「ん−っと。これ、なんて読むんだっけ?」
「パンケーキじゃない?」
「ぱんけぇき……ケーキって甘くておいしい食べ物だったよね?」
「確かそういう甘いものが好きな人が語ってたね」
「そしてここからとっても甘い香りがする……ということは!」
「え、ちょっと」
甘い香りを辿って歩いていると一際大きな木が目に入った。木の周りで地面をつついていたポッポやムックルは大きな木に歓声をあげて駆け寄る星から逃げるように飛び立つ。それを目で追っていると大きな木の上に建物があることに気付く。ツリーハウスなんて初めて見たなあと心を踊らせ、カルアはスマホで写真を撮り始める。そんなカルアをよそに星と月は大きな木を観察するように周囲をうろうろする。その最中に螺旋階段の登り口に添えられたメニュー看板を発見し、2人はしゃがみ混んで文字をなぞる。
パンケーキという未知なる食べ物。けれど、それがとても美味しいものだということは風に乗って漂っていた甘い香りから察せられる。星は両手を叩き、勢いよく立ち上がる。この後の行動が手に取るように分かり、月は慌てて止めようとする。
「2人とも、いつまでそこにいるのー? 置いてっちゃうよー」
「…………」
「カルアちゃんは行くつもりみたいだよ?」
「だとしても、あれ食べたいこれ食べたいって我儘言っちゃだめだよ。昨日も言ったけど……」
「一人旅を想定しているカルアちゃんにとって私たちの分まで支払うのは痛手、でしょ? ちゃんと分かってるよー」
つい先程まで写真を撮っていたはずのカルアは螺旋階段を登っていた。手すりから身を乗り出し、メニュー看板と見つめ合う2人に声をかける。早く早くと登ってくることを促すカルアの姿を見た星はにこーと満面の笑みを浮かべる。でも、やっぱりと躊躇う月の手を取る。
カルアと一緒にいるためには負担にならないようにすべきだと月が考えているのを星は知っている。もちろん、星自身もそうするべきだと思っている。けれど、遠慮ばかりして息がつまる思いをするのももったいないじゃん! という星の考え。螺旋階段を登っている間に月に伝える。
「星」
「はあい」
「あんた、短期間でカルアの思考に影響されすぎ」
「えへへ。それほどでもー」
「いや、褒めてないから」
「なになに? すっごく楽しそうだけど何の話してんの?」
「秘密だよー」
どこに照れたのか、頬を赤らめてはにかむ。機嫌を良くした星は月の腕に抱き着くように絡みつく。本当に都合の良い解釈ばかりする子だと溜め息を吐き、2人揃って転ばないように気を付ける。仲良くやってきた2人の姿にカルアは微笑ましく思い、セットした髪を崩さないように頭を撫でまわす。星は嬉しそうに目を細め、月は眉間に皺を寄せる。撫でられることが嫌だったかなと月を撫でる手を止めると眉間の皺は更に濃くなり、撫でられることが嫌なのではなく照れたときの表情なのだと察する。なんて可愛い子なのだろうとカルアはたまらなくなって星に抱き着く。動揺の声をあげる星だが、カルアはお構い無しに愛でる。その様子を羨ましく思った星は「私も混ざる!」と。カルアと星の間に潜り込んだ。しばらくの間そのじゃれあいが続くが、恥ずかしさの限界に達した星は「中に入るんでしょ!」と。声をあげ2人を剥がす。耳が真っ赤に染まってるところが可愛いね、なんて口にしようとしたが察知した月がひと睨みするのでカルアはお口にチャックの仕草をする。その意図は理解できなかった星だがカルアの仕草を真似てから2人はくすくすと楽しげに笑った。
一通りじゃれ終わり、満足したカルアは可愛らしいヒメグマとはにぃべあという店名が描かれたドアプレートが掛けられる扉を開く。からんころんと軽やかなドアベルの音が心地良い。