一人でげほげほと咳いていると、友人が「酒醸団子食べる?」と聞いてきたので喉を押さえながら頷くと店員さんに注文してくれた。
口で大きく息をして喉に空気を通して熱さを冷ます。かなり落ち着いてきた。机の上に乱雑に置かれた食器をカチャカチャと音を立ててまとめながら、友人がお茶すごい飲んだじゃん。と笑う。自分の周りに散らかっている猪口が目に入ってないんだろうか。
「今日は珍しく酔ってるね」
「あんまり大きな声で言えないけど、ここ薄いからって調子乗ってたらいきなり酒の味濃くなって急に酔った……」
「そうなの? 笑える」
「店員さんで味変わりすぎだから仙人様をつれてくるなら瑠璃亭とかにした方がいいかもね」
赤い顔で揶揄われて、連れてこないからと返してもまあまあ頑張りな〜? と絡まれる。酔ったとこ久しぶりにみたけど、絡み酒なとこめんどくさいな……。
ある程度片付いて空間の出来た机の上で腕を伸ばして、応援してるよ〜と私の腕を叩いてくる。今更だが友人が一人でちゃんと帰れるか不安になってきた。その辺しっかりしてるから、大丈夫だとは思うけど……。夜の璃月港は繁華街の顔が強く出る、まだそんなに遅い時間でもないから人通りも灯りもたくさんある。軽策荘とは大違いだ。
彼がよく居る望舒旅館は、荻花洲で夜を過ごす人の留まり木のようなところだから軽策荘よりは賑やかな印象がある。もちろん璃月港の比にはならないが。彼女の家は港の近くだからそんなに遠くないけど、一応送っていこう。うっかり海に落ちたりしたら笑い話にならない。
お待たせしました。と店員さんが軽やかな声で酒醸団子を二皿机に滑らせる。持ってきたお盆にさっきまとめた空になった食器を乗せて、「ごゆっくり」と厨房に戻っていく。三杯酔は量が少なめだからな〜と今日の約束を取り付けるときに友人が言っていたが、私としてはいろんな料理が試せるのでたまに行くのは構わない。彼女のように酒を飲むとなると話は別かもしれないけど。
いただきます。と友人と手を合わせて匙をお椀の中に沈める。とろりとした酒醸が波のように動いて、すこし手を動かすと匙が団子と当たってふわりと甘い香りがする。友人が注文の時に「蜂蜜多めで」と言っていたのが私の分にも入っているようだ。
薄ら石珀色が透けるような白色に食欲が唆られる。甘いものは別腹なのは友人も同じようで、あれだけお酒を飲んでいたのに「酒の味ちょっと濃くてうま〜っ」と団子を頬張っている。私も食べようと汁の中から団子を掬って口に運ぶ。
口内をつるりとしたものが跳ね回って、噛むとじゅわりと酒醸が溢れてもちもちの団子が酒の味と混ざってちょうど良くなる。美味しい。
蜂蜜多めは初めて食べてみたが、普通のものよりすこし甘くてこれもいいなと思った。見た目にほんのり蜂蜜の色が混ざるのが可愛い。魈さんも作ったら食べてくれるかな。
甘いものとか好きそうな顔じゃないのに、杏仁豆腐が好きだと知った時はかなり驚いたし可愛くてもっと好きになった。「好ましいのは味ではなく食感だ、味は……そうだな。……お前が作ったものはどれも悪くない。」以前ご飯を作って持って行った時に言われた言葉が不意に脳内で反響してカッと心臓が熱くなる。あれは狡い……今思い出しても耳まで赤くなってしまう。そんなこと言われたら好きになっちゃうでしょ、言われる前から好きだったけど!
「どした? なんか変なの入ってた?」
「あっいや、なんでもない……」
「ふーん」
お熱いね〜。とニヤニヤしながらこちらを見てくる友人に、いいから早く食べなよと流す。
好きな人に手料理を美味しいって言ってもらえて喜ばない女はいないだろう。あの時の魈さんは、私が作ってきた杏仁豆腐をつつきながらそう言ってくれて、器に沈んだ匙を眺めていたから伏せ目になっていたのが本当に綺麗でかっこよかった。
明日も頑張るぞ、と抽象的な目標を胸に、団子をもう一口頬張った。素敵な清心を魈さんに贈れるといいな。仙人と人間が結婚できるのか、出来なくても一緒にいたいです──とか言ったら怒られるかな。