自認


温泉旅行編―閑話―


 それぞれの部屋に戻った後、俺は二つの目に驚いた。やはり声が聞こえてしまっていたのだろう。布団に寝転びつつも部屋に戻ってきた俺を見上げる五条先生と壁にもたれかかるように座っていた七海さんがこちらを見ていた。

「随分長いトイレだったね」
「………。どうせ全部聞いてたんじゃないですか」
「訊かれてるよ七海」
「……すみません、盗み聞きをするつもりはありませんでしたが」
「あ、いえ、七海さんは謝らなくて大丈夫です」
「ナチュラルに僕には謝罪を強要してる?」

 やはり聞かれていたか、とため息を漏らす。しかしまあ仕方がないことだ、と言い聞かせ布団に入る。すると七海さんも続くように布団の中に入っていった。

「恵って結構ロマンチストだよね?」
「は?」
「さっきの泉への返し、漱石のやつでしょ?」
「おやすみなさい」
「あー、照れて話題逸らそうとしてる」
「いいえ」
「じゃあ答えてよ、恵ー」

 シーツが擦れる音がする。おそらく五条先生が体勢を変えたのだろう。これから何を訊かれるのか、何となく分かってはいた。

「恵はさ、泉のこと好きなの?」

 だからその質問にはすぐに答えられた。



「はい。そうみたいですね」

 俺がまさかすんなり答えるとは思っていなかったようで五条先生は結構煩めな声で「マジで!?」と飛び起きた。てか普通に佐狐に聞こえるだろ、静かにしてくれ。

「入学当初から何となく恵は泉のこと気に入ってんのかな、と思ってたけど、まさか本当にそうだとは思わなかった」
「…若いって良いですね」
「…まあでも、敵いませんけどね」

 あれだけ騒がしかった五条先生は俺の言葉の後から何も話さなくなった。俺は自分の言葉を反芻しながら、それでも佐狐を好きだと認識すると浮かび上がる佐狐の笑顔やさっきまで触れていたあの華奢な体を思い出す。すると急に心がぽかぽかと温かくなってきた。

「それは恵次第じゃない?」

 やけに真面目なトーンで返ってきた。俺はその言葉を聞いて、その言葉が嘘ではないと思ってしまった。いや、思いたかったの間違いだろうか。しかし、その言葉に妙に安心してしまって、俺の記憶はそこで途絶えた。



 これは恵が寝た後の五条と七海の会話である。

「……寝ました?」
「みたいだね」
「…正直、私も伏黒くんの立場だと敵わないと思ってしまいます」
「えぇ?そう?二人ともネガティブだねえ」
「ですが、彼女を本当の意味で救えるのは、多分伏黒くんのような人なんだと思います」

 七海はその言葉を最後に就寝した。五条は先程あんなに恋愛に対して淡白な反応を示した七海の言葉とは思えずに意外だと思ったのだった。

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