8月も下旬。
とある日の帰り道。
用事を済ませた俺は爽快にバイクを走らせ家路を急ぐ。
「やっべ〜、もう19時半くらいか?」
友達と旅行へ行った母親から録画を頼まれていた特別番組の放送時間が刻一刻と迫っている。
もし録画できなければ機嫌を損ない後々面倒なことになりかねない。
もしかするとお小遣いまで減らされてしまうかもしれない。
悲劇を未然に防ぐには兎に角バイクを走らせるほかない。
「安全運転!しかし急ぐ!」
通勤ラッシュの渋滞に巻き込まれつつも回避できる道を探しては走り続けた。
ふと、二つ杜トンネルの入り口付近に立ち尽くす女性を見た。
夜とはいえ気温がまだ高いこの時期には似つかわしくない長袖のジャケットを羽織っており、
腰まである長い髪の毛をなびかせながら何もせずじっと立っている。
この距離からは表情は見えない。
一瞬のためらいの後、反動的にバイクを近くの傍へ止め無心で女性に近づいた。
「あの〜、オネーサン?」
一点を見つめて居た彼女の視線が自分を捉える。
白く浮き立つ肌に「もしやお化けでは」とさえ思えた。
「迷子っスか?それとも探し物?」
それとなく探りをいれると彼女は表情を崩さず話始めた。
「ひとりでに走るバイクって見たことある?」
これは一種の怪談?
お化けの怨念?
なんの脈絡もない問いに良からぬ妄想が脳内を張り巡らす。
「私、お化けじゃないわよ」
あまりにも沈黙と凝視が長かったからか、彼女は初めてふと笑みをこぼした。
「えっ、あ〜〜、いや」
心を見透かされ、たじろぎ吃る。
「ひとりでに走るバイク?
聞いたことないっすねぇ〜〜」
杜王町の怪奇現象、言い伝えはいくつもあるが初めて聞くワードに頭を悩ませる。
(もっとも、その大半は自分たちが作り出したものだが)
「この二つ杜トンネルからね、だれも乗って居ないバイクが急に走ってきたのを見たことがあると言う書き込みを見たの。掲示板でね」
そんなの迷信っすよ、と答えながらふとある出来事が頭をよぎる。
もしも彼女の言っていることが正しければ思い当たる出来事が一つだけあった。
「他にどんなことが書き込まれていたんすか?」
「血だらけの男性がいた、とか学生がバイクに乗って猛スピードで港へ走って行った、とかかしら」
思い出しながら呟く彼女のエピソードで確信した。
きっと、露伴が噴上裕也のハイウェイ・スターに攻撃された時の話だ。
あの時に居合わせた人間に目撃され、ネットで書き込まれていたなんて、
少し大げさになってしまった自体に若干の焦りを覚えた。
「おれは聞いたことないっすけどね〜〜〜。
迷信っスよ!」
念を押すように再度答える。
そう…とわかりやすいほどに肩を落とす女性をただ見つめる他なかった。
「怪談とか好きなんすか?
今日の夜、杜王町の怪談話特集とかやるんで見て見たらどうすかね!…なんて」
気をそらすために語尾を小さめながら声をかけてみると思いの外食いついた。
「それって何時から!?」
「20時、す」
背を反らしながら答えると彼女はすぐさま腕時計を見やり、彼女のものと思わしき周囲に散らばった私物を片付け始めた。
一連の動作を眺めていると、作業を止めた彼女がふとこちらを見た。
「きみ、学生?」
「そうすけど…」
紅く艶やかな唇を歪ませ笑う彼女に目を奪われていると彼女は自分が乗っていたバイクに跨った。
「えっと、何してんスか」
「ここから15分じゃ家につかない。
私が運転するからきみ、後ろに乗っていいよ」
「いやこれ俺のバイクなんすよ。
つーか俺も急いで…」
「早く!」
「ハイ!」
既視感のあるご都合主義に翻弄されながらも素直に従う。
彼女の艶めく長い髪を見つめながら夏の始まりを感じた。
理不尽の夏
(仗助!最初の15分、録画されていないんだけど!?)
(いや〜〜、ちょっと面倒ごとに巻き込まれたと言うか)
(言い訳しない!!)
end...
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