二日目_B

「ん……」
 頬を何かが触れる感覚に意識が浮上する。ゆっくりと動いたそれは私が身動ぐとぴたりと動きを止めて、そおっと肌から離れていった。まだ重い瞼を開けようとすると張り付いた皮膚を無理矢理離すぴりりとした痛みが襲ってきて、慣れた感覚に目を擦った。うー、と唸りながらいつものようにゆっくりと目を開けると、ぼやける視界の片隅で目元をなぞるように丸められた布が動くのが見えた。
「魈さん……寝てました」
「……無理に擦るな。傷になる」
 タオルでぽんぽんと目元の水分を拭き取ってくれる魈さんにやんわりと注意されて、また泣いていたのかと気付かされる。幼少の時から寝ているときによく涙を流しているらしく、その割りに眠りが深いせいで私には全く自覚がない。心配になった親が名前も覚えられないような特殊な病院に連れていって精密検査を受けさせてくれたが、たくさん数字の書かれた判定結果の紙をみたお医者さんは問題ないと判断してくれたのでそういう体質なんだろうと思っている。魈さんはやけに気にしているみたいだけど、私としては眠りが深すぎるがためにたまに友達なんかが話している「夢」というものを見たことがないのが少し悔やまれる程度にしか思っていない。前世では見ていた気がするけど詳しい感覚までは思い出せないから、私も現実ではありえない光景が広がる夢とやらを見てみたい。
 ぱちぱちと数回瞬きをして、滲む視界をクリアにして焦点を合わせる。思ったより近くにあった魈さんの顔は心配そうにこちらをじっとみていて、大丈夫ですよと伝えたくて笑って抱きついた。今何時ですか、と魈さんの胸に顔を埋めて聞くと、背中に腕をまわされながら教えてくれた。二十時前らしい、結構寝てしまった。
「魈さんご飯は食べましたか?」
「……米なら炊いた」
「わ、ありがとうございます! もしかして待ってましたか?」
 もし起きるのを待たれていたなら申し訳ないことをした、と顔をあげると魈さんと目があう。
 魈さんは絶妙に感情の読み取れない難しい顔をしていて、ぽかんとしかながら金色の瞳をじっと見ていると気まずそうに瞬きをされて目を逸らされた。どうしたんだろう、何か寝てるときに寝言とかで変なこと言っちゃったかな。魈さん? と声を掛けようと口を開いた瞬間に背中に回っていた腕にぐっと力が入って、ぎゅうっと抱き込まれた反動で「ぐぇ」と色気のない声を出してしまった。
 肺を少しだけ圧迫されるのが心地よくて、魈さんが何を考えているのかは知らないが抱きしめられて口角が勝手に上がってしまう。視界が魈さんの部屋着でいっぱいになって、後頭部を撫でられるのに合わせて魈さんの胸板にずりずり顔を押し付ける。膝の間に魈さんの足が差し込まれて、両足を絡めると全身が魈さんに埋まるみたいになって密着感にいい気になってしまう。魈さんの背中にそろりと腕をまわして、応えるみたいにぎゅっと力を入れると魈さんも同じようにしてくれた。冷たい夜風が網戸から入ってきて閉められたカーテンが揺れるのが見える。魈さんとくっついて少し熱くなってきた身体にひんやりとした風が当たるのが気持ちいい。
 お昼のオムライスがまだ胃に残っている感じがして、先にお風呂かなあと考えていると少しだけ身体を離した魈さんが額に唇を落として髪に指を通す。突然じゃれられて恥ずかしくて笑ってしまっているとくいっと上を向かされて、魈さんの金色の瞳と目が合う。目元が濡れていないことを確認したかっただけなのか、そっと頬に指を滑らされて湿っていないことが分かると魈さんがベッドから身体を起こした。背中に腕をまわしていたままだった私はずるずると引っ張られて、ベッドの上に座った魈さんに縋り付くみたいになってしまった。
 魈さんに絡まった私の脇の下に手を通されて、ぐいっと持ち上げられて魈さんの膝の上に座らされる。子どもみたいな扱いをされてしまった……。
「魈さん? ご飯にしますか?」
 この後どうするのかと魈さんと同じ目線の高さで聞くと、ばちりと絡んだ視線はじっとこちらを射抜いてきて先が読めない。お米炊いたって言ってたし、お腹空いてたのかなって思ったんだけど……。魈さんがどうしたいのか分からずじっと観察していると、さっきと同じようにするりと後頭部を撫でられて髪を梳かされる。私の背中を支えるみたいにして捕まえられて、その間もじいっと私の顔を見てくるからどちらが観察されているのか分からない。
 何も言わずにじっと見つめられるのが気恥ずかしくて、そおっと目を逸らすとゆっくりと顔が近づいてきてふにゅりと唇を合わせられる。音も立てないようなゆっくりとしたキスで、ぴくりと反応するとそっと離される。あ……、と少しだけ寂しくなって魈さんの顔に視線を戻すと、私の背中を支えていた腕がいつの間にか下ろされて魈さんの両手で頬を包まれてまたちゅぅ、とゆっくりキスされる。ゆっくり魈さんの顔が迫ってきている自覚はあるのに、目を閉じるのを忘れて迫る金色に見惚れてしまって、唇にふにゃりとした柔らかいものが触れてから慌てて目を閉じた。
 薄い魈さんの唇が味わうみたいに私の唇を挟んで、吸われたかと思えば優しく擦り合わせられたりたまにべろりと舌で舐められると条件反射で勝手に口が開いてしまう。少しだけ空いてしまった口が勝手に期待してるみたいで恥ずかしくて、魈さんにバレる前にきゅっと閉じようとしたのにしっかりバレていたのか中途半端に開いた唇の内側をなぞるように舌の先で撫でられる。むずがゆい刺激に声を漏らすと頬を包んでいた手の片方が首筋に滑ってうなじをそろりと撫でられる。びくっと反応した隙に口内に魈さんの薄い舌を差し込まれて、舌と舌を撫で合わせられるのがきもちい。粘膜が擦れてぬちゃぬちゃといやらしい音を立てて、たまに上顎を擽られるように舌先で舐められるとそれだけで背筋が震えた。口内で暴れる魈さんの舌におずおずと自分のを絡めると、頬に添えられていた手が腰に落とされて、どうしたんだろうと薄ら目を開けるとどろりと溶けた月の色に捕らえられて身体がカッと熱くなった。
 そ、そんな目で見られるとドキドキしちゃう……♡
「ん……♡ん、ぅ、しょ、さ♡」
「……っは、」
 最後にじゅるりと絡めた舌を吸われて唇が離される。太い糸が私と魈さんの間に伝うのを酸素の減った頭でぼうっと眺めていると、そろりと腰を撫でられて上擦った声を出してしまった。
 それでも尚腰や臀部の際どいところを撫でる魈さんの手から逃げるように目の前の身体に抱きつくと魈さんの手が止まった。魈さん? と抱きついたまま顔を上げると、短く息を吐く魈さんと目があった。
「……今日はどこまでだ」
「ぁ、……えと、確か胸までならよかった気が……」
「わかった」
 返事をするなりさっきまで腰やお尻を撫でていた魈さんの手が服の裾から入ってきて服ごと胸まで上がってくる。あ、あ、待って今日どんな下着つけてたっけ……! 地味なやつだったらどうしよう、似たようなのしか持ってないから魈さんからしたらいつも通りかもしれないけど、まさか今日お風呂に入る前にするとは思ってなくて心の準備が……。
 変に意識して、いつも通りだけど引かれたらどうしようかとドキドキしている間に胸までたくし上げられた服から下着とそれに包まれた大きいとも小さいともつかない中途半端な胸が晒される。ぎゅってされたら魈さんの胸に当たるぐらいの、何の変哲もないサイズの胸である。今日は黒色だったみたいで、魈さんの白い肌が下着の黒に映えてこっちがどきどきする。
「魈さん……し、下着、あの、」
「…………」
「うぅ、やっぱり何でもないです」
 今のこれどうですか、って聞いて系統だけでも探ろうとしたけど恥ずかしくて無理だった。たくし上げられた服を魈さんの邪魔にならないように握って顔を伏せる私に魈さんは何かを察したのかブラジャーを脱がせようとして背中に伸ばしていた手をぴたりと止めた。なんでもないから出来ればそのまま続けて欲しかった。こういうとき変に察しがよくて困る。
 魈さんは動きを止めたままじいっと私の胸元を観察していて、なんでもないんで……! と羞恥で小さくなる声で言うも無反応。ううう、変なこと口走るんじゃなかった……。絶対なんて言ったら喜ぶか考えられてる……。魈さんに変に気を遣わせてしまっている……! 
 恥ずかしさと申し訳なさでぎゅっと目を瞑ってこの長い沈黙の時間に耐えていると、はぁ、と息を吐いて魈さんが口を開く気配がした。
「お前の肌は白いな」
「…………は、えっ……?」
 言われたことがすぐには理解できなくて、顔を上げると魈さんの「何か文句でもあるのか」と言いたそうな瞳と目があった。も、文句はないけど……。もう少しあったんじゃないかとは思う。魈さんらしいと言えばそうだけど、全く好みの系統を探れなくて挑戦は失敗に終わった。うう、あと三日もないのにどうしよう。こんなに恥ずかしい思いをしたのに、なんとも言えない結果にうぅっと唸っているともういいと判断したのか魈さんが慣れた手つきで背中のホックを外して胸の締め付けが緩くなる
 。最初はあんなに苦戦してたのに、慣れたのかコツがあるのか最近ではすぐ外されるようになってしまった。浮いたカップが邪魔だったのか触ろうとして一瞬動きを止めて、それからたくし上げられていた服ごと着ているものを脱がされた。嫌がる前にさっさと取り上げられて、文句の一つでも言おうかと思ったがその前に首筋に吸いつかれて変な声がでた。
「……っん、」
 甘い痛みにぴくりと身体を動かすと、労るように魈さんの大きな手がお腹から胸まで上がってきてふわりと撫でられる。むに、と柔らかい肉の感触を確かめるみたいに力を入れずに揉まれてどう反応していいのか分からない。電気ついてるのに正面から胸揉まれるの恥ずかしい。
 魈さんの人肌の体温が肌に馴染んでどきどきしながらも安心する。ふにふにと手に形を変えられている胸をじいっと魈さんが無言で見てくるのがなんだかおかしくて笑ってしまいそうになる。なんか……ちっちゃい子みたいでかわいい。お姉さんになった気分かもしれない。無言で胸を揉んでくる魈さんの頭をよしよしと撫でていると、私の意図に気付いたのか魈さんが顔をあげてばちりと目があう。
「へへ……すいません、なんかかわいくて」
「フン」
 魈さんは鼻を鳴らすとまた視線を胸にもどして、さっきより少しだけ強く揉まれて思わず吐息が漏れた。声を抑えようと口に手を当てていると、芯を持ち始めたそこに不意に指が触れてぴくっと身体が跳ねる。なぞるように片方の乳輪を指で刺激されて欲が先端に溜まっていく感覚に声が漏れる。ぐ、とまだ立ちきっていないそこを押し込むように指の腹で押されて、もじもじと腰が揺れた。な、なんか焦らされてるみたい……♡
 もどかしい刺激にいつの間にか胸の先端が魈さんの指の腹を押し返すようになっていて、もっと触ってって胸を突き出すように背中が反る。魈さん、と吐息の混じる声で名前を呼ぶとつかさず唇を塞がれて、濡れた唇が触れ合う感覚に夢中になっているとぎゅっと乳首を引っ張られて嬌声を魈さんに飲み込まれる。
 突然直接的な刺激に襲われて、びくびくと身体を跳ねさせていると唇が離れて首筋や肩口にちゅうっと音を立てて吸いつかれた。そのまま魈さんの唇が降りて行って、私が呼吸を落ち着かせる頃にはツンと立ったそこに魈さんの熱い息がかかるところだった。
「っ……♡しょうさん、♡」
 名前を呼ばれたからか、ちらりとこちらと視線を合わせた魈さんは、私に見せつけるみたいにゆっくり口を開いて、先を尖らせるように掴まれた胸にはぁっと口内の熱を伝えるように息を吐く。ど、どこでそんなこと……! 
 かぁぁ、と顔に熱が集まるのを魈さんに見られていると分かっていても、自分のそこが食べられる様を見せつけられるのに目が釘付けだった。魈さんの口内からとろりと唾液が垂れてきて、それが突起に流れおちたのを追い縋るようにぱくりと唾液ごと口に含まれる。それだけでびくっ! と身体を震わせた私に魈さんがふっと笑ったのが吐息で分かった。ち、乳首舐めながら笑わないでほしい、恥ずかしい……。
 魈さんの口内で唾液を絡ませられて、薄く柔らかな舌で嬲られてふつふつと欲が溜まっていく。口に含まれていない方も指でぐりぐり押されたり引っ掻かれたりして、じわじわ襲いくる刺激に膣の奥からじゅわりと愛液が出てくるのが分かった。ぢゅぅ、と勃起しきった乳首を口の中で吸われてからちゅぽ♡とはしたない水音を立てて離されて、太ももに力が入る。私の乳首から糸を引いているのをれぇっと先を尖らせた舌で絡め取った魈さんが、そのまま胸に吸い付いて赤い痕を残す。指で愛撫されていた片方も同じようにしようと、赤い顔をしているであろう私を目を合わせて濡れた唇を開く魈さんにぶんぶん首を振ってもういいです! とアピールする。今日は胸までなのにそっちもされたら絶対ほしくなっちゃう……!
「も! もう大丈夫です!」
「……そうか」
「はい、っんぅ!? ♡ちょ、と、ぉ♡まって……あの、!」
「ん、……」
 もう大丈夫と言っているのに何故か全くやめてくれない魈さんが赤い舌を伸ばして濡れていない方の乳首を舌で押す。
 いやいやと首を振っても魈さんの視線はそこから離れず、ならばと胸を離そうと魈さんの膝の上から退こうとするとかぷりと歯を立てられて、不意打ちでそんなことをされて媚びた声が喉から出てしまった。このまま流されてはまずい、と考えて嫌がる私に魈さんは少し不機嫌そうになりながらぬらぬらと照明の光を反射するようになった乳首から口を離す。細い糸が魈さんの口に伝ってつぷりと消えた。
「冷えていないか」
「ひぃ!? あ、だ、大丈夫です……すみません」
 冷えてないか、と聞きながら腰を抱くのはまだわかる気もするが、首筋にがぶりと噛みつかれるのはさっぱりわからない。変な声が出た。魈さんが今までもたまに噛んだりするひとなのは分かっていたけど、今噛まれるとは思っていなかった。痕を付けられるときより鋭い痛みがちくりと全身を駆け巡って、一瞬で引く。首筋なのでよく見えないが、服をきて隠れるところかどうか後でしっかり確認しておかないと……。
 魈さんは私の胸元に顔を埋めて、すうっと息を吸うと腰にまわした腕に力をいれてぎゅっと抱きしめられる。こうしているとさっきの子どもみたいな魈さんを思い出すのに、じんじんと熱い胸の先端を作りあげたのはこの目の前の魈さんで間違いない。ぜんぜん可愛くない。子どもだと思っていたら噛みつかれたし……。それでも惚れた弱みなのか母性なのか、本当は嗅いでほしくないが胸の匂いを嗅いでいる気がする魈さんの頭を撫でているとべろりと舌を這わされて驚いて腕の中から逃げようとしたのをすごい力で押さえられた。や、やっぱり可愛くても魈さんを子ども扱いするのはやめよう……。
 胸元から顔を上げた魈さんが私の肩を摩りながら「先に風呂に入れ」と言ってくれるのにこくこくと頷きながら魈さんの腕からなんとか脱出した。

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