しばらくして背中側を洗い終わると同時に魈さんの頭も終わったようで、髪の長さが違うから当たり前なんだけどその早さに羨ましさを覚えてしまった。何も考えてなかったけど前の方どうしよう……そっちは魈さんに自分でやってもらうか、と考えていたら魈さんが髪の水気を頭を振って飛ばしたのがかかって情けない声が出る。
声を聞いてか振り返った魈さんとばちりと目が合って、湯気に包まれた中でも鈍く光る金色にどきりと胸が高鳴る。前どうぞ、と少し泡の減ったボディタオルを丸めたものを魈さんに突き出すと、洗面器でお湯を汲んだかと思うと無言でばしゃりと頭から掛けられて全身に温かいお湯が滑ってほんのり身体が温まる。
「うわっ!?」
「お前もついでに洗ってやる」
「い、いきなりお湯掛けないでくださいよ……!」
頭から思い切りお湯を被せられたせいで、手に持っていたボディタオルの泡がほとんど流されてしまった。両手でそれを持っていたので手が離せず、顔にべたりと張り付いた髪をさっきの魈さんみたいに頭を振ってどうにかしようとしたがうまくできなかった。肌に張り付く髪の毛が気持ち悪い。
魈さん〜、と困って魈さんを見上げると、大きな手で顔に張り付いた髪をぐわしと上にあげられた。そのままぐっと身体を引き寄せられて、お湯が排水溝に流れている床にぺちりと尻もちをついて魈さんの膝の間に座らされる。私が手に持ったままのボディタオルにソープを出してからそれを奪われて、目の前で泡立てられる。
今日は私が甘やかしてあげる日なのに、結局こうしてやり返されてしまう。文句の一つでも言ってやりたいがうまく言葉が出てこなくて、じっと魈さんの顔を下から眺めていたら不意に目があった。
「魈さんの身体、まだ全部洗えてません……」
「自分でやる」
「じゃ、じゃあ私も自分で洗います!」
ばっ! と胸の前で腕を交差させて自分の身体を抱きこむと、魈さんにフンと鼻で笑われる。
えっちょっと、聞いてよ。子どものわがままを聞き流す親のように、何事も無かったかのように腕の間から泡立てたボディタオルを入れられて変な声が出た。魈さんから距離を取ろうとして嫌がっていると、面倒くさそうにぐっとお腹に腕を回されて逃げられなくなる。これじゃ私が嫌々身体を洗われているみたいだ……!
「魈さん……! 自分でできますからっ」
「我がこうしたいだけだ。暴れるな」
「あ、暴れてません!」
「大人しくしろ」
暴れるな、と言われると余計私が駄々をこねているみたいでカッと顔が熱くなる。魈さんを甘やかそうとしてるだけなのに! 身体ぐらい自分で洗えるのに! 大人しくしろ、と耳元で声を出されて浴室の湿気と相まって耳に入ってくる吐息が湿っぽくてぶるりと背筋が震えた。
片手首を魈さんに掴まれて自由を奪われてしまって、これではろくな抵抗もできないので仕方なく魈さんに身を委ねてみる。ぬるりと泡にまみれた魈さんの手が胸を滑って、思わずぴくりと身体が反応してしまう。
だめだめ、魈さんは身体を洗ってくれてるだけなんだから、変な気を起こすわけには……。
それに今日は私がそういう意味でも魈さんを甘やかしてあげるんだから。お腹を滑る力の入っていない手にぞくぞくと力が抜けていく感覚がして、必死で変な気を起こさないようにと意識を逸らす。
不意に下乳と腹部の間ににゅるりと指が入り込んで喉の奥から甘い声が鼻に抜けた。やば、と思っていると名前を呼ばれて、振り返ると間髪入れずに魈さんの湿った唇が降ってくる。魈さんの髪の毛先からぽたりと雫が頬に落ちて、遅れてキスされていることを理解する。
「ん゛っ!? ……んむ、っ〜〜……!」
「……#○○#、」
「っふ、ぅ……んゃッ♡」
驚いて唇を合わせられたまま固まっていると、素肌をぬるついた魈さんの手が滑ってぴくりと身体が反応する。ボディタオルをどこへやったのか、いつの間にか魈さんの手のひらで身体をゆっくりと撫でられてぞわぞわと全身が粟立つ。ゆっくりと確かめるように身体を触られて、焦らされているときのような手つきに身体が勝手に勘違いして下腹部がむずむずしてくる。
背中に触れた時に少し冷えているのがバレたのか魈さんが一瞬手を離して蛇口を捻ると、シャワーからちょうどいい温度のお湯が噴き出て浴室が温かくなる。嫌がって顔を動かそうとするとキスの合間に掠れた声で名前を呼ばれて、ぎゅっと閉じていた目を開けると濡れた金の瞳と目があってどきりと心臓が跳ねた。浴室の床を流れるお湯が足腰に触れて温かい。伏せられた睫毛から覗く魈さんの瞳がこちらをじいっと見ていて、なんで抵抗してたんだっけ……と早くなる脈拍に思考が置いていかれる。
じっと見られるのがなんとなく怖くて、無意識で後ずさっていたのを背中が冷たい浴室の壁に当たったところで気付いた。魈さんは私と目を合わせたまま距離を詰めてきて、膝の間に身体を入れられると足が閉じられなくて恥ずかしい。
お湯に触れて泡が流れた魈さんの手が落ちてきた髪の毛を耳に掛けて思わずきゅっと口を噤んだ。こちらを見る金色に囚われたように動けなくなって目が逸らせない。流れるシャワーの音を背景に二人で見つめあっていると、魈さんがそっと瞬きをして唇を合わせてくる。湯気が立つまで温まった浴室で、じんわりと身体が熱くなるのを感じながら目を閉じる。ちゅぅ、と湿った柔らかい唇が押しつけられる感覚に糸が緩む心地になる。このままキスだけして終わるのかな、と思っているとべろりと下唇を舐められてつい癖で口が開いてしまう。そのまま魈さんの舌が入ってくるかと思いきや、かぷりとさっきまで舐められていた下唇を甘噛みされて鼻からくぐもった声が抜ける。
そのまま何度か唇を魈さんの唇に挟まれて遊ばれて、息がし辛くなってきたところで舌を差し込まれた。口内を探るように弄られて、媚びるような声が出てしまう。吐いた息を魈さんの口内に吸われるのが恥ずかしくて、魈さんの舌先で撫でられている舌を引っ込めようと動かせばぬるりと絡められて持っていかれた。
「ん……ぅぅ〜〜♡」
「っン……」
そのままぬるぬると舌を絡め合わせて、たっぷり唾液で濡れた粘膜が擦れるのが気持ちいい。魈さんの薄い舌が私のにぐるりと絡んで、口の中が熱くてドキドキする。頬に添えられていた魈さんの手がゆっくりと動いて上を向かされると、そのままどぷりと魈さんの唾液が送られてきて重力で喉に滑り落ちてくる。
息がうまくできないまま飲み込もうとしたせいで、まだキスしかしてないのに頭が熱でぼーっとしてくる。うまく飲み込めていないのを察せられたのか魈さんが舌先を尖らせて私の舌の付け根を撫でてきて、こんなところまでお世話されているようで恥ずかしくなった。
何回かに分けてこくこくと魈さんの唾液を飲み干すと、ぢゅる……ッ♡と音を立てて魈さんの舌が引き抜かれる。お互いの唇の間に繋がる橋が浴室の照明を反射して卑猥に光っている。
息を乱す私を労るようにそっと頭を撫でてくる魈さんに胸のどきどきが止まらなくて、今日は私が甘やかしてあげるはずなのに全くそれが叶わない。魈さんにドキドキさせられっぱなしでは魈さんを甘やかすなんて出来ないのに。悔しいのに撫でられているのが気持ちよくて嬉しくて対抗心が沸いてこないのはダメだろうか。