「どうしてこうなるのやら。」
左から、ニコニコと笑う少女と呪い、イケメン、イケメン。
犬飼さんに呼び出されてみれば本人はいなくこのザマ。勿論私はこういう話に優れている。それは認めよう。ただ、これは慈善事業じゃないんだぞ。
「一応同じクラスだけど、ぼくはスミくんに紹介されて来た王子一彰だよ。よろしくね。」
「同じく犬飼に紹介されて付き添いに来た蔵内和紀です。今日は忙しいところ急にすまない。」
「お二人に紹介されて来ました、綾辻遥です。よろしくお願いします。」
なるほど、これは厄介だ。
「こちらこそ初めまして。神孫子凪です。」
「なるほど。なら、アビコスだね!」
あびこす???なにが?もしかして私のあだ名??
「...取り敢えず、お伺いしたいのですが、今回お祓いを受けたいのは綾辻さんでお間違いないですよね?」
「え、そうです!凄いです!何も言ってないのに...」
眩し...可愛らしく笑う綾辻さんを視る。
「いえ、呪いが付与されてたので。最近、なんだか調子が悪いことが多いんですよね?あとはまぁ、人の視線を感じるとか。」
「それって、どんな呪いなんだい?」
「...寿命が縮む呪い、顔の皮が剥がれる呪い、あとはあなたの一部になりたいという呪い。前者ふたつは明確な悪意、後者は違う人による無意識的な呪いですね。後者はともかく、前者は対処が必要ですね。」
「え...」
「それは...でも、どうして呪いなんかかけたんだ?」
「あなたに故意的な呪いをかけている人物ですが恐らく...蔵内さんに好意を寄せてる方によるものですね。」
「俺に...?」
「えぇ、そうですが?ところで、人間でいちばん醜い感情ってなんだと思いますか?」
「憎しみや憎悪じゃないか?」
「ですよね。あとは...嫌悪感とか?」
「いいや、違うね。嫉妬だろう?アビコス?」
その通りである。歴史上、優秀な和歌の中でよく読まれているのはやはり恋の句。人類は恋に落ち恋に踊らされ恋に溺れた。それは発展とともに沢山の感情を生み出したのだ。それ故に歴史に根強い恋心による嫉妬心はとても怖い。呪いの方法だって沢山ある。
穢くて醜くて見れたもんじゃない感情なのだ。
「正解ですよ、王子さん。さて、戻して、綾辻さんは恐らく第三者から見て蔵内さんと関わりがあるのでしょう。それで蔵内さんに好意を寄せており綾辻さんに嫉妬心を燃やしたある女が綾辻さんに呪いをかけました。それが今回の事の発端です。」
「解除方法は勿論あるんだよね?」
「当たり前でしょう?しかし、ここで選択してもらいますよ。」
王子さん、知ってるな、これは。全く誰から聞いたのやら。案外ネットかもしれない。あそこは穢いからな。
「方法が二つありましてね。まずは、呪いをかけたご本人様に会いに行って解除してもらう。もうひとつは、呪詛返しです。」
「呪詛返し...?」
首を傾げた綾辻さん。まぁ、結構有名な話だがこういった話に疎いのなら知らないのも仕方ない。
「はい。呪詛返しとは読んで字のごとく、呪詛を返すこと。すなわちまぁ、掛けられた呪いを返すことです。」
「それって...」
「掛けられた呪い、そしてその代償。彼女はその二つを払うことになるでしょうね。けれども自業自得、因果応報。私としてはこちらがおすすめですよ。手っ取り早いですしね。」
「それじゃあ、その子はどうなってしまうんですか、?」
「己の醜い姿に耐えられるのなら生きるんじゃないんですかね?」
呪いっていうのはそういうもんだ。自身の恨み辛みを人に乗せる。呪いを運んでくれるやつってのはお世辞にも綺麗とは言えない存在。穢れである。穢れは慈善事業なんて決してしてくれない。代償が必要なのだ。だから術者はそれを覚悟して呪わなければいけない。
失敗したら?
そんなもの、因果応報。人を呪わば穴二つだ。
「勿論、許せません。けど流石にそれは可哀想だと思うんです。いっときの感情で人生が狂ってしまうなんて。」
「いっときの感情?違いますね。何度も何度も呪いをかけた跡があります。彼女はあなたを何度も何度も、効果が出るまで何度も、呪い続けているのですよ?」
「それでも、お願いします。女の子は可愛い方がいいですから。」
綺麗だ。彼女に呪いがなかなか掛からなかったのがよく分かる。守護霊ですら綺麗なのだ。穢れが運ぶのに難航したのも頷ける。
「アビコス、君の負けだ。」
仕方ない。綺麗なものを見せてもらった礼だ。最善を尽くそう。
「いいでしょう。さて、あなた方の学校にお邪魔させていただきますよ。」
私の負けである。
「それじゃあ早速だけれども、制服を手配しなくてはね。」
制服の手配??
「ちょっと待ってください。どういうことですか?」
「読んで字のごとく制服の手配だよ、アビコス。六頴館高校に潜入するんだ、六頴館の制服は必須だろう?」
確かに、そうかもしれないけれどわざわざそんなに制服を貸してくれる人物なんているのだろうか?
「王子、貸してくれる人物の目星は着いているのか?」
「ですよね。在校生じゃ難しいですしね。」
「取り敢えずはね。アビコス、君にはまた連絡するよ。」
すごく嫌な予感がするがまぁ、いい。
「分かりました。それでは。」
席を立つ。
「神孫子さん!本当にありがとうございます。」
「...まだ終わってないからね。」
綺麗なものには綺麗な念を、なんてな。
◆
「本当に借りてくるとは...」
普段のセーラー服と違うブレザーはなんとも言えない。しかも、身バレ防止で何故か色々変装させられてるし。
「わぁ!可愛いです!神孫子さん髪本当に綺麗なんですね!」
何故か、髪を弄られてるし。
普段はしないポニーテールで腰まで伸びる髪が随分と短く感じる。その上、前髪も横でピン留めされていて視界が明るく感じる。伊達眼鏡までバッチリ掛けてるため変装としては成功だろうが複雑だ。
「前髪ない方がいいんじゃないんかい?アビコス。」
「...早くかえりた...」
「神孫子さんもそう言ってる事だし早く行こう。」
そうだよ、早く終わらせてしまおうや。
「そういえば、もう放課後で結構な人数が帰っちゃったと思うんですけど、大丈夫ですかね?」
あぁ。別に心配することは無い。
「それなら大丈夫だよ。アビコス曰く、その人の所有物で分かるらしいからね。」
その通りだ。人間には残穢ってのがあってそれは人と人の区別がつくように違う。綾辻さんに掛けられた呪いから分かるのだ。
「えぇ。早く行きましょう。」
◇
教室を歩いていく。
......視線を感じる。まぁ、生徒会らしいの二人がいるから仕方ないのかもしれないが。
「神孫子さん!?」
私の名前がした方を振り向けばいたのは荒船さんだった。
「...荒船さん。お久しぶりです。」
「お前、六頴館じゃないだろ?んでここに...」
察してくれてはいるのか小さい声で私に耳打ちする荒船さん。
「少し用がありまして。大丈夫です。用が終わったらすぐ出ていくので。」
「まぁ。会長たちがいる上、王子も入ってきてる様子からして察せるけどお前らなぁ...バレんなよ。」
「当たり前です。それでは。」
「あぁ。」
そのまま歩いていく荒船さん。言わないでいてくれるらしい。有難い。
「大丈夫だったかい?まさか、アラフネと出くわすとはね。」
「そうですね...あ、ここです。」
ひとつのクラスから感じる穢れ。私は指を指す。
「3年A組だね。クラウチのクラスだったよね?」
「あぁ。」
「教室の中には誰もいないみたいですね。神孫子さん、どうぞ入ってください!」
教室へ入り、穢れを探す。
あぁ...これだな。
「これですね。」
ひとつの机に触れた。机が可哀想だ。少し清めておこう。
「ここの席は確か佐伯さんの席だったはずだ。」
席の持ち主は佐伯さんらしい。
「それじゃあ明日本人に話を聞けばいいね。」
「そうですね。」
案外時間かからなかったな。
「それじゃあ早く帰りましょう。もう終わりましたし。長居は不要です。」
「はい!神孫子さん、本当にありがとうございました!」
「どういたしまして。」
◆
校舎の前で話した結果、蔵内さんが一人で呪った本人を刺激しないよう呪いをかけるのをやめて貰うようお願いしに行くらしい。
「本当にありがとう。またな。」
「こちらこそ。また。」
「ありがとうございました!さようなら、また会いましょうね!」
「いえ。また。」
「じゃあね、また会おう。アビコス。」
「あぁ。王子さん、あなたは少し残っていただけますか?」
「それで、話ってなにかな?」
キラキラとした笑顔で問われる。
「分かってるのによく言いますね。まぁ、わかってると思いますが言わせてもらいますね。
呪いをかけるような人間が話なんて通じるわけがないじゃないですか。」
「確かにそうだね。」
彼の目の前に小綺麗な猫の置き物を差し出す。
「ですのでこちらをお渡ししておきます。綾辻さんに用途をお伝えせずに、あくまでもオブジェとしてお渡ししといてください。」
私からオブジェを受け取った王子さんはそれをまじまじと眺める。
「これの効果は?」
「呪いを跳ね返す効果。ただ、それだけです。」
「そっか。分かった、僕から渡しておこう。」
彼はソレを鞄にしまった。
「ありがとうございます。」
「ちなみに、予想は着くけど、クラウチじゃなくてぼくにお願いしたのはどうしてだい?」
「そんなの...可哀想、だからですよ。」
女は、もうしないと約束してくれたそうだ。
しかし、数日後に呪いをかけた女は次第に登校しなくなり転校することになったと知らされた。
なんでも、いい病院がある市へ行くためらしい。
人を呪わば穴二つ。