途中まではもっともらしいことを言っていたのに、途端に本音が溢れてきた。空を見上げたままはぁと深く息を吐き出し、ソルトアイスを味わいながらスマホとマップを見比べているカルアに目を向ける。一口頬張る度に幸せそうな表情を浮かべ、飲み込んでから悩ましげな顔をしてマップと睨めっこ。それを数度繰り返してから意を決したような顔をしてスマホを耳にあてていた。
あれは何をしているのだろう。あの小さな機械を使って遠くの人と話ができると言っていたのでそれかもしれない。げんなりとしているが誰と話しているのだろうか。ほんの僅かな付き合いだが、カルアがああいう顔をするというのは珍しいと感じてしまう。カルアの百面相を観察しながらそのようなことを考えていた月は「……まあ、それが現実的なのよね」と。星の言葉に賛同する。
「でっしょー!」
「で、どうやって説得するの?」
「それは……」
「それは?」
「頼み込む!」
「つまり何も考えてないってことね」
「そういうことは月ちゃんの方が得意でしょ?」
「強引さでは星に負けるけどね」
「つまり2人でやれば隙はないってことだね!」
まさに見切り発車。けれど、2人ともなんとかなりそうだという確信を得る。それもそのはず。大人たちに不可能だと大反対されてきた地球への訪問を実現させているのだ。流れ星が落ちた気がするという理由だけで山まで全力疾走し、宇宙からやってきたという得体の知れないポケモンの話を真剣に聞いて水族館まで連れてくる。カルアは好奇心が強くて人が好いのだ。そんなカルアを説得するくらい些末な問題に感じてしまうのだろう。
星は飛び跳ねるように立ち上がる。澄んだ青空を映したように綺麗な水色の髪がふわふわと揺れる。爪先に体重をかけてくるりと半回転。満面の笑みを浮かべて手を差し伸べる。太陽を後ろにしているのもあって星の笑顔は眩しく、月は目を細めて手をとる。
「カールアちゃん!」
「わっ!?」
「ちょっと星」
「びっくりしたあ。急に抱き着いたら危ないよ」
「えへへ。ごめんねー」
「もう大丈夫? 長いこと余韻に浸っていたけど」
「うん、もう大丈夫!」
「地球ってすごいね。あんなものがごろごろあるんでしょ」
「龍宮城は別格だけどね」
カップとスプーンをゴミ箱に捨てているカルアの背に星は抱き着く。勢いに押されてよろめき、うっかり顔からゴミ箱に突っ込みそうになるカルアを月が慌てて支える。注意を受けて謝罪を口にするも、反省の色は見えない。しかし、不快感を抱くことなく許したくなるのは無邪気さからだろうか。カルアは笑いながら腰に腕を回して引っ付き虫となる星の頭を撫でる。
そのやりとりを見ている月はほんの少しだけ頬をむくれさせる。それを見逃さなかった星はにこにこと笑ってカルアに「月もなでなでしてあげて」と。背伸びをして耳元でひっそりとお願いする。意図を汲み取れず首を傾げ、言われるがまま月の頭を撫でる。突然のことに月は目を丸め、驚きの色を隠せない。すぐに星の差し金だと気付き、薄桃色に染まった頬を隠すように顔を逸らして咳払いをする。
「マップを真剣に見ていたけれど次の行先決めたの?」
「うん。地下鉄に乗ってキトウタウンに行こうかなって」
「キトウタウン?」
「観光名所ってわけじゃないんだけど……ここ、救助隊があるの」
「きゅーじょたい?」
聞き慣れない言葉に2人は首を傾げる。なんと説明したら伝わるだろうか。悩ましげな声をあげ、救助隊についてろとる。並ぶ説明文に目を通し、ふと疑問が浮かぶ。2人は宇宙で出会った宇宙飛行士に地球の話を聞いて知識を得たと話していたが、どこまでを理解しているのかと。話を聞いていても宇宙に無いものを想像するのは難しいだろう。
更に悩ましげな声をあげて言葉を選んでいるとカルアの悩みに気付いた月が「個人好みの偏った話ばかり聞いてたから分からないものは分からないよ」と。その言葉を聞いたカルアは難しく考えることをやめ、噛み砕いて説明する。