“彼女”は魔術師だった。御三家と呼ばれる由緒ある家系に生まれた為か魔術回路の本数も質もそこそこ優秀な魔術師であった。体が弱かったことを除けば、本当にそこそこ優秀な魔術師だったのだ。
 “今の彼女”も魔術師である。御三家とは縁遠いごく普通の一般家系に生まれたが前世のお陰か魔術回路の本数も質もそれなりに優秀な魔術師であり、今度は身体も丈夫だ。
 しかし彼女は己が魔術師であることを隠しその魔力を悟られぬようコントロールしながら、聖杯戦争とも無縁な、平穏で慎ましやな生活を送っていた。

 そんな折、半ば拉致される形で赴いたカルデアで運悪く人理焼却から逃れてしまい、結果として藤丸と立香の双子と共に、人類の生存を託されることとなる。
 レイシフト適正が百パーセントとという双子を軸に、レイシフト適正がやや低くマスター適正が最上である彼女がサポートとして。三人のマスターが誕生した。

 この物語は、一般人でいたかった魔術師がひょんなことからカルデア所属のマスターとして働く話である。



「魔術協会に所属していない魔術師とは珍しい」
「はあ、まあ……一般人として生きていたので……」

 魔術協会に属せずとも、時計塔になど通わずとも前世での記憶が魔術師たるやを教えてくれていた。その実は、彼女の過去に深く関係するアインツベルンの者と出会いたくなかっただけなのだが。
 彼女が“生きていた”時代とは違う世界だということは理解しているが、だからといって全てが異なる世界ではない。懐かしいという感情は、要らない。

 そもそも今世でも魔術師として生きること自体が不本意だったのだ。しかしカルデアの外に出れば誰もいない人理焼却済みの世界。ここで働く他ない。

「ま、細かいことは後にして、早速君のサーヴァントを召喚しに行こうか」
「はい」

 ダ・ヴィンチに敬語は要らないと言われたが一般職時代の癖でつい敬語が出でしまう。これから少しずつ崩していくことになるだろう。
 人類最後のマスターである双子を連れて訪れたのはカルデアが発明した守護英霊召喚システム・フェイトが在る部屋だった。といっても置いてあるのはマシュ・キリエライトが武装している盾そのものでありその中央のサークルが魔法陣の役割を果たしているそうだ。故にこの部屋が彼女の盾の保管場所兼召喚部屋となっている。
 ナマエの潤沢な魔力に反応したのかサークルからは淡い光と共に底知れぬ魔力が発せられており、その力に充てられたのかナマエは無意識に唾を呑み込む。

「さ、ここにこの聖晶石をセットして……」

 ダ・ヴィンチが説明するよりも早く、彼女は詠唱を始めていた。

「素に銀と鉄、礎に石と契約の大公。降り立つ風には壁を、四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。閉じよみたせ閉じよみたせ閉じよみたせ閉じよみたせ。繰り返す都度に五度。ただ満たされる刻を破却する――」

 カルデアの簡易的な召喚式とは違う、正式なそれ。
 唱える言葉が増えていくに連れ彼女の左目が灼けるように熱くなっていくのが分かる。
 以前にも経験した熱だ。

「――Anfangセット

 初めて聞く呪文に双子の視線は彼女から離れない。
 ダ・ヴィンチ女史もまた、久しぶりに聞くその詠唱内容に、彼女が一介の魔術師でないことを悟った。

「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ、誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ――!」

 刹那、召喚式は虹色に輝く。



「サーヴァント、ルーラー、天草四郎時貞」
「……!」
「……貴女が私のマスターですね。よろしくお願いします」

 慈愛に満ちた笑みを浮かべる神父姿のサーヴァントに、ナマエもまた笑みを浮かべた。
 彼女の左眼にはそれまでは無かった令呪が浮かび上がっている。


 FGO未プレイ時に書いたものなので召喚システムについて認識違いがあったのでちょっと修正しました。


一般人でいたかった。(天草/FGO)