カラリと、氷の絡まる音が響いた。
「えっと、君が噂の神孫子ちゃんだよね?初めまして。おれ、犬飼澄晴。」
「初めまして、神孫子凪です。」
ファミレスにて向かい側の席に座る二人、荒船さんと犬飼さんを見て私は水を一口、口に含んだ。
「早速ですが本題から、荒船さんに紹介されて私のところに来たのですよね?犬飼さんは。」
「まぁ、そうだね。」
「それですが、犬飼さん、あなた結構視える人でしょう?辛いですよね。嫌なものばかり視えて。あなたに憑いてるソレも見えたんですよね?」
視えたものを口に出してけば驚いた顔をする犬飼さん。そりゃそうだ、こっちは一応職業としてやっているのだからこれくらいは出来なければ。
「...水上や荒船が言った通り確かに神孫子ちゃん凄いんだね。」
「まぁ。それで、彼女を祓えば?」
「...うーん、あのさ、おれって疲れやすいタイプ?」
「えぇ。幽霊も所詮元は人間。人に好かれやすい人に寄り付くシステムです。」
「...ざまぁないな、少し。」
荒船さんが少し呟く。
「ちょっと、荒船???」
「まぁ、御守りでも持っとけばいいと思いますよ。それで、今あなたに憑いてるものなのですが、今祓いますね。少し後ろ失礼します。」
強くない霊だ。適当に手で叩いとけば消える。大人しく背中を差し出した犬飼さんの近くにいる女の霊を叩く。丁度いい、他の死霊や生霊も祓っておこう。
「終わりましたよ。」
「早くない?」
「そこまで強いものじゃありませんでしたし。それに...」
生霊をここで降ろすことは出来ないわけでわざわざ降ろす時間が必要なかったから、というのは言わないでおいた。面倒な目には会いたくないのでね。
「まぁ、これはいいとしましょう。それで、犬飼さん、あなたは視える人ですが、これについてはどう致しましょうね。」
「え、どうにか出来るの?」
「いいえ。視える人を視えないようにするだなんて前代未聞ですよ。ただ、おまじない位は出来ます。祓う力がないのに視えるのは危ないですからね。」
首を振ってある程度の説明をする。
「やっぱり?これまでまれーに視えちゃった時いつも目合わせないようにしてたんだけど、」
「正解です。相手からしたら自分が視えるのに祓う力がないなんていい餌。」
結局、霊なんてまやかしだと思ってるくらいが丁度いいのだ。
「...それで、そのおまじないってなんなんだ?」
「少し待ってください、荒船さん。おまじないっていうのはまぁ、自分に悪意のない霊限定で視えないと認識するという一種の暗示です。トラブル防止ですね。暗示っていうのは範囲が狭ければ狭いほどいい。今回は弱い霊範囲で強い暗示を掛けさせてもらいます。」
「へぇ。そんなことも出来るのか。」
少し顔を赤めて反応をしてしたのは荒船さん。前に言っていた映画好きというのは相当のようでそういった摩訶不思議な話が面白いらしい。
「人間も霊も認識出来なきゃ意味なんて為さない、かつてそう考えた父が編み出した案です。」
「神孫子の父さんもそういった仕事を?」
その質問は的を得ていた。
「そうだったらしいですね。」
「じゃあ本当に代々って感じなんだね。」
「はい。父方の家系、神孫子家はそういう家系だってお祖母様から聞いたことがありました。」
「お祖母様?」
キョトンと、犬飼さんは首を傾げた。
「なんでしょうか?」
「お祖母様って呼んでるの?」
確かに、他の家庭では言わせるところは少ないらしい。
「まぁ、はい。母にそう呼べと言われていたので。」
「へぇー、なんか神孫子ちゃん結構厳しく育てられた感じ?」
「いいえ。常識的で温厚な人でしたよ。ただ、お祖母様や神孫子家関連のことは少し厳しかったですね。」
「やっぱりその神孫子家ってのは凄い家系なんだな。」
恐らくそうであると思う。一時期は天皇家のために暗躍していたという話も残っている。
まぁ、実際のところもう私と神孫子は直接的な関係はなくただ名前を借りているだけの状態なので真相は分からないが。
「多分そうですね。」
「というか!さっきから気になってたんだけど神孫子ちゃんなんか他人行儀過ぎなーい?」
「まぁ、確かにそうだよな。」
「...慣れてないんで。」
「えー、慣れてよ。」
面倒くさい。
「...それに 、営業モード、と言うやつです。」
「あー、神孫子は商売やってるって言ってたもんな。」
「え、そうなの!?すご!!」
顔を輝かせる犬飼さん。少し眩しい...。
「ま、まぁ。」
「どこ高?」
「三門第一、です。」
「えー、神孫子ちゃん頭良さそうなのに。」
「特待生の学費免除が欲しかったので。」
「んー、それじゃあ、ボーダーとか入ればいいのに。色々免除してくれるよ?」
それはあると思う。が、
「怪しげな商売してる私がボーダーに入れると?」
「怪しげな商売って...自覚はあったんだな。」
「客観的事実です。」
「でもそれなら余計入ればいいのにな。生計立てるの大変だろ?」
「んー、それなりには。」
「まぁ、無理強いしても仕方ないしね、興味あったら是非おいでよ。」
気が向いたら、と常套句を返しておいた。
多分だが私はボーダーには入らないと思う。私に予知とかそういった力はないが思うのだ。
だって私には、私がボーダー隊員として活躍するビジョンが見えないのだから。
それこそ、私の未来図を変えてしまうような超能力者みたいなやつが現れない限りは。
私はまた一口、目の前の水を口に含んだ。
◆
「あ。」
「ん、どうしたんだ?」
「あー、いや、少し未来が変わったんだ。」
「変わった?どういう風にだ?」
「いやー、ね。まだひとつの可能性なんだけど、ボーダーに才能があるやつが近いうちに入るかもしれない。」
「そうか!それは嬉しいことだな!」
「嵐山は相変わらずだなー」
「ん?迅も変わらないぞ?」
「そういうことじゃないんだよなぁ。」
未来図は見えなくても、未来はある。