「魈さん、一緒にあの……お、お風呂入りませんか……?」
食後。あれだけあった杏仁豆腐をご飯を食べた後にもかかわらずぺろりと平らげた魈さんが洗い物を買って出てくれたので、お言葉に甘えて私はお風呂の準備をしていた。もうすぐ洗い物終わりそうかな、と魈さんの様子をちらちらと伺っていたのが魈さんにはバレバレだろうが、一応頃合いを見計らって声を掛けてみる。シンクの中は濯ぎ終わった食器が重なっていて、読み通りもうすぐ終わりそうだ。
一通り終わったのか食器を次々と吸水性のあるタオルを引いたカゴに入れていく魈さんが、「分かった」と返事をしてくれた。蛇口を下ろして水を止める音がシンクの中に響く。
「ほんとですか……! お風呂沸かしておいたので、もうすぐ入れると思いますっ」
「あぁ。礼を言う」
「はいっ! こちらこそ、洗い物ありがとうございます──っ? ぇ、と?」
魈さんがタオルで手を拭いたと思ったら、こっちに向き直られて突然目元を撫でられる。いきなりのことについて行けず身体がぴしりと固まって動けない。ち、近づいてたの私だけどこっち向かれるともっと近い……。ぱちりと瞬きをした魈さんの金色の目がじっとこちらを見ていて、思わずごくりと唾を飲み込めばその音が静かな部屋に響いて余計恥ずかしくなった。
ダメダメ、さっき逃げないって決めたし、今日は魈さんを甘やかしてあげるんだから……! 魈さん? と名前を呼ぶときゅっと瞳孔が動いた。
「……寂しかったか」
「ぇ……いや、ぁ……」
寂しかったのは魈さんの方なのに、それを私に聞くのはずるいと思う。魈さんは何百年、もしかしたら何千年かもしれない長い時間独りだったのに、私なんかたった二週間やそこらで音を上げる訳にはいかない。そんな顔で優しくされると泣きそうになる。
魈さんと目線を合わせてぶんぶんと顔を横に振ると、少しだけ安堵したような表情で「……そうか」と言ってくれる。こんなに優しい人を置いていっただなんて、どれだけ白状だったんだろう。腕を広げてがばりと魈さんに抱き付けば、逞しい身体はびくとも揺れずに私を受け止めてくれる。
「魈さんだって、寂しかったですよね……ごめんなさい」
「……何故お前が謝る」
「だ、だって……」
「これは我の事だろう。お前が気にすることではない」
背中に回っていた腕が緩められて、ふわりと頭を撫でられる。なんか、見透かされてる気がするのは気のせいだろうか。魈さんの背中に回した腕にぎゅっと力を入れて魈さんをより抱きしめると、応えるように密着されて胸がぎゅっとなる。魈さんの逞しい胸に顔を埋めたまま「今日はたくさん甘えてくださいね」と言うと、少ししてから「フン」と鼻で笑う声が降ってくる。
魈さんをいっぱい甘やかしたいのに、なんだかんだ私が甘えているようになっていて悔しい。無言で頭をぐりぐりと動かして魈さんの胸筋を摩擦していると、脱衣所から乾いた機械音が聞こえてきて静かなキッチンまで響いてくる。お風呂が沸いたみたいだ。動かしていた頭の動きを止めると、魈さんも私の頭を撫でていた手を止めて二人で無言になる。
キツく抱きしめられているせいで真上を見れないが、少しだけ魈さんの胸から顔を上げて「お風呂入りますか?」と聞くと「あぁ」と言われて身体を開放された。お風呂場までの短い距離なのに流れるように手を繋がれて、洗い物終わりでいつもよりほんのり冷たい魈さんの手を温めるようにしっかりと握り込んだ。
私が背中流します! と意気込んで口を開くと、浴室だからか思ったより声が響いてしまった。なんだかすごくがっついているようで恥ずかしくなって、じわ……と顔に熱が集まるのを感じてふいっと魈さんから目を逸らした。何も気にしていなそうな魈さんが湯船から洗面器でお湯を汲んだものを渡されて、どうやら背中を流させてくれるみたいだ。
ん、と背中を向けてくれる魈さんに失礼しますと声を掛けてそろりと洗面器を傾ける。白い肌にお湯が流れて湯気が立った。熱くないですか? と聞くと「問題ない」と返ってくる。
そのまま身体も洗わせてもらおうと、何度か魈さんにお湯を掛けた後にボディタオルを濡らしてソープを泡立てる。そのまま洗っちゃいますね、と言いかける前に魈さんが頭を洗い始めてしまって手が止まった。さっきまで大人しくしててくれたのに突然自由だな……。
髪を濡らし終わったタイミングで魈さんに身体洗いますよーと少し大きめの声で言うとこくりと頷かれた。頭と身体洗うの同時に終わるなんて贅沢でいいなあ、と考えながら魈さんの少し丸まった背中に泡まみれのボディタオルを滑らせる。