ラナは希少な色違いである。だが、トレーナーやハンターに執拗に狙われることはあまりなかった。ゆえに、平和ボケをして警戒心が薄く、ラナにとって優しい人であれば誰でも信用をする。だが、あまりないというのは一度もないの同義というわけではない。一度や二度くらいはそういう目に遭っている。そして、人の顔や性質を1度見たら忘れない高い記憶力を有しているラナはそういう者たちが自分に向ける目がどういうものなのかを頭にも心にも焼き付けている。
だから、ふとしたときに気付いてしまったのだ。アザミがラナに向けている目が色違いのポケモンに向けるそれであることを。だからといって危害を加えられたわけでもないし、同じポケモンだから珍しいポケモンだからと手持ちに加えられるわけでも、ポケモンがポケモンを売るなんて滑稽なことをするとも思えない。なのでラナはアザミを警戒するわけもなく。縮められる距離を、触れられる手を、そしてまだ幼いラナには早すぎる快楽が与えられることを受け入れた。
「……警戒する理由がラナにないからねえ」
「飲み物はココアでよかったかな?」
「わあい! ラナ、アザミさんが淹れてくれるココアだーいすき!」
「市販のものを淹れただけなんだけどなあ」
「アザミさんの愛情を感じるからかなあ」
愛情。その二文字の言葉を耳にしたとき、アザミはほんの一瞬だが動きを止めた。刹那的なことであったため、アザミ本人すら無自覚であったのかもしれない。ココアに夢中であったラナが気付けるはずもなく、にこにこと幸せそうに笑って口腔内に広がる甘みを堪能していた。そんなラナの姿を観察しながら、アザミは愛情うんぬんについて肯定も否定もせず曖昧に笑ってぴこぴこと揺れる耳を撫でる。
両手に甘いココア。頭に大きな手のひら。心地良い状況にご満悦のラナは尻尾を揺らし、足をぱたぱたさせる。ふと、こんなにも甘やかしてもらって幸せだから何かお返ししたいと考える。そして、ココアを半分ほど飲んだところで閃く。
「アザミさん、ん!」
「どうしたの?」
「おつかれなアザミさんをぎゅーしたいと思います!」
ココアをテーブルに置き、アザミと向き合うよう姿勢を変えてから両腕を広げる。まさに不意をつくような提案。思わず、は?と。何を馬鹿なこと言っているんだと。そう口にしたくなるような生温い発想。そんな一面をラナに欠片ほども見せるわけにいかない。ぐっと言葉を飲み込んでやんわりと断ろうとする。
だが、断られることなど一切想定していないかのような期待に満ち溢れた目を向けられると拒絶するわけにもいかない。数十秒と悩んだ末、ラナの戯言に付き合うことにした。
「ふふ。アザミさんってすっごく優しいのもあるけど、ときどき可愛いよねー」
「そんなことあまり言われないんだけどなあ」
「じゃあラナの前だけなんだあ」
アザミに頭を預けられてラナは小さな両腕にいっぱい抱える形で抱き締める。普段してもらうように優しくやさしーくと頭を撫でる。
性格柄に加え仕事柄、意図して他人にそのようなことを行うことはあれど、善意と好意で優しく抱き締められ更には撫でられるという経験はめったにない。それを一回り以上も幼い子どもに行われるのは違和感とむず痒さに心の内が落ち着かず、掻き立てられるような気持ちになる。
そんなアザミの心情など露ほども知らないラナは自分のおねだりを叶えてくれる優しいと改めて思う。そして、アザミならばラナを傷つけることなく嫌がっていることを悟られず言いくるめを試み、流すことができるはずなのに律儀に期待に応えて身を委ねてくれる姿に可愛らしさを見出す。
「満足したかな?」
「んー、まだ! あ、でもアザミさんはこの姿勢辛いかな? じゃあ、ひざ枕にする!」
「…………」
しばらくの間はラナの好きにさせようと頭を預けていた。その間、服越しから感じる発育途中でまだ固さを残して膨らみ始めている胸の柔らかさを観察する。以前よりも少し大きくなっていることやアザミと出会うまで自分の身体の成長に無頓着であったラナがきちんと下着を身につけている確認し、予定通りの成長を辿っていることと言い付けをちゃんと守っていることに満足する。
だが、その姿勢も十分と続けば辛いものがある少女と成人男性の体格差の関係を考えれば当然といもの。そろそろ良いだろうと頃合を見計らい、機嫌良く鼻歌を鳴らして甘やかすように頭を撫でて抱き締めるラナに声をかける。
するとラナは少し考える素振りをした後、頭を横に振る。そしてその後すぐにこの姿勢はアザミにとって大変であると気付いて新たな提案をする。どうしても今日は甘やかす側に回りたいらしい。その方法はアザミを甘やかすのに適した方法ではないのかもしれないが、こればかりは仕方がない。ラナが選んでいる手段は全て自分がアザミにしてもらって嬉しいと思っていることばかりなのだから。これ以上はとさすがに断ろうと口を開きかけるも、ラナは「どーぞどーぞ」と。スカートの裾から伸びた小麦色に焼けた細くも柔らかい太ももを叩く。きっと理由をつけて断ってもラナは少し残念そうにするだけで、拗ねたり怒ったりと面倒臭い反応をすることはないのだろう。
「アザミさん?」
「……少しだけね」
魔が差したと言えば良いのだろうか。
首を傾げて名を呼ばれたら、促されるままにラナの太ももに頭を乗せて寝転がっていたのだ。
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