「息吹キョーヤ。個性は超回復。実際の運用効果としては、所謂常に身体のリミッターが外れてるような状態。どんな無茶な動きをしても痛みはないし、傷付いた筋肉もすぐに治ってる」
「…それ、所謂火事場の馬鹿力が常に出ているようなものか?」
「そ。だから身体能力は人並み以上。あくまで人並み以上の範疇ではあるけれど」
「だが汎用性はたかそうだな。俺は飯田天哉だ。個性はエンジン。早く動ける。入学時の50m走は3秒だった」
「耳郎響香。個性はイヤホンジャック。この耳のプラグを挿して相手に私の心音を爆音の衝撃波として伝えたり、音を回収できる」
「音の回収ってことは、索敵や要救助者の捜索には向いてるの?」
「うん。けど」

耳郎はちらりと運動場を見る。どーんと大きな爆発音が稀にする。常にガラガラと何かが崩れる音が響いている。
ああ、と息吹は納得したようだった。

「あれが伝わるんだね」
「そう。さすがにあれを受けたらダメージだなぁ」
「でも場所によっては使えなくもないよね」
「まあ…」
「じゃあまずは場所の割り出しだね」

えっ、と耳郎はキョトンとした。

「設定は、ここ工業地帯なんでしょ?要救助者はそこの従業員。逃げ遅れたにしても、ある程度安全な場所にはいるんじゃないの?まさか化学爆発を起こしやすいタンクのすぐ横にいるだなんてことはないでしょ」
「た、確かに…!」

そういえば要救助者がだいたいどの位置にいるかすら伝えられていないこの状況である。探すのは苦労する。こういう時は場所の割り出しから始まるが、それを初めてでさらりとやってのけたのには驚いた。

「テンヤはキョーカを載せて走れる?ざっと3箇所ほどいそうなところがあるけれど、テンヤが一番早そうだし」
「えっ」
「い、いいい息吹っ!?」

唐突の名前呼びにさすがに驚いた。耳郎に至っては声がひっくり返っている。耳郎が咄嗟に息吹の名前を呼んだが、息吹は素知らぬ様子で地図に目を配っていた。
が、しばらくしてぴたりとその動きを止めて、困ったように2人を見た。

「あ、ごめん、ファミリーネーム、呼ばれなれてないんだ。キョーヤって呼んでくれない?息吹って呼ばれても咄嗟に反応できない」
「え、ええーー…」

耳郎が頗るこまったように呻いた。

「……もしかして、いぶ…キョーヤくんは海外に住んでたのか?」
「……まあ、日本に来たのはつい最近だね。くんも要らない」
「なるほど。ではよろしくキョーヤ。で、俺が耳郎くんを載せて走ることだが、賛成だ。音の少ないタイミングで耳郎くんに対象を捜索してもらう。その間君はこのD地点の瓦礫を退かすことは出来るか?1番開けていて、ここさえ避難ルートとして確保出来ればかなり安全に対象を避難させられる」
「オッケー」
「さあ、時間だよ!」

オールマイトの声が割って入った。
地図は取り上げられ、所定の位置に立たされた。耳郎がそわそわしている。

「それでは、スタート!Plus ultra!!」

合図と同時に飯田が耳郎の手を取り、おんぶすると一気に加速した。それを後ろから見ていたキョーヤだが、すぐに駆け足で走り出した。足の速さは完全に人並みであった。
キョーヤが予定のD地点に到着するまでに飯田らは予定のB地点に到着したようだった。早い。

「D地点に到着、瓦礫撤去始めるね」
『了解、こちらもB地点の捜索は終わった。E地点に向かう』
「よろしく」

さて、とキョーヤは瓦礫を見る。赤く発光している瓦礫が多々ある。おそらく燃えている表現だろう。煙も酷い。当たりを見渡したキョーヤはおもむろにその一角の瓦礫を崩した。一気に走り出し、高くジャンプすると、壁を蹴ってさらに高く飛び上がった。大きな支柱を高い位置で蹴り飛ばすと、いとも簡単に倒れていく。先に崩れた瓦礫に引っかかり、途中で動きを止めた。瓦礫と支柱が壁になって明らかに火の周りが遅くなった。あとは、燃えていない瓦礫を寄せれば任務完了だった。

『キョーヤ!E地点で要救助者発見!』
「こっちも任務おわりっ!そっちに合流するね」
『ああ、待ってる!』

ぐっと足に力を入れたキョーヤはだっと走り出した。全力ではないが、先程の比ではない。ちょっとした足場を土台に高い位置まであっという間に登ると、最短コース…というか、直線コースで飯田らの元へ向かった。ジャンプ力や走力は確かに常人のものではない。稀に避難ルートの邪魔になりそうなものは退かしつつ、真っ直ぐに飯田らの元へ向かった。
ふと眼下に目を向けると、ちょうど飯田らが要救助者と話しているところだった。
スタッとそのすぐ横に降り立つと、気が付いた飯田がキョーヤ、と神妙に声を上げた。

「問題発生だ。危険箇所に2人取り残されているらしい」
「どこ?」

キョーヤが要救助者役の切島に目を向けた。

「G地点!最下階にいるはずだ!」
「Gって…かなり煙が立ってるところだったよね…」

耳郎が困ったように呟いた。早く行かないと非常に、危険だ。…いや、既に危険状態なのだろう。

「テンヤは3人を保護して避難所に誘導して、C地点からDに回れる。そのまま避難経路まっしぐらでいい。キョーカは俺と。テンヤ、合流するならH地点の北側からG地点に入ってきて。あそこなら火も煙も回避出来る。出てこれないってことはどこか崩れてるんだ、気をつけてね。異論ある?」
「…、ない!」
「よし、じゃあキョーカ」
「う、ぇえ!?」

無遠慮に耳郎に近寄ったキョーヤに耳郎はしどろもどろだった。手を引いて無理におんぶするとダンと音を立てて飛び上がった。

…飛び上がった。

「き、きゃああああ!?!?」

突然のことに耳郎が悲鳴を上げたが、それもあっという間に聞こえなくなった。
運動神経オバケかな…。ボソリと芦戸が呟いた。

「と、とにかく、避難するぞ!」

ルートはキョーヤが確保してくれている。

「(これ以上となく動きやすいな)」

そう思わずにはいられなかった。