前面の硝子からぼんやりと外の銀世界を眺めていたアサシンのエミヤに話しかけたのは人類最後の双子マスターのサポートとしてカルデアで働いているナマエだった。
 彼が振り返ると彼女は穏やかな笑みを浮かべており手には何やら紙袋を抱えている。後ろには彼女のサーヴァントであるアーチャーのエミヤも佇んでいて、これまた何かを抱えていた。

「……」
「レイシフト先でこっそり買ってきたの。三つしかないから三人で食べましょ」

 そういって紙袋から取り出したのはたい焼きだった。アサシンのエミヤは渡されるがままに熱々のそれを受け取り、彼女の顏と交互に見比べる。

「……何で僕なんだ」

 本来サーヴァントは食事を必要としない。生きていた頃の習慣や懐旧、微々たる魔力の摂取など食事を楽しむサーヴァントもいるがアサシンのエミヤは自ら食事を進んで摂る性質ではなかった。
 それは彼のマスターである立香も、その双子の弟である藤丸も、彼の目の前にいるナマエも分かっているはずだ。だのに、何故。
 菓子を食べながら雑談がしたいのなら適任者は、それこそ彼女のサーヴァントにもいる。
 だのに、何故。誰とも関わり合おうともせず愛想もなく言葉数も少ない、それも他人のサーヴァントである自分を選んだのか。

「んー、たまたまアサシンがそこにいたから、かしら」

 あっけらかんと答えた彼女に、彼は言葉に詰まった。あまりにも単純な答えで、呆れたと言った方が正しいかもしれない。
 そのわずかな間を埋めるようにアーチャーのエミヤが抱えていた水筒から三人分のお茶を用意して硝子に併設されたカウンターに湯呑を置く。
 有無を言わさぬ連携プレーでアサシンのエミヤは観念せざるを得ないのだと悟った。

 しかしながら彼女の言葉は真っ赤な嘘である。本当は“彼”だから誘ったのだ。
 何度も人生を繰り返していればそれこそ英霊と肩を並べるとまではいかないが、それなりに聡くなる。“アサシンのエミヤ”が誰であるかくらい簡単に気付けてしまうくらいには。

「やっぱりお茶請けはタイ焼きに限るわね」
「ああ、落ち着くな」
「……」

 湯気の立つお茶の僅かな苦味とたい焼きの甘さは実によく合っていて、その組み合わせを初めて口にするアサシンのエミヤでもその美味さはよく理解できた。
 しかし今の彼は美味しいという感情よりももっと大切な感情が揺り動かされている。

「どう? アサシン」
「……何故かは解らないけど」
「うん」
「懐かしい気がする」

 彼の記録には訪れることの無い“違う世界での彼の記憶”がそうさせるのか。アサシンのエミヤ、ナマエ、アーチャーのエミヤという今までにない三人でたい焼きを食べたからなのか。
 或いはアーチャーのエミヤが煎れたであろうお茶があまりに庶民的な味だったせいかもしれない。

「……」
「そう。良かった」

 アーチャーのエミヤは複雑そうな表情をしているがナマエは満足そうに笑っているのでこの感情は間違いではないのだとは分かった。が、理解に苦しむことは確かだった。
 自分はサーヴァントなのだから戦って相手を殺すことが務めだ。それ以上でもそれ以下でもない。だのにマスターである立香も、彼女も、構いたがるのか。

「また買ってくるわね」
「……あぁ」

 それでも、色んな疑問を差し置いて、またこうしてこの二人とたい焼きを食べたいと感じてしまったのも事実だ。

「お茶のおかわりはいるかね?」
「お願いするわ」
「……僕にもくれないか」

 茶のおかわりを注ぐアーチャーのエミヤを他所にナマエはアサシンのエミヤを見やる。
 魔眼に改造済みの彼女の瞳にはエミヤに見えることのない女性の姿を捉えていて。彼女が柔らかく微笑んでいるのを確認してナマエは最後の一口を頬張った。


 ×回目の人生で衛宮切嗣の養女だったナマエと、アサシンのエミヤ(アイリと出会わなかった世界線の切嗣)と、アーチャーのエミヤの三人でたい焼きを食べているところを書きたかった。
 執筆時zeroコラボ未履修で配布鯖アイリの存在知りませんでした。アイリ不在カルデアになってしまった……。



在りし日の面影(エミヤ殺/エミヤ弓/FGO)