蓮実は噂や外見で人を判断するつもりはなかった。接点がなくても同じ業界にいるだけで耳に入るpuÅの男好きや遊びが激しいという噂も例外ではなく。休憩中に空木の話を振られたときは恋愛脳なのかと思うところはあったけれどそれまでで。
けれども。それでも。こればかりは予想外だと開いた口が塞がらなくなりそうになる。
「puÅさん、いったいどこに行こうとしてるの?」
「いいところー。あ、ちょっと待っててね」
「あ、うん……って、え?!」
重力を無視するかのように、軽やかな足取りで崖を登る。登る、といより最早飛んでるかのように。危ないと狼狽える蓮実。それを知らぬpuÅは崖の上で何やら物色をし始める。しばらくしてから満足げの声をあげ、両手に木の実を抱えて飛び降りてきた。
いくら低めの崖とはいえ、なんていう行動!目に見えて表情を崩すことはしないが、蓮実は 言葉を失ってにこにこと楽しげなpuÅに釘付けとなる。
「はい、水分補給。美味しいよ」
「あ、ありがとう」
「……微妙な顔してるけど好みの味じゃなかった? それとも疲れちゃった?」
「そうじゃないよ。ただ、これは想像しようもなかったなと思って」
puÅから渡される木の実を受け取り、一口齧りつく。じゅわりと果汁が溢れ、口腔内には瑞々しい甘みが広がる。甘いものが特別得意というわけでもないが、さっぱりとした口ざわりは好ましいもの。あまり見かけない木の実だけれど、なんだろうと首を傾げていると小さく笑いながらpuÅは「こういうポケモンしか踏み入れないような森に極稀に見かける木の実だし、名前はまだないんじゃないかな」と。その話につくづく、これは想像していなかったと思わざる得ない。
「デートと言われて驚いたのもあるけれど、まさかこうくるとはって」
「あー。私が言うくらいだからきゃぴきゃぴしたショッピングとかスイーツ巡りとかそういうの想像した? あ、それとも男漁り系?」
「1番最後のは思いつかなかったかな。最初の2つは薄らと連想していたけれど」
「あはは、そうだよね。でも私、大好きなお友達とか恋人とかそういう子とじゃないと買い物も楽しくできないし、それなら1人で行く派だから安心して」
それについて何を安心すればいいのだろうと。いくら歩けど整備された場に見えない獣道を見渡す。そして、ある意味不安になる。けれども、puÅは迷いなく慣れた足取りで獣道を進んでいく。可愛らしい装いはどう見てもこういう道のりに不釣り合いなのだが、危うげがない。なるほど、都会育ちの女の子に見えて根っからの野生育ちなのかと理解する。
そのようなことを考える蓮実に対し、puÅは勢いでここまで連れてきたけれど大丈夫だろうか。私は慣れているからいいけれど、蓮実さんはあまりこういうの不得意かもしれないと心配になってくる。時々顔色を見るが、ポーカーフェイスが変わらず読み取りにくい。
「こういうところ、よく来るの?」
「んー。頻回ではないけれどたまぁに。都会の喧騒とか他人から貼られるレッテルとか期待されているpuÅであるときとか。そういうのに疲れたときにとか」
「なるほど」
「蓮実さんはないの? そういうこと」
「あまり気にしたことは無い、かも?」
「完璧主義者が成立する人ってそういうところあるよね」
ああ、だから人を惹き付けるのか。誰もが真似できるわけでないそれを当たり前のようにこなすから。そうなるまでに苦労とか努力もあったかもしれないけれど、惹かれる人というのはそういう背景は見ないものだ。人気者は大変だ。
そのようなことを言えば、蓮実は捉え方は人それぞれだからねとやんわり受け止める。
「私はそういう捉え方をするから勝手なお節介を焼くわけなんだけどー」
「お節介?」
「そ。想像力豊かな私はあれこれ考えちゃうから勝手に心配するわけ」
いわゆる押し売りというやつだね。
なんて、軽やかな笑い声をあげる。まあ、もともと甘やかして見たくなる好みの女の子という目で見ていたのもあるんだけど。という蛇足はさすがに付け加えなかったが。
道中、途切れ途切れであった会話はいつの間にか弾むようになっていた。そうなった頃にはpuÅの言うデートが始まってから大分経っていて、遠くの空にオレンジが薄らとかかり始めていた。そこまでかけて、ようやくpuÅの目的地に辿り着いたらしい。
先程puÅが登った崖とは比べ物にもならない高い土と岩の壁。ぽっかりと大きく口を開けたような入口が1つある。洞窟だろうか。ちらりとpuÅを見れば「心配だったら手を繋ぐ? 転ばないようにリードしてあげる」と。小さな手を差し出される。先程まで歩いていた道よりもこの洞窟の地面はでこぼこしており、しかも薄暗い。これは言葉に甘えた方が良さそうだと判断した蓮実は「それじゃあ、お願いしてもいいかな?」と。差し出された手を握ることにした。
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