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園内地図を渡されて、ついでにと言わんばかりに渡されたカチューシャを着けてから適当に園内を探索する僕たち。
ちなみにカチューシャは、僕がネズミの女の子でテグンがネズミの男の子。
無難すぎる…と言うより着けたくない。



「どこか行ってみたいところ、ある?」

「………ここ。」

「アメリカン?」



テグンに言われ、行きたい場所として指定された場所に行く。
確かここって、ホテルをモチーフにした絶叫マシンあったよね?

まさかそれに乗ろうなんて…言わないか。
言ったらテグンの記憶力を疑う。



「…なに、亀と話したかったの?」

「うん。来てみたかった。」

「本当、意外と子どもっぽいところあるね。」



どうかあの絶叫マシンには行きませんように、と祈りながら到着したのは、亀と話しをすることが出来る高性能なアトラクション。
いつかこれの内訳を見てみたいって、たぶん誰しもが思うことだよね。

なんて、そんなことはどうでも良くて。
まさかテグンがここに興味があるなんて、思ってもみなかった。

あまり乗り気ではない僕とは違って、楽しそうに列に参加するテグン。
まあテグンが楽しそうなら良いか。

スタッフに挟まれて並び、順番が来たら番組スタッフと園内スタッフの誘導で目立たない座席へと案内される。
もちろん、一般の方とテグンの間にはスタッフが入ってるから、近距離接近はない。



「これ、絶対に僕たちが亀と話せるわけじゃないけど。良いの?」

「…そうなのか?」

「亀が指名した人だけだよ。」



始まる前に、誰もが亀と話せるわけではないと一応説明すると、テグンはすこし落ち込んだように元気が無くなった。
気分を落として申し訳ないけど、知らないで話すことが出来ないよりもマシだろう。

ごめんね、と小さく謝ると同時に、どうやら亀のステージが始まったみたいだ。
子どもたちは楽しそうに笑っている。



『ん?なになに、今日はスペシャルなゲストが来てるんだって?』

「…なまえ、何話してるの?」

「…こんなこと言うのもアレだけど、日本語に慣れてないのに、よく話そうと思ったね。スペシャルゲストが来てるって言ってるんだよ。」



亀の話によれば、今日はスペシャルゲストが来ているらしい。
へえ、あの魚のどっちかかな?

そう思っているのは僕だけで、どうやらテグンは話しについて行けていないらしい。
スペシャルゲストくらい聞き取れ、とは思うけど、カタカナ英語じゃ日本語同様に聞き取り辛いものもあるのかな。



『記念日を迎えた夫婦が来てるらしいぜ〜?』

「…うん?」

「…どうした?なまえ。」



亀の言葉に、思わず固まる。
記念日を迎えた夫婦、だと?

そんな僕の様子が解ったのか、隣からテグンが僕の顔を覗き込んで来た。
いつもならその距離の近さに怒るところなんだけど、今は嫌な予感のせいで気にならない。

まさか、そんなことは。
いくらなんでも、こんな序盤で僕たちが居ることがバレたらマズイだろう。
それとも、バレても良いとか思ってるのかな。



『あそこの夫婦にインタビューしてみるぜ〜。旦那さん!あんたの名前は? 』

「…おれ?」

「…はあ。そうだね。」

『レオです…。』

『レオ!いい名だな。奥さんは?』

『…ミンス。』

『かっこいい奥さんだな!』



ああ、うん、やっぱり。
亀が目を付けたのは、どうも僕たちで。
周りがすこし、ざわついている。



『今日はお祝いで来てるらしいから、みんな内緒にしてやるんだぞ〜?夫婦の記念日は大事だからな!おまえらも仲良くやれよ〜。』



そう思うなら、そっとしてくれ!
…なんて言えるはずもなく。

結局一言二言亀とテグンが会話をして、最後に園内スタッフが僕たちのことは口外厳禁撮影禁止と伝えて終わった。
いや、そんなことここで言っても、外に出ればどのみちバレるよ…。
さすがに安くないお金を払って遊びに来たり、ショーパレ目的で来てる人ばかりだから韓国の野外撮影よりも人は少ないけど。



「日本語は難しいけど…あの亀、本当にアドリブで話してるんだな。」

「うん、そうだね…。」



疲れた…と息を溢しながらテグンに視線を向ければ、テグンは嬉々とした表情を浮かべて。
録音していたものではなく、キチンと応答する亀に感動しているようだった。

テグンが楽しそうだから良いけど、本当、テグンも困ってたら怒ってたよ…。



「次はあそこ行きたい。」

「ん?」



ぐるりとそのエリアを周ったあと、テグンに言われたのはマーメイドのエリア。
インスタ女子が好む外観のそのエリアに、まさかテグンが興味を持つなんて。

まあいいか、と特に気にせずマーメイドエリアへと向かって行く。



「なまえ、座って。」

「なんで。」

「写真撮る。」

「ここにもインスタ女子が…。」

「?」



マーメイドエリアに到着してすぐ、インスタ女子が好きそうなスポットへ行き、そこの小さな座れるスペースに座るよう促される。
テグンに「なんで?」と問えば、返って来たのは「写真撮る」というもの。

まさかここにもインスタ女子が居たなんて。
いや、テグンは男だからインスタ男子か。
なんにせよ、どいつもこいつもSNSがだいすき過ぎるだろ…中毒者か。

スタッフの撮影なんかではなく、テグンの携帯で写真を撮るらしい。
携帯という小さな画面のせいで、当たり前に近くなるテグンと僕の距離。
頬と頬が触れるギリギリのラインで1枚撮ったと思ったら、すこし不機嫌そうな表情を浮かべたテグンが僕の肩を組むものだから僕たちの距離も一気に縮まる。

ああ、くそ。
ちょっと顔が近い写真、なんて、今までヨソプやヒョンスン、ドンウンと何度も撮ったことはあるはずなのに…。
どうして心臓が、痛いほど動く?



「ほら、テグン。写真撮って、もう満足したでしょ。中に入らないの?」

「中はいい。なまえと写真、撮りたかっただけだから。次行く。」

「は?」



あの鼓動を落ち着かせるために、携帯が降ろされた瞬間に立ち上がった僕。
マーメイドの中は薄暗いし、きっと火照っている僕の顔もあまり見えないだろうから早く行きたいと言うのに…。
テグンは動こうとしない。

だから「中に入らないの?」と問うと、テグンは満足した表情で「写真撮りたかっただけだから次に行く」と言った。

…こいつは、本当に、なんと言うか。
ウギョルを何か、別のものとでも勘違いしているんじゃないだろうかと思う。

これはデートだけど、デートじゃない。
僕たちは番組用の仮の夫婦であって、本物の夫婦なんかではないのに。

今だけは、番組の趣旨を楽しんでいるテグンがひどく羨ましくも思え、そう思うのと同時に怨めしくも思った。



テグンに、振り回され過ぎじゃないか…?



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