運び屋の中でも群を抜いて名が広がっている幸風。各地方に支部を展開しているだけあり、職員の数も多い。規模の大きい組織が情報を共有し、統率をとるためには定期的に話し合う場が必要である。
 音羽のトレーナーであるカケルは幸風を束ねる一族の末裔であり、正当な次期当主である。当主がカケルに決まるまでの間、それはもういろいろな事件があったものであるがそれは割愛するとしよう。そしてカケルの手持ちである音羽も組織の中心に立つ存在になる。当然定例会議への参加は必須となる。

「ほたちゃんがなったんのことを紳士的でかっこよく育ったねーって言うからね! どれだけなったんがかっこいいのかを語ってたの!」
「うん。あのさ、途中からいたから改めて言わなくても知ってるからね?」
「かもしれないけど、まだまだ話し足りないの!」

 定例会議では不穏な空気を霧散させる空気の読めないムードメーカーを担当とする音羽にとってお茶請けは何よりも重要案件である。小難しい話と重苦しい空気が苦手な音羽がモチベーションをあげて定例会議に臨むにはお気に入りのお茶請けがないといけないのだ。そう訴え続けたかいあって、定例会議のお茶請けの買い出しは音羽の仕事になった。
 いつもは1匹で買い出しにいくのだが、今日はナードの仕事が休みだという。だったらデートするしかないじゃん! と、音羽が満面の笑みを浮かべて誘うのも自然な流れである。

「俺は普通だよ」
「ちっちっちー。幸風女子からは密か人気があるんだよ。物腰が柔らかくてー、対応が丁寧でー、そしてやっぱりかっこいいって! 特に年下からの憧れが多い!」
「……」
「おとからすると人付き合い慣れてなくて手探りになっている結果、物腰柔らかく見えるんだろうなあって感じだけれど」

 ぴぃぴぃと親鳥をを求める雛鳥の囀りように止まらないお喋り。ナードの腕を組んで楽しそうにしている姿は見ていて飽きないのだが、喋っている間は相手の反応をよく見るために表情の観察をする。つまり、周囲への注意力ががくっと落ちるのだ。
 そんな音羽に慣れているナードは当たり前のようにガラス扉を開き、エスコートするように音羽を中にいれる。

「なったん、そういうところ!」
「えっ」
「そういうエスコートしてくれるところ!」
「だって音、お喋りに夢中になって扉に気付かず顔ぶつけるじゃん」
「あ、あれはたまたまだよ! ほら、おとは鳥ポケモンだし!」
「たまに窓に衝突する鳥ポケモンいるけれど、あれなんで?」
「窓って鏡みたいに風景とかを映すことがあるでしょう? それがおとたちには空が続いているように見えるんだよ」
「ふうん。で、おとがときどき扉に衝突するのは? この間は木材の扉にぶつかったけど」
「うう……。なったんの意地悪!」

 痛いところをつかれた音羽は頬を膨らませ、てちてちとナードの腕を叩く。にんまりと意地悪気な笑みを浮かべたナードは膨らんだ頬をつついて遊ぶ。しばらくすれば音羽もふくふくと笑い、「ていやー」と。可愛らしい声をあげて体重を委ねてみせる。
 楽し気にじゃれあう姿は身内から見れば微笑ましいカップルだし、他人から見ればバカップルだろう。そんな周囲の目に気付いたナードは咳払いを数度繰り返して、頬から手を離す。

「で、今日は何買うの?」
「なったん。仕切り直してみせているけれどお顔が赤いままだよ」
「うーるーさーいー」
「きゃー。なったんが怒ったー」
「あ、こら。店で走らない。子どもじゃないんだから」
「えへへ。ごめんなさい」

 するりとナードの腕から手を離す。ぱたぱた。くるくる。忙しなく動き回れば危うく他の客とぶつかりそうになる。先に気付いたナードは寸前のところで音羽の手を掴んで引き寄せ、回避する。ぶつかりそうになった相手に小さく頭を下げれば、相手も気の良い人であったのだろう。穏やかに笑って首を横に振る。
 引き寄せられた音羽は不意打ちで近くなったナードとの距離に一瞬だけ緊張する。いい匂いがするとか。自分よりも低い体温が心地良いとか。思うことが多くて鼓動が早まる。それを知らず、ナードは目線を下に落とし、音羽の額にでこぴんをする。

「あうっ」
「早く買い物終わらせないと会議に遅刻しちゃうよ」
「おっと、それはいけない。遅刻するとえーせーちゃまに叱られるんだよね」
「それで会議が遅れたら、俺は先に帰るからね」
「やーだー。定例会議でくたびれたおとを癒してもらうためになったんを呼んだんだから待ってくれないと!」
「じゃあ早く終わらせてね。今日は新イベが始まる日なんだから」
「ゲームしてる姿を見ているのも楽しいけど、おとのことも構ってね?」

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