「うん。大体の話は理解できたし、とりあえず水族館を楽しもう!」
「今更なんだけどどうして水族館」
「星が地球に来たら海に行くのが夢だったって言ってたけど……私、海嫌いだし」
「えっ! カルアちゃん、海嫌いなの? 広くて綺麗で素敵な場所って聞いたんだけど」
「海そのものは好きだよ。でも水着になるのがちょっとね」

 山の中で朝食を食べ終えた後、月は本題に入ろうとした。人間の助けがあった方が人探しもしやすいだろうと考え、カルアに助けを求めようとしたのだ。だが、朝食の最中に星が地球に降りたら海に行くことが夢だと話したことでカルアは「海には連れて行ってあげられないけど水族館になら連れて行ってあげる。今日行く予定だったからね」と。手早く後片付けをして下山した。
 月が話そうとしていたことには気付いていたので水族館への道中で聞くことにした。大きくて長い緑色のポケモンに捕食されかけたこと。逃げている最中に星と月の家族が地球へ落ちたこと。2匹を探すためにスペースシャトルに乗って宇宙へ訪れた人間に我儘を言って脱出ポッドを貰い、それで降りてきたこと。

「きゃー! あの子かっこいい!」
「あれはアバゴーラだね。タンカーの船底に穴を開けるほどの張り手をするらしいし、その気になったら水槽も砕けると思うよ」
「ひえっ、すっごく強いんだね!」
「カルア、あのとげとげした紫のポケモンは?」
「なんだろう。見るからに毒持っていそうだけど……あ、説明があそこにあるよ」
「知ってるポケモンに偏りありすぎない?」
「イッシュ地方にいるポケモンは知ってるけど、さすがにいない子までは知らなーい」

 標識に書かれた矢印に沿って水槽を見て回る。川にいるポケモン。海にいるポケモン。生息する場所で水質が変わるのだから水槽が違うのは当然のこと。これに加えて主に発見される地方別にエリア分けされているので手の込んだ展示だとカルアは感心する。
 地球に降りてきたばかりの2人がそれを知るわけもなく。どこを見ても美しい光景に目を輝かせ、忙しなく動き回る。最初は乗り気でなかった月も水族館の奥に進むにつれて夢中になっていく。

「カルアちゃん! カルアちゃん! 人魚ってなあに?」
「海に住んでいると言われている伝説の生き物だよ」
「……伝説の生き物が展示されているの?」
「え、人魚が展示されているの!?」

 月が指さす方に目を向ける。そこには貝殻に装飾された看板。そこには美しい文字で人魚姫の踊り場と記されていた。絵本から小説まで数多くの作品に取り扱われる人魚姫。絵本を読む幼子であれば1度は出会うことを夢見るだろう。そんな人魚姫がいると聞けば衝動的な行動に駆られるのも仕方がないことだろう。
 カルアは星と月を置いていくように走りだす。その途中に飾られている美しい水槽には目もくれず、人魚姫が展示されている水槽に向かう。

「……っ」

 人は心から感動をすると息をすることさえも忘れてしまうのだとカルアは初めて知った。遅れてやってきた星と月も同様の反応をする。足が地面に縫いつけられたようにその場から動けなくなり、一瞬でも逃すことが惜しくて瞬きすらできない。激しくなる鼓動が煩わしく感じるほど静寂な空間。

「きれい」

 人魚は3人いた。
 上半身は人の形、下半身は種族の特徴を残した尾鰭。人ならざる姿をしており、彼女たちがポケモンであることは明らかであった。だからカルアは少しばかり悩んだ。人魚は何人と数えるべきなのか何匹と数えるべきなのか。圧巻の光景を目の前にして思考が停止し、1周回ってしょうもないことを思考することになった。
 震える声で絞り出された称賛の言葉は誰が口にしたかも分からない。きっと口にした本人も分かっていないことだろう。


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