「水鈴、いきまぁす」
鮮やかな濃紺の尾鰭に桜色の星と真珠を飾りつけた美しい金髪の人魚がサクラビスやハンテールに囲われて舞うように泳ぐ。水槽の底に沈むパールルを両手で掬い優しく微笑む姿はまるで絵画の1枚のように幻想的であった。
その人魚から離れた位置にある珊瑚礁。そこに人目を避けるように隠れている花色の尾鰭をした人魚。尾鰭と同色の長い髪で額を隠していたが、水中において長い髪はたゆたうもの。額に痛ましい傷跡が刻まれていた。それすら美しさを際立たせる要素となるのだから人魚の神秘とは不思議なものだ。花色の人魚を珊瑚礁から出そうと手を引っ張っているライラック色の尾鰭をした人魚。人魚といえば人魚姫のイメージが強いことから長髪の印象だが、尾鰭よりも少し濃い色をした彼女の髪は肩より上にあった。2人とも揃いの鰭耳をしていることから同じ種族でどちらかが色違いであるのだろう。にこにこと愛らしい笑みを浮かべて花色の人魚にじゃれるライラック色の人魚。2人の様子がどことなく星と月に似ていてカルアは頬を緩める。そこでようやく呼吸らしい呼吸ができた気がした。
3人の人魚とその周りにいる海のポケモンたちの戯れ。飽きることなく幻想的な光景を眺めていると甲高く鋭い笛の音が館内に響いた。ふわふわと夢見心地から一気に現実に引き戻された気分である。そして一拍置いて鈴を転がすような可愛らしい声が笛の音に揺すられてダメージを受けた鼓膜を優しく震わす。
「え、なに。何が起きたの?」
「ほえー、すごい音だったね。頭がくらくらするよお」
「音爆弾を受けた気分……まだ耳がキンキンしてる……」
「……あ。月ちゃん、カルアちゃん! あれ!」
セーラー襟とリボンが特徴的で魔法少女を連想させる水着を身に纏った少女が飛込競技のように美しい姿勢で水槽の中へ飛び込んだ。水中の中ではセーラー襟がふわりと浮かび、リボンはゆらゆらと揺蕩う。少女の可愛らしさを際立たせていた。
しかし、観衆の目を引き寄せたのは浮かぶセーラー襟でも揺蕩うリボンでもない。袖を通して露わになっているその腕。人の姿をしているがそれは腕ではなく青い羽に覆われた先端以外は全体的に白色に染まっている翼であった。
「ハーピーみたい」
「はぁぴぃ?」
「顔から胸部までは人間で両腕は翼、下半身は鳥ポケモンで描写されることが多い伝説の生き物だよ。あの子の場合は一致しているのは両腕が翼っていう特徴だけなんだけど」
「ここは海の宝箱みたいだね。伝説の生き物ばっか」
「まあ、昔は今よりもポケモンの謎が多かったからね。こういう風に一部はポケモンのまま擬人化している子を見つけた人間がそう名付けたのかもね。得体の知れない生き物は恐ろしいから名付けてしまえっていうやつ」
少女は観衆が自分の両腕の代わりに生えている翼に注目していることに気付き、にこーと無邪気な笑顔を浮かべて両腕を振る。今まで流れていた静寂は歓声によって切り裂かれる。歓声を浴びた少女は首からぶら下げている水の石で作られたホイッスルを咥える。ぷっくりと頬を膨らませ、ホイッスルに息を吹き込む様子を見せる。水中の出来事なので観衆にその音は聞こえない。しかし、水中にいるポケモンたちには届いたのだろう。優雅に泳いでいたポケモンも岩陰や珊瑚礁に身を潜めていたポケモンもこぞって少女の周りに集まる。少女は集まってきたポケモンたちと言葉を交わしてから観衆に向けて仰々しくお辞儀をする。少女と同じようにお辞儀をしてみせるポケモンたちはなんて可愛らしいことだろう。
観衆たちへの挨拶を終えたところで何かがとてつもない速さで観衆の前を横切る。集うポケモンたちの周りを通り、やがて少女の両手に収まるように前に差し出された白い翼の上に着地する。誰かが「マナフィだ!」と。驚嘆の声をあげる。