忍ぶ想いは星空に蕩ける

 ミマイ駅。更に細かく言うならばこの駅を始まりとした鉄道はセイショウ地方の名所である。鉄道を覆う大きなトンネル水槽。セイショウ地方最大級のミマイ水族館から続いているもので、泳ぐみずポケモンたちは花扇の見知っている子たちが多かった。対して、初めてミマイ駅を利用する花色は呆気にとられる。表情が分かりやすく変わるわけではないが、美しいその光景に目をわずかに輝かせていることを花扇は見逃さない。
 サービス精神旺盛なポケモンたちがゆっくりと進む電車に近づき、笑顔を振舞う。中には技を用いて華やかな演出を見せる。まるでこれからの旅路を祝福するかのように。それを1つ1つ丁寧に説明する花扇。なんて贅沢な案内人付きだろうか。

「んーっ。電車の移動は楽だけれど、ちょっと時間がかかるのよね。特に水槽トンネルの間はゆっくり進むし」
「そうですね。でも、初めて見るものばかりで楽しかったですよ」
「ミマイ駅の利用は初めてって言っていたものね。トンネルは龍宮城直通の水槽だもの。すごいに決まっているじゃない」

 ゆったりとした電車の旅を終え、辿り着いたのはイヤマシティ。街全体がおとぎの国をテーマにしたテーマパークのように装飾されている。パステルカラーでまとめられた住宅街。公共施設には壁一面に草花が伸び、柔らかな香りと共に包んでいる。まるで妖精が飛んでいそうな空間はミマイシティとはまた違った美しさだ。
 さぞかし管理が大変なものだろう。街並みに感心しながら歩く花色の手を引き、花扇は迷いなく目的地に足を進める。

「見た目通り、街全体がテーマパークのように作られていてね。いろいろなところでイベントを開催しているのよ」
「すごいですね。それを企画して、回すのも大変でしょうに」
「そうね。まあ、このあたりはジムリーダーの特色が色濃く出ているのよね。うちだとミナモ様が海の民としてみずタイプポケモンを重宝し、龍宮城を拠点にしているし。この街のジムリーダーは可愛いものと楽しいことが大好きで就任時に街を大改装したとか」
「お詳しいのですね」
「職業柄ね。情報が集まりやすいのよ」

 話に花を咲かせれば駅から目的地が少し離れていても到着は早いものに感じる。巨大な球体が目立つ建物。自動扉をくぐれば涼しい風が2匹の身を包む。
 受付に立つ女性は綺麗な一礼をした後、流麗な言葉を紡いで館内の説明を始める。一通り聞き、パンフレットを受け取ると花扇はそわそわと落ち着きがなくなる。

「開演まで30分ほどありますし、展示物でも見ますか?」
「そうするわ」
「先ほどの説明によると世界各地の星空の写真が展示されているみたいですね」
「ええ、そうなの! 有名な写真家様たちがね、星空の名所に回ったみたいなの」

 頬をほんのりと赤く染め、無邪気な少女のようにはしゃいで足取り軽く、展示コーナーへ向かう。途中、はっとした表情を浮かべて置いてけぼりにしている花色の方へ振り返り、急かすように手招きをする。
 落ち着きのない花扇の姿を見るのは初めてとなる花色は彼女にもこのような子どもっぽい一面があることに頬が緩むのを感じる。

「花扇さん、本当に星が好きなんですね」
「そうね。友人と仕事以外だと1番好きかもしれないわ」
「なんだか意外です」
「……、……でしょうね。こういうロマンチックなものは私よりもたまの方が似合うもの」
「え、」

 ぽつり。吐露した言葉はとても小さく静かな館内とはいえ、聞き逃してしまいそうであった。かろうじて花色の耳に届いたものの、真意を汲み取るのに時間を要する。代わりに出た言葉は意味をなさないもの。
 花色の声に我に返った花扇は困ったような笑みを浮かべ、止めた足を案内板に沿って足を向ける。

「なんでもないわ。それよりも早く見て回りましょう。開演時間になるわよ」

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