「音羽さん。1つ聞いていい?」
「改まってなにー?」
「……会議のお茶請けってそんなにいる?」
「ポケモンって性格で好みの味が変わるでしょう? 誰にでも対応できるようにいろいろ取り揃えておくのが気遣いというものだよ」
「で、本音は」
「欲しいもの気になるものは経費で落ちるとき買わないとね!」
きらーんとしてやったりの決め顔を浮かべる。だと思ったと呆れたナードは「経費で落ちなくて泣いてもしらないよ」と。その言葉にはっとした音羽は少し考えてから「大丈夫! 二度もそんな思いをしないように策は練ってる!」と。ああ、既に経験しているのかと苦笑する。同時に、それでもめげずに繰り返す図太さはさすがだと感心もする。
「なったん。紙袋、おとも持つよー」
「いいよ、これくらい。もともと荷物持つつもりでついてきたんだから」
「だーめ。両手塞がれたら手が繋げないもん」
「……はあ。分かった」
両手に持っていた紙袋を1つ渡す。受け取った音羽はそれが複数ある紙袋の中で1番軽いものであることに気付く。やっぱり優しいなあと思った音羽は顔を綻ばせて一回りほど大きくなったナードの手を繋ぐ。
「年下の女の子たちに人気な理由がよく分かるなあ」
「またその話?」
「今日一日、再確認してたからね。えへへ」
「そんな確認しなくていいよ」
「やーだっ。みんなに知ってもらいたいんだもん」
「……、……。音は俺がいろいろな人に知られてもいいの?」
「うん! みんなに知ってもらいたい!」
好きなものは好きな人たちに共有したい派の音羽らしい回答である。分かっていたとはいえ、断言されると少し寂しい気持ちにならなくもない。
音羽の恋人という認識があるからか、幸風に訪れるといろいろな人に声をかけられる。確かに昔と比べて異性に囲まれる機会も増えた。ナードとしては音羽以外の女の子の扱い方なんて分からず、戸惑うだけなのだが……。もしも自分が逆の立場であったら音羽が人に囲まれるのはいつものことだが、異性に囲まれてべたべた触られていれば嫉妬心が芽生えるというもの。
「なったんにはね、いーっぱい魅力があるんだよ!」
「そう言うのは音だけだよ」
「って、なったんが言うからみんなに広げようって」
「……あっそ」
音は嫉妬とかしてくれないのかなあ。
そんなもやつきも屈託のない音羽の笑顔と前向きな言葉を前にしたらすぐに霧散する。深い溜め息を吐き、この件に関しては考えるだけ無駄かと投げ捨てた。一瞬だけ曇ったナードの表情が和らいだのを見て、音羽はクスクスと笑う。
なったんは分かっていないなあ。おとはいろいろな子と仲良くはなるけれどときめくことなんてないのになあ、とか。そして刷り込みもあるけれど、なったんがおと以上に仲良くなれる女の子が現れるとも思わないからそういう嫉妬はしないというだけで独占欲はあるのになあ、とか。いろいろとあるが、なんだかんだでナードが妬いてくれるのが嬉しいから音羽はそれを口にしない。
ああ、これだけは言っておかないとおとの好きがお友達への好きなのではないかと誤解されても困る。ありえなくもないことに「あ!」と。声をあげて付け加える。
「でも、かっこいいなったんの裏には戸惑ってるから精一杯なところとかー。お家に帰ったら気が抜けてだらけちゃうところとかー。あと、ゲームしてるときは仕事よりも真剣な顔するときもあって、口も悪い所とか。そういう一面は他の人に知られたくないかなあ。それはおとだけが知ってればいいもん」
「なんかそれ、ずるい」
「えっ、独り占めだめ?」
「そうじゃなくて、音羽自分だけが知ってる俺がいるのに、俺だけが知ってる音ってなくない?」
「んー、そうかなあ。おとにとってなったんが初恋だからさあ。そういう面で見せる顔はぜーんぶ初めてだよ」
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