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練習が終わって向かうのは、僕たちが居座っているウギョルハウス。
移動の運転が僕、だということは…もう言わなくても伝わってくれるよね。



「ねえテグン、ちょっと寄り道しても良い?」

「ん。」



どうせ編集もあるし、僕の性格を解っているなら多少の好き勝手をしたって大丈夫だろう。
車に置いてあった飲み物が空になっていたことに気が付き、一応テグンに寄り道をしても大丈夫かと確認する。

確か近くにコンビニがあったはずだ。
人気の少なさそうな、車が全然停まっていないコンビニを選んで、そこに寄る。



「テグン、何かいる?」

「…ブラックコーヒー。これで、買って。」

「いや、別に財布は持ってるから、良いよ。」

「良いから。これで。」



何か欲しいものがあるかと訊けば、コーヒーと答えて押し付けるように多く手渡されたお金。
それを返そうとしてもテグンは受け取ろうとせずに、そっぽを向いて携帯を触っている。

後輩なんだから先輩に甘えておけば良いのに、とは思うけど、これは夫婦番組。
どちらかと言えば、僕が甘えなければならない立場にいるんだろう。

結局そのお金を受け取って、急ぎめにコンビニで買い物を済ませる。
店員からブラックコーヒーとミルクティーを受け取って車に戻ると、車には寄らないようにはしているがファンが集まっていた。

寄って来ないだけ賢いけど、困ってるテグンの表情も見てあげなきゃだめなんじゃない?
Beautyと思われる人にはそれなりに愛想良く反応して、車に乗り込んだ。



「…まさか、ファンが此処まで追い掛けて来るとは思ってなかった。」

「人気な証でしょ。Beautyよりも、テグンのファンの方が多そうだし。そう考えると…僕の人気も落ちたものだよね。」

「そんなことないだろ。」



買って来たものとお釣りを渡していると、テグンが疲れたように呟いた。
全員が全員追い掛けて来てるわけじゃないだろうし、例えそうであっても人気な証なんだ。

パッと見た感じでは、テグンのファンが僕のファンよりも多く見られる。
つまり、テグンのファン…VIXXのファンは此処まで来てテグンに会いたいと思ってるんだ。

新人がどんどん出て来る前だったら、僕だって結構人気だったんだけどね。
やっぱりみんな、新しいところ…他所へと流れてしまうんだろう。



「…なまえも、人気だろ?」

「そうだね。僕はBeautyから愛されてると思うよ。だから僕も、僕なりの愛し方で僕を愛してくれるBeautyに愛を返すんだ。」



車のエンジンをかけて、周りにいるファンの子たちに車を避けるように声をかけていると、テグンがポツリと呟いた。
テグンの視線の先には、僕の名前が書かれたボードを持った女の子の姿。
その子に軽く微笑んで、テグンに言葉を返す。

僕は、正直邪険に扱われても仕方がない存在。
初期はアンチファンも居たし、隠していたわけではないから…と言って擁護してくれる元からの僕のファンだって居た。

きっと…いや、確実に僕のポジションはファンからしてみたら羨むもので。
メンバーだからと綺麗事を言うが、実際はグループ恋愛だってしたし。
そう考えたら、異物とも言える僕がやっかみを買っても仕方がないこと。

だけど僕は、愛されている。
だから…愛を返してあげるんだ。
僕なりのやり方で。



「もっとBeautyが増えないかな。もしかしたらテグンのファンも、僕に移るかもね?」

「…ない。」

「…解ってるよ。別にそんな言い切らなくたって良いだろ。」



ちょっとした戯言で、テグンのファンも僕に移るかもね、なんて言えば、テグンは少し拗ねたように無いのだと断言した。
言い切らなくても良いのに、テグンにはこんな子どもみたいな面もあるんだね。

少しして着いたウギョルハウス。
周りには待ち伏せていた(と言うと聞こえが悪いが)ファンが集まっていて、テグンは足早にウギョルハウスに向かい、いそいそと僕に集まってくるBeautyには愛想良くはした。
もともとファンサービスはあまりしないから、やっぱり慣れない。

だから、せめてものファンサービスと思って歩く速さを遅くする。
Beautyが少しでも僕を見てくれるように。
そう思っていたときだった。



「なんで日本人って黙ってたの!」

「ミンスのバカ!」

「ミンスオッパの裏切り者!」



飛んで来た声に、思わず足が止まる。
その声が聞こえた方に視線を向けると、多くのファンで隠れてよくは見えなかったが…サイン会にも頻繁に来てくれていた僕のファンの子たちがひとつの場所に集まっていた。

遠くからでも、なんとなく解る。
彼女たちの涙。
そして今でも突き刺さる、"裏切り者"の言葉。

大きく出たことは良いが、裏切られたと思うファンだってやっぱり居たんだろう。
もう5年もの間隠していたんだ…傷付くよね。



「っ!なまえ!」



後ろから聞こえるテグンの声も無視して、泣いているBeautyの元に近寄る。
ひとりは僕のファンカフェのマスターをしている子で、面識はたくさんあった。

掛けていたサングラスを取って、正面から彼女たちと向き合う。
"泣かないで。"
そんな意味を含めて、頭を撫でてあげた。



「こんな僕でごめんね。」

「…ごめん、なさい…。あたしたちも、裏切り者なんて…言っちゃって…。」



ごめんね、と謝ると、さらに泣けてきたのかどんどん流れ出すマスターの涙。
それを拭ってあげると、マスターは照れ臭そうな表情を浮かべていた。

ちゃんと謝ってくれる子は、僕も好きだ。
事実ではあるけど、言葉という刃物を勢いに任せて連ねるのは…違うからね。

だから僕は、否定しない。
首を横に振って、全員を見た。



「裏切り者は、事実でしょ?」

「違うの!ただ、隠されていたことが…悲しかったし、寂しくて…。」

「あたしたち、オッパが韓国人じゃないからって嫌いになったりしないのに…信用、されてなかったのかな、って…思ったの。」



信用、なんてものアイドルにしたらだめだよ?
キミたちの大好きな"お兄さん"と恋愛した僕のことを知ったら、今よりもっと怒るよね?

それは言わないで、首を横にだけ振る。
その場に居たファンひとりひとりを、ごめんねの意味を込めて抱き締めてあげた。

そのときに告げた、もうひとつの事実。
そのことはマスターの子だけに教えたから、その子は驚いていた。

"僕は日本アイドル、KAT-TUNのメンバーの妹なんだよ。キミには教えてあげる。黙っていても良いし、広めてくれても構わないよ。"
そう言ってあげた。

そして僕は背中を向けて、テグンの元へ戻る。
早くしないと、怒ってしまいそうだからね(もう怒っているかもしれないけど)。



「僕のBeauty愛…信じてね。僕を愛してくれている以上に、僕はキミたちのことをうんと愛してあげるから。」



最後に告げたこの言葉だけでも、この子たち全員に伝われば良い。

僕のことを信用しないで。
だけど、キミたちを想うこの気持ちだけは、信じてほしい。

確認のために振り返ると、あの子たちは嬉しそうに微笑んでいた。
うん、やっぱり…、女の子は泣いているよりも笑っていた方が可愛らしいよね。



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