夜。
魈さんはお風呂に入っていて、部屋にはさっき髪を乾かし終わった私が一人……ベッドで魈さんが出てくるのを今かいまかと待ち構えていた。下着、明日はどっちの色を着よう……。魈さんカラーの方にしようかな、グレーの方は私の趣味だし、一人の時でもいいか。それより今日は四日目、まだこの期間中に魈さんのを満足に堪能できていない私は今日こそ言うぞ、となんとなく抱えていた魈さんの枕をぎゅっと握り込んで決意を固くする。今日こそ、魈さんに舐めさせてくださいってはっきり言うんだから……!
さっきお風呂に入るとき、魈さんに一緒に入るかと誘われたがそのまま流れでしていては舐めれないかもしれないと思って悩んだ末に断った。本当はすっごく一緒に入りたかったけど、それ以上に重要な問題なのだ、隙を見せるわけにはいかない。
だって明日はその、多分舐める……とかの余裕はないと思うし。それなら今日がラストチャンスなわけで……。魈さんはいつも私の気持ちいいを優先してくれるけど、私だって魈さんにちゃんと気持ちよくなってもらいたい。今世でゴムとかいう避妊のためだからって魈さんと私の間に物理的な壁を作られて、前より魈さんのおちんちんの感覚は鈍くなっているはず。
そう思って前世のときよりしっかり魈さんのを舐めたり手でしたりと意識してするようにしていたのだが、正直それのせいで前より舐めるのが好きになっているかもしれない……。あの薬を貰うまでは、魈さんのおちんちんに直接触れられるのはその時間だけだったから。こんなに切ないことってあるだろうか。
とにかく、この期間中に魈さんのを舐めさせてもらうのは明らかに今日がラストチャンスなわけで。だから絶対に、何がなんでも流されるわけにはいかない。魈さんはいつも同じ時間帯に行為をしてくれるからか、身体が覚えてしまって時間が近くなっただけでお腹がムズムズしてくるようになってしまっている。それでも負けられない……、とキツく魈さんの枕を抱きしめた。柔らかい塊がぎゅうと折り畳まれて、ふんわりと魈さんの匂いがしてお腹の奥がきゅんとなる。明日、やっと魈さんとナマで……。
前世でした時の焼けるような快楽と、余裕のない魈さんの顔を思い出してどきどきと心臓が鼓動を早める。魈さん、前みたいにたくさんしてくれるかな。ちょっと強引になられて、止まってって言ってるのに止めてくれなくて、前は私が意識飛ばした後もされてて──……。うう、思い出したらもっとドキドキしてきた。
明日が勝負なのに昼間ラーメンとか食べちゃったけど……許されたい……。おいしかった。
ガチャ、とお風呂場のドアが開く音がしてびくりと身体が跳ねる。ほどなくして部屋に入ってきた魈さんをベッドの上に座り込んでじいっと見ていると濡れた髪を拭きながら「なんだ」と言われる。低い声が耳に心地よくて心臓がとくりと動いた。
「あ、あの!」
「どうかしたのか」
「今日こそえっと、……な、舐めさせてほしくて……」
「…………」
予想通り黙り込んだ魈さんに、だめですか……? と眉を下げて見上げる。静かに息を吐いた魈さんは、「分かった」と目を閉じて渋々といった様子で頷く。もう少し苦戦するかなと思っていたから、二つ返事で舐めさせてもらえるのは意外だった。
「いいんですか?」
「……あぁ」
お前なら、言ってくるだろうと思っていた。ベッドの縁に腰を下ろした魈さんが、床に転がったドライヤーを拾い上げながら言う。
まさかこんな恥ずかしいことが予想されていたなんて穴があったら入りたいぐらいだが、なんだか魈さんに私の趣味が許されているみたいでいい気になってしまう。
魈さんがドライヤーのスイッチを入れる前に背中に突撃して「髪乾かしてあげますよ!」と言えば分かりやすい奴だなと小言を言いながらドライヤーを渡してくれた。魈さんの肩に掛かっていたタオルで全体の水気を取って、艶のある髪にドライヤーの熱風を当てる。お泊まりしてるから当たり前なんだけど、自分の髪と同じシャンプーの匂いがして自然と口角が上がる。
乾かしやすいように俯いてくれている魈さんはじっとしたままで、たまに頭を撫でるように手を動かすとくすぐったいのかちょっと動くのが可愛い。魈さんはいつも適当に乾かしてるので、今日ぐらいはしっかり目に乾かしてあげよう。毛先を揃えてドライヤーの風を当ててあげていると、不意に振り向かれて金色の瞳と目があった。
「もういい」
えっ。いやでも、と言う前に手を重ねてドライヤーの電源を落とされる。カチッと指を滑らされて、ドライヤーで煩かった部屋が静かになる。まだ毛先が濡れていて、所々水が滴っている箇所もある。風邪引きますよ、と言っても魈さんは無言でドライヤーを取り上げて元の場所に返した。
ベッドの上で膝立ちになったまま下から魈さんにじっと見つめられて、魈さんの言わんとしていることがうっすら分かってしまった気がして目を泳がせる。そ、そんないきなり……。いや時間はいつもこれぐらいなんだけど、なんか、急だな。
魈さんに見つめられているのが落ち着かなくて、きょろきょろ視線を彷徨わせていると、するりと下から頬を撫でられてびくりと肩が跳ねた。独り言みたいに私の名前を呟かれると魈さんの方を見ないわけにはいかなくて、吸い込まれそうでちょっと怖い金色の瞳と目を合わせると下からそろりと濡れた唇を押し当てられる。
びくりと反応した私を置いて、魈さんの薄い唇が私の唇を食むように動いてたまにちゅうっと音を立てて下唇を吸われる。まるで遊ばれているような口付けにドキドキと心拍数が上がって、身体の中に血液が沸いている音が響く。薄く目を開けると熱っぽい金色に射抜かれて思わず口が空いた。魈さんの口から漏れた吐息が熱くてドキドキする。
「……このままでいいのか」
「ぇ……ぁっ、だ、だめっんぅ……っ」
掠れた声で聞かれて、一瞬なんのことだろうと考えてピンときた時には空いた唇の隙間に舌をねじ込まれていた。湿った薄い舌が挑発するように私の舌に絡んできて、負けじと舌を絡めるとどっと出てきた唾液が舌を伝って魈さんの口内に滴り落ちていった。
今日は私が舐めるんだから、ここで流されちゃだめだ……!
こくりと喉を鳴らす音に、かあっと熱が顔に集まる感覚がする。薄く笑われても見えないように目を閉じながら、魈さんの唾液まみれの舌をじゅるりと吸った。