侵入者を見つける手がかりが増えると言ったヴァンのセリフに、カトルは導力ドローンでもあるFIOが未登録人物の侵入を感知したと伝える。
バーゼルが発行しているカードも使用された痕跡は無く。
しかしながらバーゼルが採用している警備システムは容易に潜り抜けられるものではない。
更に言うならばザイファベースの導力ドローンが感知したのであれば誤作動もありえないだろうと。
リゼットが言った発言に、FIOも確かに記録したと肯定を示した。
そしてヴァンは何かに勘づいたように目線だけ構内の方に視線を移し、戻して。
「……ま、そういうことならやるだけやってみるか。―――カロンが居るとは言え、アンタたちも一応手伝ってもらうがくれぐれも気を付けてくれよ?」
「おっと厚い信頼は嬉しいね。お姉さん張り切っちゃおうかな。」
「カロンちゃんは護衛として優秀だもんね〜。今度またお願いしちゃおうかな。」
「まぁ、こちらの心配は要りません。FIOとXEROSもいますしね。」
ふわふわとしたエスメレーの掛け声に合わせて、FIOとXEROSもまた索敵開始の意思を現した。
その行動にアーロンが若干緊張感に欠けてんだよなぁ、とほんの少し困ったような笑みを零して。
「そいじゃ、2チームに別れようか。ヴァンと私は別れるとして……エスメレーはこっちね。」
「まぁ、そうした方がバランスがいいか。お前がそっちに行くなら問題はねぇだろうしな。」
「じゃぁ構内の案内もあるし僕はヴァンさんの方かな。カロン姉、XEROSを預けるね?」
「了解。まぁ構内だし、万が一にでも戦闘音が響けば場所の特定も容易でしょ。」
そうしてヴァンが従業員に振り分けを指示を出す。
ヴァンと、カトル、フェリにFIO。
カロンにはアーロンとリゼットにXEROS。そしてエスメレーが。
リゼットが此方に偏ってませんか?という問いに。
「万が一にカロン姉がキャラハン教授に掴みかかるようなことがあった時に戦力が必要になるから……。」
「あ〜〜〜〜。確かにね。面みたら理性の保証ができないな。」
「おいおい、暴走機関車かなんかかよ……。」
「面見なけりゃ大丈夫大丈夫。よ〜っしアーロンとリゼットだっけ?さっさと構内に入って索敵しよっか。」
リゼットの肩に手を乗せて、カロンは一瞬驚いたように目を軽く見開いたがすぐにへらりと笑いかけた。
その笑みを見て、リゼットもほんの少しだけ、困ったように口元に笑みを浮かべて。
昼間の構内とは違い、夜の構内は雰囲気がある。
コツ、コツ、という足音はよく響いていたが、それでも幾分か、1人で構内を歩き回るよりかはマシな状況だった。
ヴァンの方について行った小さな少女は、若干怯えていそうだけれど。
そんなことを思いながら、XEROSの反応を見逃さないように、自身も周りに注意しながら辺りを確認していく。
相手に恐らくこちらを害する気はないとはいえ、中々の手練れであることは想定出来た。
何はともかく、このタイミングでの騒動はあまり好ましくないのは確かだった。
カトルやエスメレーは異常の確認が主だけれど、裏解決屋はまた違うピースを求めて侵入者を探している。
やれやれ、本当に面倒な時期にバーゼルに寄ってしまったものだ。
カロンはそう思いながら、この後も恐らくつまりにつまりまくった予定を考える。
今日天体観測できないなら本当に話にならない、けれどヴァンとも会う約束をしている。
最悪自前の天体望遠鏡や双眼鏡はあるけれど、やっぱり質が違う。
ジスカールにミラに糸目はつけないから、と最先端のレンズを含めた発注を頼んではいるけれど。
……これ以上の面倒ごとは、あまり起きてほしくないものだ。
「そういやあんた、ヴァンの事はどう思ってんだ?」
「うぇっ?」
予想外に過密になってしまった夜のスケジュールをどう整理するか考えてると背後から突然声がかけられる。
同じ赤色ではあるけれど、違う煌き方をしてる髪が特徴的な青年は、ヴァンがベタ惚れってのは知ってるけどなぁ?と何もオブラートに包むことなくストレートに投げて来た。
アーロンの発言にエスメレーはキャ〜ッ!と騒ぎ出すがカロンはその口を片手で抑えて、眉間に皺を寄せる。
「ん〜!!」
「いや、いや…………10年も会わなかった女に?マジで言ってる?」
「えぇ、それは保証致します。ヴァン様はずっと、そういう意味も含めてお探しになられていましたよ。」
「困ったなぁ……。いや本当に、カトルと同じように弟分としか思ってなかったんだけど……。」
「まぁ、あの時奥に行ったときなんかあったんだろ?クク、キスでもされたかよ。」
「されてないけど?!」
爆弾発言をガンガンと投げつけてくるアーロンに対しカロンはしどろもどろにならざるおえなかった。
彼女にとってそういった色恋沙汰は親友や、古馴染たちに対して自分は応援をする者だとして。
よもや自分が当事者になるとは、まったくもって、想定外な事態であって。
「あら、ですが夜にお会いする予定があったりするのではないですか?」
「〜〜〜〜いや、まぁ、確かに、そういう約束はした、けど。」
「ヴァン様も、カロン様も少し頻繁に時計を確認されていましたから……。」
「ぷはっ!え〜〜〜カロンちゃんそういう相手居ないって言ってたのに〜!!でもすっごいロマンチック!!」
「なんならこっちは俺たちに任せて、二人抜けても構わないぜ。」
「それはダメでしょうが!!いや、なんでこんな筒抜けなの?!」
アーロンに、リゼットに、そしてエスメレーに、関係性を煽られて。
この場にいないヴァンが、本人すら直接的にはまだ言葉にこそしていないそれを、ストレートにカロンにぶつけてきて。
もはや耐え切れず、思わずXEROSを抱き上げて盾にした。
筒抜けの理由を聞いたら、裏解決屋を知ってる連中ならほぼ全員知ってる話だと聞かされてうめき声を上げる。
「あ〜〜〜〜!!これ以上は本人も居ないしダメダメ!憶測かも知れないでしょうが!!」
「ねぇな。ま、これから二人っきりで会うってんなら嫌でも解んだろ。」
「…………。……は〜……まぁ、想定はしとくよ。今はそれよりもやることあるでしょう?」
追求に頭を軽く横に振って、ため息を吐く。
盾にしていたXEROSを床に戻して、パン、パンと両の手のひらで空気と話題を切り替える素振りをして。
それに対して誰からも異論は無く。
むしろアーロンやリゼットからしたら、特にアーロンは言葉には絶対にしないであろうが。
長年探し続けた相手との時間を少しでも長く取ってもらう方が良いと。
ぱた、ぱた、と落ち着かせるように手で顔の熱を冷ますように仰ぐカロンを見て、2人はそう思った。
はぁ、とカロンはほんの少し熱く感じるようなため息を吐き出して、冷たい空気を深く吸い込む。
肺がひやりとした空気に満たされると、脳も冷えて来たように感じた。
それと同時に、ゆらり、と空気が揺らいだように感じた。
姿はない、けれど、何かが動いた。
それと同時にXEROSもまた、カロンが違和感を感じた先に向かってグルルル、と唸りだした。
「フン、下の階には何もなかったが……。」
「あちらも調べてみましょうか。」
あっちは会議室の方ですね〜、と歩き出したエスメレーの右側に立つようにして。
ガチャリ、とアーロンがドアを開ける。
「あん、何もねーじゃねぇか。」
大きなモニターに、四方向かい合うように長机が置かれている会議室は誰一人居らず。
呆気に取られたような声で、怪訝そうなアーロンに対しエスメレーが首をかしげて。
けれどXEROSは警戒を弱めることは無く。入って来たドアの正面のドアに唸り声を上げていた。
―――閉まっていた筈のドアは、静かな音を立てて開き。
XEROSが駆け出し、それに合わせアーロンとリゼットも駆け出した。
「エスメレー、抱えるよ。」
カロンもまた、返答を聞かずに左腕だけでエスメレーを肩に担ぎ上げる。
軽い悲鳴と抗議の声が聞こえたけれどそれに答えることはせずに。
ジャケットのポケットから小さなサイズのスーパーボールを取り出して掴んだ。
相棒に付き合う冒険で、トラップ等を反応させるために仕込んでいたものだったけれど。
会議室を飛び出すと、2階に上がって来たヴァン達が走っている別チームに驚いた顔をしている。
ボールを一回手の上で投げて、掴んだと同時に目には見えない、けれど恐らくそこにいる人物に対してめがけて投げつけた。
反応は有り、対象にぶつかって跳ね返ったボールをまた片手で回収し、ボールが跳ね返った位置と勘を頼りにヴァンが掴もうと手を伸ばした。
あと一歩、惜しい所でその手は空を掴み。
「おい、今のは……!」
「ステルスシャード、だけじゃねぇな。」
「ええ、おそらく複合的な……。」
「足元狙って転倒させれば良かったな!どこに行ってもステルス系はめんどくさいのなんの!!」
夜の追いかけっこは、FIOやXEROSに搭載されていた熱源反応を用いたことによる確保で幕を閉じることになった。
XEROSに押し倒されていた女性は、もうバレたのだからと堂々とソファに座り込んでいる。
CID所属の特務少尉、カエラ・マクミランと名乗った女性は役職名はオフレコで、と一言付けて。
「……エルザイム公国からの依頼とは聞いていましたけど……。」
「なるほど〜……中央情報省も関わってたんですね〜?」
カトルとエスメレーの追求にヴァンは肯定を表す。
CEOの隠蔽を見越した、雇い先のもう一方であること。
彼もまさか、ザイファとRAMDAの複合ステルスで潜入しているとは思わなかった、がとカエラの方に向かって言う。
「……それについては余計な混乱を招いて失礼いたしました。“保険”の為調べるつもりがまさか感知されてしまうなんて……。」
理科大学の技術力を甘く見過ぎていた事を、謝罪して。
それを性能を誉められたと察知したFIOが喜ぶような素振りをして、カトルに誉められ、また喜ぶ素振りをした。
その光景にあぁ、可愛いなぁ。と微笑ましい視線を向けて居たら鋭い視線が向けられたのを感じる。
「……まさか、流星が居るとは思いませんでしたが。共和国方面は避けてると聞いていたのだけれど?」
「バーゼルが、特別なだけだよ。まぁそこは通り名の通りってとこで。」
「貴女に関しては不可解なことが多すぎます、後で少しお話をさせてもらっても?」
「ボールぶつけた件もあるしね。ここに滞在中の間なら。」
へらりと笑ったカロンに対して鋭い視線はそのままに。
「まぁそっちの事情はさておきで、だ。アンタはこの地の状況を見て、独自に動く必要があると判断した―――そんなところか?」
切り込んだ追求に対して、カエラは何も答えずただ瞼を閉じた。
カトルが困ったように視線を俯かせ、エスメレーもまた昨今の状況には困っていると首を傾げる。
度重なる導力ネットのエネルギーの不調は確かにあまり看過は出来ないものだった。
エスメレーの所もまた、何とか復旧は出来たものの一時的にエネルギーがダウンした。
これでは研究も思ったように進めることが出来なくなってくるだろうとも。
「えと、結局どうしてそんな事が起きているんでしょう?」
「……一つ、心当たりがあるとすれば。異常な処理負荷を伴うような“並列分散処理”でしょうか。」
「うーん、専門外ですけどやっぱりそれくらいですよねぇ。」
「……ええ、私もそれを睨んでいます。」
専門的な会話が始まりかけた時、フェリとアーロンが付いていけない、というニュアンスを主張する。
今から何が説明されるのか、察したカロンは腕を組んだまま、ほんの少しだけ瞳に影を落とした。
「……近年、導力演算器は急速に大型化、高速化されている分野だ。それに合わせて、導力の消費量自体も上がっていると聞いたことがある。」
本来オーブメントは駆動に必要な導力を自然回復する特性を持っている。
けれど計算が複雑且つ膨大になった場合、消費量が回復量を遥かに上回ってしまった場合。
その時は外部の導力供給網に頼る必要があること。
そして仮に、導力供給網までもが過剰に消費された場合……。
それは一時的なエネルギー網の低下に導力ネットのトラフィック増大を引き起こす。
裏解決屋が調べていた現象に繋がることは否定しきれなかった。
「……ですが、流石に不可能ですよ。これだけの大規模な分散処理だなんて。しかも導力供給網まで制御しているなんて現在の技術じゃそこまでは……!」
「そもそも“導力”そのものが完全に解明されてない現象だからねぇ。あ、でも……」
「ええ―――似たケースが近年あった筈です。」
あのクロスベル再事変での前後。
現代技術ではあり得ない超大規模の分散処理から始まった奇蹟と災厄。
それが小規模とは言えど、共和国でも同じ現象が発生していることをカエラが述べる。
リゼットもまた、当時の状況分析をしていたマルドゥック社としても同意見であることを告げた。
そうして、サルバットでもまた再事変と同じようなことが起きていた……。
話題の展開が速くなるにつれて、カロンは静かに瞼を閉じて。けれど腕を掴んでいる指にはギリ、と力が込められていた。
クロスベルという地は特別だった。けれど、もしクロスベルという都市に意思があればその地は、さぞかしカロンのことが嫌いだっただろう。
何せ、誰一人として、また、何一つとして。
戻って来たときにはもう、全てが後の祭りだったことがそれを示唆していた。
古馴染の家庭も、そいつと親友の衝突も、死も、……4年前から続いていた騒動ですら。
どれ一つとしてその場にいる事は叶わなかった。
これが嫌われてないというのなら、何を嫌われてると言うのか。
だというのに。
今更、いや、クロスベルが関わっているかは定かではないのだけれども。
けれどそれに関わるような出来事が、事件性が、今のバーゼルにはあって。
自身がそれに今、除け者にされることもなく、関わっているような……。
形容しがたい感情が彼女を駆り立てるような衝動を確かに感じた。
音も出さずに、肺に溜まった息を吐き出して瞼を開ける。
相変わらず導力ネットに関する議論をし、カトルが声を荒げている最中。
ただ一人だけ横目で此方の様子を確認してきた男に、困ったように肩を竦めた。
まったく、目敏い男に成長したものだ。
「…………?っ、この番号……!」
そうしている間に、カトルのザイファに着信が入る。
着信相手の番号に気づいたカトルは、慌てて電話に出た。
『……サリシオン君、か……?』
「キャ、キャラハン先生?……どうしたんですか……?」
『……すまない……どうやらしくじってしまったようだ……。……どうか、止めてくれ……あいつらは、私の―――』
ザイファからキャラハン教授の悲鳴と、此方まで響いてくる程の衝撃を伴った爆発音。
カトルがザイファ越しに必死に教授に声をかけ続けるが、ヴァンの行動は早く特別研究棟に向かって駆け出して行く。
たどり着いたその研究室は、おそらく窓からの奇襲を受け、何発かの爆弾により爆破され。
床に倒れ伏した研究員の中にキャラハン教授の姿は無く。
ただ夜闇にカトルの叫び声が響くだけだった。
カーテンコールは爆発音と共に
(もし本当にこれがクロスベルの再事変の再現とやらなら……。)
(……明日、バーゼルが荒れそうだな。)
2022/1/22
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