遠き日の恋心

「覚えておくことが下手な瓏々でも、その場所に行けば思い出すと思うんですよね。私は洞窟の出入り口で待っているので納得いくまで考えてみてください。あ、さすがに出入口までは1人で戻ってこれますよね? 長く住んでいた故郷なのですから」

 淡々と話を進めるスズメちゃんは息1つ切らしていないどころか、汗をほんの少ししかかいていなかった。その姿に僕は改めて思う。スズメちゃんと僕、実は種族を間違えているんじゃないかって。
 モンスターボールに僕をいれてから獣道を駆け、近道をすると言って木々を飛び越え。そして家からそれなりに離れている僕が生まれた山奥の洞窟に辿り着いていた。そして、洞窟に入ってからも迷うことなく僕が寝床にしていたところまで足を進めていた。どうやら、幼いスズメちゃんと空純くんが初めてこの洞窟に来たときに迷子にならぬようにと印をつけていたらしく、それを辿っただけの話らしいが……うん、これ以上考えるのはやめよう。スズメちゃんの運動能力とか怪力とかその他もろもろについては今に始まった話ではない。最近は落ち着いてきたけれど、ウォーグルの姿をした空純くんと取っ組み合いの喧嘩をして育ってきたような子だしね!

「ここに来るのも久しぶりだなあ」

 頭を横に振り、スズメちゃんについて考えることをやめる。せっかく連れてきてくれたのだから言われた通り、ここでの思い出を辿ることに集中してみたい。……とは言っても、僕以外ここに住んでいるポケモンもいなくて眠りにつく日々がほとんどだから思い出すものがほとんどないのだけれど。
 しんっと静まり返った空間に身を置くのは久しぶりすぎて落ち着かない。少しでも音を拾いたい一心から、ザリザリと足音をわざとたてながら歩き回る。

「あったあった、この岩。ここを寝床にしていたんだよね」

 つるつると触り心地の良い岩。これは自然にできた形ではなく、快適な寝心地を求めて岩同士を擦って削ってみたり技を使って形を整えてみたりと僕が作ったものだ。やることもなくて暇潰しをしていたのもあるけれど、長い時間をかけたかいあり気持ちの良い寝床となった。人間に近い生活をするようになってから覚えたお布団の寝心地と比べてしまえば雲泥の差となるけれど……うん、これはこれで味があるよね。
 懐かしの岩に腰をかけ、ぐるりと辺りを見渡す。あまり変わっていないなあという感想。というか、変わりようがないのかもしれない。正確な時間は分からないけれど、結構長い年月住んでいた僕がここで出会ったのはスズメちゃんと空純くんと……そして、みどりちゃんくらいだったから。

「一生誰とも関わらず死んでいくのかなと思っていたらみどりちゃんが来たからすっごく嬉しかったなあ。みどりちゃんもまさかポケモンがいるとは思っていなかったみたいで驚いてたっけ」

 結局、なんのためにここを訪れたのか理由を知る日はこなかったけれど。理由なんてどうでもよくて、少しでも一緒にいてほしくて必死に引きとめたような。みどりちゃんは深く関わるつもりがなかったのか、冷たい態度を一貫してとろうとしていたけれど必死すぎて泣き始めた僕を見て足を止めてくれたこととか。名前を聞いても教えてくれなくて、教えてくれないならばとみどりちゃんと呼び、怒られたこととか。ぽつりぽつりと思い出してきた。相変わらず、みどりちゃんの声とかが思い出せないことが悲しいけれど。

「みどりちゃんを見て初めて、綺麗って心が揺すられるような思いをしたんだよね。世界にはこんなにも綺麗なものがあるんだって」

 それまで、誰に言われたわけでもないけれど外の世界と僕は隔絶されたものだと感じていて。だから関心を向けないようにして、洞窟からもあまり出ないようにしていた。けれど、みどりちゃんを見て受けた衝撃とか運ばれてきた外の匂いに心が揺れて、興味を抱いた。だから、みどりちゃんがここに訪れるようになって、そのたびに外の世界のお話をしてくれたりお土産を持ってきたりしてくれたとき、それまで無縁であった外との繋がれた気がした。それが僕にとってどれだけ大きいことだったのか、みどりちゃんは知らなかったのだろうなあ。
 そのことがあったから、スズメちゃんにゲットされたときも外に出ることへ抵抗をしなかったのだと思う。初めて見る人間に混乱していて、その間に捕まったから抵抗しようもなかったのだけれど、みどりちゃんとのことがなかったら外にいる違和感が強すぎて受け入れられていなかったかもしれないし。

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