これの続きです。
「お久しぶりですね、マスター」
召喚に詠唱を用いたことについて根掘り葉掘り聞かれ何とか言い訳をでっち上げダ・ヴィンチ女史と双子から解放されたナマエ。
古い書物で読んだ記憶があった、だなんて純粋な双子はともかく、きっとダ・ヴィンチ女史は騙せないだろう。それでも深く聞いてこないのは彼女の優しさからくる気遣いだった。
初めての召喚で裁定者を、しかも天草四郎を召喚するなんて。その運の良さに双子からは羨望の眼差しを向けられ幸運を分けてくれと強請られた。分けれるものならばそうしている。
しかしナマエがあれこれ言えば嫌味になりかねない。召喚で疲れただろうから詳しい仕事内容は後日と、ダ・ヴィンチ女史の気遣いに甘えることにした。
つい先程契約したサーヴァントを連れて彼女に充てられた個室に戻った。基本的に私室には最低一人のサーヴァントを控えさせておくのが決まりなのだそうで、今の彼女には天草四郎時貞しかサーヴァントがいないので必然的に彼が私室に居座ることとなる。
そうして、部屋で一息ついた時に彼から発せられたのが冒頭の台詞である。
「……人違いじゃない? 私と貴方は今日が初対面のはずよ」
嘘は言っていない。魂は同一だとしても今のナマエはアインツベルンのナマエではないのだから、“彼女”と天草四郎時貞は今日あの時が初対面である。
ベッドに座るナマエを見て、天草もベッドの向かいにある簡素な椅子に腰を下ろす。
あくまで初対面を突き通そうとする彼女に天草は静かに溜め息を吐く。これ以上不毛な会話は御免だ。
「姿形が変わろうと魂は同じだと、よく判ります」
当たり前であるように言いそっと目を閉じた天草に、彼女は瞠目する。
英霊故か、はたまた彼が天草四郎時貞だからか。
きっと後者なのだろう。ナマエに前世の記憶があり、その“前世”でも天草四郎時貞のマスターであったからこそ、こうして別の世界線で、別人と言ってもいいほど容姿も性格も変わった彼女を認識出来ている。
そしてナマエもまた、あの時とは随分変わってはいるが今の言葉で目の前の天草があの“天草四郎時貞”であると確信出来る。
「……」
否定出来ないのは肯定と同義である。
第三次聖杯戦争。その時を生きていたナマエ・アインツベルンは生まれ変わってナマエ・ミョウジとしてここにいる。
「あの時はもっと幼くて髪の色も、肌の色も不健康そうでした」
「……実際、健康って状態ではなかったからね」
懐かしむように思い出を語る彼に、ナマエはとうとう観念して応える。
あの時代のナマエは魔術回路の本数も質も恵まれていたが生まれつき体が弱く外出することも禁止されていた。
故に他のホムンクルス同様サーヴァントの魔力源となるよう“教育”を受け、結果として彼のマスターとなった。
そして、死因は病死では無かったものの結局彼女は短い人生を終え、何故か別の世界で新たに生を受けたのである。
低い位置で一纏めにしていたバレッタを外せば、前とは違う色素の濃い髪が静かに広がった。年相応に手入れは欠かしていないそれは多少の痛みは伺えるがしっかりと艶がある。
血色の良い肌、真っ直ぐ前を見る瞳、ふらつくことのない脚、程よく筋肉の付いた腕、発育の良い身体、しっかりと意志の篭った声。
今の彼女が本当に健康体であることを視認した天草は初めて今のナマエを見た時と同じ、慈愛に満ちた笑みを浮かべるのだ。
「ええ、知っています」
君のことは忘れないよ(天草/FGO)