「嘘でしょ……。」
絶望とはこう言う時のためにある言葉なのだと思った。
あぁ神様。
昨日夜食にケーキを食べたことに対して怒っているのでしょうか。
それとも一昨日道端に咲いていたお花を摘んで持って帰ったからバチが当たったのでしょうか。
日頃の思い当たる数々の悪行に対し懺悔をしながら、天から永遠に降り注ぐ雨を茫然と見つめる。
今日の夕方の天気は雨だと、お天気予報のお姉さんが断言していた。
だから折り畳みの傘を鞄に入れたのだ。
確実に入れた。輝く青空を一瞥し本当に降るのかと疑ったがお姉さんを信じた。
「なんでカバンの中に無いの、折り畳み傘。」
鞄から一度も出していない傘を落とすはずも無く、ほんの一欠片も思いつかない心当たりを探る。
「うーーん、
教科書出す時一緒に出しちゃったかなあ。
で、そのあと落とした?いやまさか…」
無いことが分かっていながらも同じ場所を何度も探してしまうのが人間なのだ。
物理的に入らないポケットにも指を突っ込み探り出す。
ほとんどの生徒は雨に濡れながら、あるいは傘を差して帰り去った。
そんな中必死にカバンを漁っている自分は端から見たら大そう滑稽だろう。そう思った時。
「薔薇子…?何をしているんです?」
落ち着いた声色で話しかける同級生の足元が視界の隅に入った。
「あ、汐華くん」
顔をあげれば怪訝そうにこちらを見つめる汐華初流乃(もといジョルノ・ジョバァーナ)。
彼とはかれこれ3年ほどの付き合いになる。
家庭事情や生い立ちについてはよくわからないが同じ日本人としての血を引く彼に親近感を抱いていた。
(汐華くんはどう思ってるか知らないけど…ね。)
「傘を無くしちゃったみたいで…、」
傘が何処に行ってしまったのかも気になるがどうやって帰るかも考えなければならない。
お手上げ状態の私に汐華くんはわざとらしく呆れんばかりのため息を吐く。
「薔薇子は本当、よく物をなくしますね」
軽い悪態をつきながら自身の鞄から出した折り畳み傘を勢いよく開く。
相も変わらず振り続ける雨の中一歩踏み出した場所で佇む汐華くんを見つめているとまたもため息をつく。
「何しているんですか?早く行きますよ」
傘の中に入れと目線で示唆する汐華くんにおずおずと尋ねる。
「えっと、入れてくれるってこと?」
「何度も同じこと言わせないでください」
ぴしゃりと言い放ち歩き出そうとする汐華くんの横に慌てて並ぶ。
「それにしても何処に行っちゃったのかなあ、折り畳み傘」
「まったく心当たりないんですか?」
「まったく…、です…」
「ま、そのうち出てくるかもしれませんね」
なんだか少しだけ楽しそうに微笑む汐華くんの横顔をチラリと見やり、
こうして肩を並べて帰るのも悪くないなと思いながら笑みをこぼした。
静謐なる慈雨
―――――――――――――・・・
(あれ、いま汐華くんの鞄からカエルが………?)
(カエルくらいいてもおかしくないでしょう)
(いや、でも、鞄から)
(前見て歩いてください、転びますよ)
(はい)
end.
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