑うアーロンとフェリ。
その姿を見ていると大暴れしていた心臓が自然と落ち着いて行った。

ともかく浮かれている場合ではない。
公太子とCID共同依頼という事もあり、バーゼルでも大きなトラブルに見舞われるのは間違いのないことだ。
気を引き締めてとりかかる必要がある。だけれど、やはり、それでも。

窓を見ると夕暮れから夜に変わっていく。
キラキラと瞬く星空が広がって行くのだろう。
あの人は……カロンはよく星を見ていた、それ故にヴァンもよく星を見る。

今頃バーゼルで同じ星を見ているのだろうか。
いつか隣に立って同じ星を見たいと、思っていたのが、それはようやく叶えれるのだろうか。




それは通り雨のように突然降りそして突然と晴れるのだろう


(ヴァン様、バーゼルでのサポートはお任せを。)
(おい何でリゼットが知って……アーロンとフェリだな?!)
(アニエス様もご協力くださるようですし……。)
(大丈夫です。絶対に会えますよ。)
(…………あぁ、ありがとな。)


(カートルー!久しぶり〜!!!)
(うわ、カロン姉?!)
(ヤンとビル居る?飲みに行きたいんだけどさ。あ、エスメレー!!エスメレーも飲もう!!)
(え"……この忙しい時に……?!もうちょっと余裕がある時に来てよ……!)
(カロンちゃん〜お久しぶりですね〜!飲むのはちょっとあれですけど、ご飯でしたら〜。)
(いいよ!……ビル!!飲みに行くぞ〜!!)
(待ちたまえ……!なんでこの忙しい時に疫病神が居る……?!いや、そもそも私は忙しい!!)
(めっちゃやつれてんじゃん。ご飯食べてる?)


2021/11/23

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