トキめきを君と


年が明けて6日が経った頃、
忙しい日常が落ち着いた私はある山奥のお家へ遊びに来た。

「こんにちはー!」

ドア越しに大きな声でせいいっぱい挨拶すると、
直ぐに開けられたドアからにっこり笑顔で挨拶を
返してくれるチチさん。

「薔薇子さん!よく来てくれたべ!
 さ、中へ入るだ」

「お邪魔しまーす!」

あたたかいダイニングへお邪魔すると
ふわっと漂ってくる美味しそうな匂い。

「ちょうどお昼ご飯が出来たところだ!
 薔薇子さんも一緒に食べるだよ」

「お言葉に甘えて…!」

チチさんの手料理はとてもおいしい。
素材はよくわからないけど豪快に盛り付けられた
色とりどりの料理が今日もテーブルいっぱいに並んでいる。

「さあ、座ってけろ!」

誘導されたイスに座ると丁度、2階から悟飯君が下りてきた。

「こんにちは、薔薇子さん!」

「こんにちは、悟飯君」

お行儀よく丁寧に頭を下げて挨拶をした悟飯は
席には座らず、キッチンへと走っていった。
何気なく視線で追ったキッチンの入口から再び姿を現した悟飯の手には、ぴかぴかのマグカップが握られていた。

「薔薇子さん、どうぞ…。」

少しの照れを隠しながら差し出してくれたのは
ふわふわ湯気が立つ、ミルクがたっぷりと入ったカフェラテだった。


「ありがとう、悟飯君!」

笑顔でお礼を言うとはにかんだ笑顔を返してくれた。

「そういやチチさん、初詣に行かれたんですよね
 いかがでしたか?」

何気なく尋ねた質問にチチが食い気味に答える。

「今年もしーーーーっかり、神様にお願いしただ!
 悟飯がえらい学者さんになれるように!」

毎年チチ一人で初詣に行っているのだろうか?
そういや去年もこんな返しが来たな、と想い馳せた。

「あ、…は、ははは!
 素晴らしいお願いですね!」

目をきらきらさせ両手を組みながら
息子の学者姿を想像しているチチを横目に
悟飯へ問いかける。

「悟飯君は?
 お年玉とかもらえたかな?」

私の問に対し、こちらも元気に答える

「はい!
 おかあさんが辞書や勉強道具を買ってくれました」

「あ…、そ、っか……。
 ん、そっか!」

この話題は掘り下げてはいけない
そう感じた私は早々に切り上げ別の話題を模索する。

「そうだ!
 悟飯君、このあと街に行かない?」

普段、勉強漬けであろう悟飯を少しでも楽しませたく提案してみる。

「えっ、でも…」

歯切れ悪く答えた悟飯はちらりとチチをみた。
対してチチは少しの沈黙の後、両手を腰に当る。

「今日はせっかく薔薇子さんが来てくれただ。
 行ってくると良いだよ」

悟飯と2人で顔を合わせにっこり笑う。
私は内心ほっとした。

「ただし、遅くならないうちに帰ってくるように!」

「はい!」

ご飯を食べ終えた悟飯はすぐさま支度し、外に出る。

「きんとうん?」

「はい!
 この方がもっと早く街へ行けます!」

金色に輝きふわふわと宙に浮かぶ雲にのせてもらい
西の都へと旅立った。

街に降り立つと人であふれ、賑やかな声がする。

「わ…すごい。人がいっぱいですね」

きょろきょろと見回す悟飯。
三が日は過ぎても世はまだお正月のようだった。

「まだお正月って感じだね!」

「ぼく、お祭りに来たの初めてです」

頬を紅潮させながら感動する悟飯。
それを聞いた私はお祭りらしく楽しい思い出をつくってもらえるよう張り切った。

「ねえ、悟飯君、なにか食べない?」

「えっと、」

「よし!
 りんご飴、食べようか!」

甘い香りが香る屋台の前で頬張る2人。

「おいしいです!」

難しい本とにらめっこし、
地球の危機へ立ち向かう小さな戦士。

けれどいまは初めてみるりんご飴に心を躍らせながら
一生懸命頬張る普通の男の子。

「ねえ、悟飯君、
 りんご飴、気に入った?」

口いっぱいに詰め込んだ悟飯がこくこくと首を縦に振る。
心が温かくなる気分を感じながら、その日は一日めいいっぱいお祭りを楽しんだ。



夕方、星も瞬き始めたころ。
屋台にお詣りにおみくじに。
たくさんのお正月イベントを堪能したあとのお別れ。

私のお家は西の都から少し外れた郊外にある。
悟飯君が私を家まで送る!と言って聞かなかったので
お言葉に甘えてお家まで歩くことにした。

15分ほど、他愛もない会話をしながら歩いていると
あっという間に私の家へ着いた。

「きょうはありがとうございました」

たのしかったです、と言いながら
小さくぺこりとお辞儀をする悟飯。

「こちらこそ!
 私も凄く楽しかったよ!」

何か言いたそうに、名残惜しく視線を宙へ漂わせる悟飯の前でしゃがむ。

「あのね、」

言葉を発すると視線を上げ、目を合わせてくれる。

「夏にもね、お祭りがあるんだよ。」

そういってほほ笑むとキラキラした目で私も見つめる。

「夏には花火が打ち上げられて、
 人もいっぱいいるけど、
 屋台も今日よりいっぱいあって、
 もっと楽しいんだよ!」

金魚すくい、射撃、
鈴カステラにお好み焼き、
単語をあげると悟飯は楽しそうに相槌を打った。

「だからね、今年の夏は、
 一緒に夏祭りに行こうか!」

「はい!」

りんご飴もいっぱい食べようね、
と言いながら小さい小指と約束を交わす。

待ち遠しそうに笑顔で手を振りながら
星空へと飛び消えていった悟飯へ
見えなくなるまで手を振り続けた。




(浴衣姿の薔薇子さん、早く見たいな)


end...