其々の思惑
その日、地下街のゴロツキを追っていたのは、憲兵団ではなかった。
立体機動にて、急旋回したリヴァイの目に移ったものが、それを物語っていた。
「自由の翼、調査兵団だ」
追っ手を調査兵団だと確信したリヴァイらは目に強い意志を持ち、企てていた作戦の実行に移る。
リヴァイが思い切りエアーを吹かし、追っ手を撒くために建物の中に入り込む。そのすぐ後ろに追っ手が近づいてきたことを察知したリヴァイが更にスピードを上げようとしたその時。
「おい!お前!」
追っ手から声が上がった。リヴァイの意識が一度そちらへ向く。しかし、相変わらずスピードを上げつつあるところを見た追っ手は、更に彼の注意を引くべく口を開いた。
「おい、お前リヴァイ、だろ!?待て!」
自身の名前を呼ばれたリヴァイは、これには流石に追っ手の方を振り返ろうとする。声に聞き覚えがあったからだ。その瞬間に追手が思い切り距離を詰めてくる。咄嗟に刃を構えたリヴァイに、追っ手は無防備に対面していた。
「テメェは…」
「いいか!よく聞け!お前はこのまま逃げろ!お前の仲間たちもすぐに逃すように、何とかするから…!」
「テメェ何言って…!?」
「時間がない、私の言う通りにしろ!」
「ベティ!そこを退け!」
リヴァイと対面していたのはベティだった。彼女は建物を出きった頭上からの声に眉を顰め、舌打ちをした。リヴァイが目の前のベティが、先日突然訪れ、自身が住む前の住民が遺した手紙を読み号泣していた女だということをようやく理解した頃、入れ替わるように対面したのは調査兵団の大柄な男だった。
ミケがリヴァイを地面に叩きつける。対抗しようとリヴァイが猛攻するも、更にエルヴィンが加わったことにより、ついにリヴァイは捕らえられてしまう。
エルヴィンの脅しにも近い問いかけにより、リヴァイは拘束された。更にファーランやイザベルと同様に床に膝をつく形で、エルヴィンたちと対面させられている。
その際、ファーランやイザベルも、ベティを見て、あの夜の訪問者と合致したらしい。そんな彼らと目が合ってしまったベティは、思わず視線を逸らした。
「いくつか質問させてもらう?これをどこで手に入れた?」
そう言うエルヴィンは三人の前に立ち、立体機動装置を掲げた。
「………。」
「立体機動の腕も見事だった。あれは誰に教わった?」
「………。」
無言を貫く彼らに対し、エルヴィンはリーダーを定めたらしく、リヴァイの目の前に立った。
「お前がリーダーだな?兵団で訓練を受けたことがあるのか?」
「………。」
あくまで無言で貫こうとするリヴァイの目は如何にエルヴィンを殺して逃げてやろうか、と言わんばかりの目つきだった。すると全く同じことを言ったエルヴィンは、最後の手段と言わんばかりにミケを目配せをする。その意味を理解したベティが声を上げたが、それは既に遅かった。
「もう一度訊こう。立体機動をどこで学んだ?」
地面に押さえつけられたリヴァイは呻き声を漏らしながらも、無言でエルヴィンを睨みつけていた。
「おい、ミケ。やめろ、そいつから手を離せ」
「……何故、お前がそう言う?」
「そこまでする必要があるかって言ってんだよ」
「…ベティ、お前は黙っていろ」
エルヴィンの少し後ろに立っていたベティは、自身を振り向きもせず淡々と述べるエルヴィンに怒りを覚えた。その表情は、ファーランやイザベルたちにほんの少し希望を見出させる。
その後もエルヴィンとリヴァイらの駆け引きは続いた。緊迫した空気が漂う中、ベティは悔しそうに眉を顰めたままだった。
痺れを切らしたエルヴィンがファーランとイザベルを捕らえていた兵たちに刃を首へ持って来させたとき、リヴァイの目の色が確かに変わった。エルヴィンは名前を聞き出すと、リヴァイの目の前にしゃがみ込む。
「私と取引をしないか?」
その言葉を聞いた瞬間に、ベティが一歩二歩前のめりに出てくる。
「ちょっと待て、エルヴィン!話が違うだろ」
「何の話だ?」
「ギュンターのこと忘れたのか!?また同じこと繰り返すのか!?」
「…やはりハイネを連れてくるべきだったな」
その発言はおそらくベティにとっての逆鱗だったようで、一目散にエルヴィンに詰め寄り、座り込んでいるエルヴィンのマントを掴み無理矢理立たせた。その状況に間髪入れずミケが割って入り、ベティを羽交い締めにして拘束する。
「ミケ、離せ!エルヴィン、私は言ったはずだ…私は…」
「俺はお前に道案内を頼んだだけだ」
「道、案内…だと?」
「お前は地下の出身だ。地形ついてはお前が専門だろう。だから連れてきた。それだけだ。それ以外はお前に関係のないことだ。ご苦労だった」
「エルヴィン…っ…!」
今にも殴りかかりそうだったベティを更にミケが強く拘束し、ベティはその強さに思わず声を漏らす。
「お前、さっきコイツを逃がそうとしただろ?」
ミケの問いにベティの動きが止まる。そしてその瞳は泥だらけのリヴァイを捉えていた。
「だったら何だ」
「知り合いなのかどうか知らないが、お前の軽率な行動が上官にどれだけの迷惑をかけるのか、少しは考えてから行動しろ」
その言葉でベティはようやく大人しくなった。それを確認したエルヴィンが、リヴァイとの話を進めていく。
ベティの思いも虚しく、リヴァイたちは調査兵団への入団を希望した。
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