あっ、と緑谷が声を上げた。

「あれっ、耳郎さんだよね?」

はるか頭上の隙間から、耳郎の姿が見えた。そのすぐ横には新入生の息吹が立っている。耳郎がいるなら、声を出せばすぐに気が付いてくれるはずだ。

「おおーい!ここだよー!」

麗日が大声を上げた。そうすると耳郎響香が立ち上がり、ちょうど緑谷らの方を指さした。緑谷と麗日がいる場所はくらがりなので、姿は向こうからは確認できない様子であった。息吹が場所を移動した。姿が見えなくなったど同時に、ガアン!と鮮烈な破壊音が聞こえた。ガタガタと鉄網通路を走る音がして、すぐ上の階にハンカチをマスクがわりにした息吹の姿が現れた。

「無事?」
「あっ!!はい!無事だよ!あ、でも緑谷くんが足怪我してて走れない設定!」
「分かった。そっちの床壊すから耳塞いでて」

そう言ってキョーヤは少し場所を移動したところにたった。所作を言えば、まるで地団駄を踏むようなイメージだ。たったそれだけの所作だったが、ガン!と鉄網 床…緑谷からすれば天井がいとも簡単に、派手に落ちた。ちょうど鉄網1枚だけがひしゃげて綺麗に抜け落ち、同じ階に落ちてきたキョーヤの下敷きになっている。

「えっ、力強ッ!」
「言ったじゃん、人並み以上に力出せるって」
「これ人並み以上?」
「とにかく上に持ち上げるから二人とも大人しくしてて。まずはそっちの…あー、」
「麗日お茶子!」
「オチャコね。ちょっと失礼」
「えっ…」

いきなり名前呼びとはこれ如何に。しかし息吹本人は全く気にした様子はなく、麗日を抱き上げると上階まで簡単にジャンプした。
すぐに息吹だけが降りてきて、緑谷のすぐ横に片膝を付いた。

「名前」
「あ、えと、み、緑谷出久…」
「イズク。しばらく抱えるけど我慢してね」

そう言って力強く緑谷の腕を引いた息吹は緑谷をしっかりと抱き抱えた。…所謂お姫様抱っこで。

「(あああああああ二度と負傷者役したくない!)」

ちょっと…いやかなり恥ずかしい。
上に上がれば、そわそわとした麗日が待っていて、少し歩けば同じように天井が抜けたところがあり、耳郎が覗き込んでいた。
緑谷を近くに下ろした息吹が、同じように麗日を抱き上げて上に出すと待っていた耳郎に引渡した。もどって緑谷を抱き抱えた息吹は、やはりジャンプして上階に出る。ちょうどその時、飯田が合流した。

「いーところに来た。ねえ、2人抱えて走ると、俺とどっちが早い?」
「2人抱えてても俺の方が早いと思う」
「じゃあ要救助者2人お願いしていい?俺はあとから走るよ。こっちの緑谷出久は足を負傷してるから注意ね」
「分かった。ルートは問題なかった。予定通り走ってきてくれ」
「了解」

背中に麗日、前に緑谷を抱えた飯田は、まただっと走り出す。迷いなく安全な道順を走る飯田に、緑谷は感心する。

「(安全ルートが完璧に確保されてる…)」

授業とはいえ、こんなにお手本通りになるなんて。
リアルタイムで流れを見れないことを心から悔やんだ。