不服そうだね。
校長の根津はそう笑ってすぐ後ろを着いてくるイレイザーヘッドを垣間見た。

「後見人…本当になるんですか」
「なるさ。実はすでに手続きは進めていたんだよね」
「彼が了承するかも分からないのに?」
「了承するさ。彼、帰るためならなんだってするだろうと思っていたし、実際そのようだからね」

確信を持って言う根津に、イレイザーヘッドは僅かに呻く。

「まさかとは思うんですが」
「新学期入学はね、試験終わっちゃってるから出来ないけれど、編入も考えているさ。まあ彼の学力と努力次第だけれど」
「無茶では。生活水準の話を聞くに、平均学力も著しく低い可能性が高い。なにより彼はこういうヒーロー意識の高い学校に通いたがらないでしょう」
「そうだね。けれど、僕は普通科だけでなく、サポート科やヒーロー科も視野に入れているよ」
「無謀です」

はっきりと拒否と嫌悪感を表したイレイザーヘッドが足を止めれば、根津も合わせて足を止めて振り返った。

「理由は3つあるよ。勤勉であること、本気であるべき所に帰ろうとしているところ、そしてあの心持ちさ」
「ヒーローの資質を見たと?あれは日本の社会には適合すらできないですよ。こことは全く違う社会秩序のなかで育ったんでしょう」

あまりにも常識が違う。常識とは、例えばボールペンの使い方や交通機関の使い方、マナー等とは訳が違う。もっと根本的な、道徳観や倫理観、生死観のことを言う。
テレビ等でしか見たことないような、過酷な状況下で生きてきたはずだ。そこで、圧倒的な実績を残している。根津も言っていたが、生半可なことではない。しかし、だからこそ常識レベル以上の道徳観が必要なとされるとき──ヒーローが必要とされる時、そのパラダイムに大きなすれ違いが出てくることだろう。

「ああ。殊、道理の観点では衝突は免れないだろうね」
「それがわかっていて、何故です。生徒にもどんな影響があるか」

根津が意味深に笑みを浮かべた。

「さっきも言ったけれど、彼は本気で帰ろうとしている。こことは常識が通じない世界へね。つまり、彼のシビアな考え方は簡単にはぶれないのさ。こっちに染まるわけにもいかないしね。ある意味でまっすぐな彼の考え方は生徒に与える影響が大きいだろう。彼自身は悪い人間ではないから、我々のフォロー次第では非常にいい意味で影響するはずだよ」
「……」
「そうだ、ねえ、我が校の校訓を言ってみてよ」

PULS ULTRA
呻くように言った相澤に、根津は満足げに笑って踵を返した。根津の言いたいことは分かる。そう、あの少年はきっとPULS ULTRAを地で行く精神を持っている。

「彼はそれを実践し続けなければならない人生を送り、それを積み重ねてここまできている。例えば…そう、例の黒獣」
「………あの島の件ですか」
「彼は専用の武器を使ってあっさり倒したと言うがね。あの黒獣は、…あの種は、存在が確認されると即時撤退命令出て、数人の特殊部隊を組んで討伐に挑む相手らしい」
「………」
「僕もその時の戦闘映像を確認したけれど、なるほど実に効率よく攻撃を加えている」
「そんな映像があるんですか」
「相棒がとっさに撮ってたみたいだよ。自分以外に黒獣の意識がいかないようにする戦い方も見事だった」

なるほど、あの少年は言動こそ反骨精神にあふれるが、その行動を紐解いていけば極めてヒーロー的である。それを使命とする仕事に就いているというから、当然と言えば当然なのだろうが、そんな行動を実践することが簡単なことではないのは相澤とてよく知っている。

「かれには義勇の心に溢れている!ああは言っていたがね、彼は間違いなく勇敢な戦士だ!だから是非ともこの雄英で友人というものをつくってほしいね!きっとこの世界が色付いて見えるはずだ」
「それなら別に、雄英でなくったって…」
「そこはほら、監視対象だし、ということで。まあ彼がどこまで頑張れるかはきちんとチェックするさ。そこは妥協する気はない」

ぴょんぴょんとスキップし始めた校長は大層ごきげんらしい。そうは言っても、あの少年の学力には大きな不安が残るだろうに、校長にしてはやけに楽観的な気がする。

「彼、勉強できるんですか」
「きっと大丈夫さ!彼は聡明で、頭の回転がとても早い。そして己の中で優先すべき順序が非常に明確だ」
「あの年齢で?」
「それなんだけどね、榊くん……キョーヤくんの責任者が、面白いことを言っていたんだよね」
「面白いこと?」
「彼は21歳だと」