2匹分の料理を持ってきたラナを見たアザミは反射的に驚きの声をあげた。
幼女から少女への移行を終え、発育途中の小さな身体。そこから伸びる細い腕に乗せられた4つのお盆。ファミリーレストランの店員が片付けの際によくやっているのを見かける。だが、今回お盆に乗っているのは山盛りの料理。その重みも考えると、きっと成人した者が持っても大変だと思うであろう。ラナからするとなんてことなく軽々と運べるものなのだが、周りから見れば今にも転びそうで危うい。
「ということで、今日はこのままお仕事あがることになりましたー!」
「それは良かったね」
「うん。だからね、ゆっくりとご飯食べれるよ」
「ふうん」
料理を並べ終えたラナはアザミに向かい合う形で椅子に座る。大人サイズに合わせて作られた椅子なので、ラナの足は地面につかず。ぷらぷらーんと揺らしながら両手を合わせる。つられて手を合わせたアザミを見たラナは満足そうに笑って「いただきます!」と。
半熟の目玉焼きにそっとフォークを刺せば、とろぉりと黄身が溢れてくる。デミグラスソースと黄身を肉汁がたっぷりとつまったハンバーグに絡め、頬張る。一口、二口と噛みしめ場肉汁がデミグラスソースと黄身と混ざり合う。空腹に染みわたる幸せな味にラナは頬をほんのりと染め、目を蕩けさせる。
「美味しい?」
「うん、とっても! アザミさんも食べる?」
「え」
「ほら、あーんっ」
一口サイズに切ったハンバーグをフォークに刺し、アザミの口元に運ばれる。食べるという返答を待たずに差し出されたものに戸惑うが、とろりと垂れていきそうなソースのせいで躊躇っている暇はなかった。少し大きめに口を開き、ハンバーグを口の中に入れる。
そんなアザミをにこにこ笑顔で眺めるラナは思う。アザミさん、多分本当はこういうことをする人じゃないんだろうなあとか。けれど、ラナを懐かせるためにしてくれているんだろうなあとか。
「ん? 何かついてる?」
「うん。ソースがお口もとに」
「えっ、どこ?」
「そっちじゃなくてこっちだよー」
ソースがついている方とは逆側を拭っている様子に小さく笑う。なかなか拭い取れないためラナは身を乗り出して手を伸ばし、指先で掬い取る。ちろっと小さな舌で指先についたソースを舐め、やっぱりラウレアの作るものは美味しいなあと頬を緩める。
そんなラナの行動にアザミは数秒固まる。ぱちりと目が合い、ラナがへにゃりと笑えばアザミは困ったように笑い返す。
「アザミさんって、ときどき子どもっぽいよね」
「え!? ラナちゃんに言われるの?」
「ラナは子どもだからいいんだよー」
「それを言われると何も言い返せないなあ」
「えへへ。でしょー」
にこにこ。ふにゃふにゃ。
笑顔を浮かべながら会話を弾ませる。一回り以上は年上であろうアザミと話しやすいのはきっと彼が自分に合わせてくれているからだろうというのは想像に容易い。なぜならば普段大人びているラウレアがオフの日となるとラナに近い精神年齢にまで下がるからだ。それに比べてアザミは話しやすいけれど、だからと言ってまだまだ子どもだなあと思うことはないからだ。子どもっぽいとは思うけれども。
もきゅもきゅとハンバーグを頬張りながらぼんやりと考える。思考中、耳がぴるぴると動き、尻尾はくるくると伸びたり巻いたり動き続ける。
「…………」
「なあに?」
「ラナちゃんって明日もお仕事なのかなって」
「ううん。明日はお休みー」
「じゃあ、よかったらこの後遊びにこない? 美味しいお菓子をもらったのだけれど食べきれそうになくて」
その返事は用意していたものなのか、それとも誘うタイミングを計っていたのか。するすると出てくる言葉はラナが迷わず食いつきそうなものであった。耳と尻尾に視線を感じながら、ラナは「お疲れなのにおじゃましていいの?」と。アザミがなんと答えるのかおおよそ見当がついているのだが、形式上確認する。案の定、アザミは穏やかな笑みを浮かべて「ラナちゃんが美味しそうに食べている姿は癒されるからね」と。
ラナは薄々気付いていた。アザミがラナに構うのは色違いのイワンコであるからということに。加え、人の姿になってもイワンコの耳や尻尾が残っているという物珍しい容姿をしているからということに。度々、そこに視線を向けられているのに気付いてしまえば察するのも容易いものであった。なぜかという目的は不明だが。
「ラナ、癒し系?」
「とってもね」
「ふふ。じゃあ、おじゃまするね!」
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