初めまして、勝負しよう

「そうだ、103番道路にうちのハルカが調査に行ってるんだ」
「ハルカが?」
「ああ!よければ会ってやってくれ」

103番道路か。確かユウキとあいつが初めてバトルをしたのも103番道路だったっけなあ。
特に断る理由もなく、オダマキ博士に肯定の返事をした。ポケモンも持てるようになったし、これから旅に出ようと思ってるし、そのための予行演習でもいいわけだ。

そうと決まれば、と、モンスターボールにフレアを仕舞うために取り出した。

「ちゃも」
「は?」
「ちゃも、ちゃもちゃ」

フレアはボールの光を避けて首を振った。こいつ、ことごとく俺の考えと反対のことをするやつだな!
どうやら今はボールに入ることを嫌がっているらしい。じゃあどうすれば効率のいい移動の仕方になるか、と抱き上げてみた。おお、ふわふわで手触りがいい。

「ちゃもっ!」
「い"っ!?」

油断大敵。フレアは抱き上げた俺の腕をつついてきてダメージを与えてきた。なんで博士には何にもしなくて、俺にはそんなに攻撃してくるんだ!そんなに俺が嫌いなら頷かなかったらよかっただろ!

あまりの痛さに抱き上げていたフレアを落とした。ポチエナと戦った時とは違って華麗に着地したフレアは、どうだと言わんばかりにまた足をつつき始めた。

「やっぱりこのアチャモ、俺の手には負えないんですけど…!」

どれだけ追い払っても絶対にどこかしらを突っついてくるフレアに若干の苛立ちを感じつつ、耐え切れなくなって博士にそれを訴えた。
博士は「そうでもないと思うんだけどなあ」と言うだけだった。いい加減助けて欲しい。

「ほらフレア、さっさと行くぞ。ハルカに会う前に俺が削られるだろ」
「ちゃも?」

トレーナーって削ってなんぼじゃないの?とでも言いたいのか。
フレアの表情を見て、こいつの性格を知る。全然トレーナーに従うつもりがないのだけはよくわかった。
博士に対する挨拶もそこそこに、フレアに足をつつかれないよう走って逃げた。ポケモンと人間じゃまず身体能力からして違っているのが悔しい。

案の定俺を追いかけてきたフレアとともに研究所を飛び出し、その流れで101番道路に足を踏み入れた。

「ちゃもっ、ちゃももっ!」
「来るかお前!」

飛びかかってきたフレアに掴みかかり、そのふわふわとしている体を掴む。くそ、手触りがいいなこいつ。フレアの方が強かったのか、俺が倒れる結果になった。
掴まれたことも気にせず、すかさず俺の顔面向けて繰り出してきたくちばしを反射で避ける。耳元で地面にくちばしが刺さる鈍い音がした。本気で俺がやられそうになってる気がする。

頭の隅で危険を訴えている俺などお構いなし、フレアは第二、第三の攻撃を続けて出してきた。ほぼ反射で避けてなんとか生き延びていく。

「だーっ!お前何なんだよ!そんなに俺のパートナーになるのが嫌なら、さっき頷かなきゃよかっただろ!」
「ちゃ!ちゃもちゃも!」
「言ってることわかんねーよ!」

攻撃の合間にフレアに叫ぶが、生憎ポケモンが必死に伝えようとしても俺には何が言いたいのかほぼ伝わらない。騒いでいるように思えるだけだ。
こんなときにポケモンの言葉が分かればいいのにとつくづく考える。いつかそういう機械が発明しないものか。

ざくっ。もう何回目かもわからない攻撃の音に恐怖を覚えた俺はとうとう白旗を上げた。悔しいがこいつには敵わない、メスとはいえポケモンは強い。

「お前が強いのは最初っから知ってるって、ったく」

頭から飛んで地面に転がっていた帽子を拾い上げ、土埃を払って被りなおす。満足そうにふんぞり返っていたフレアが突然俺の足を突っつき始めた。痛いってば。
別に強さは疑ってない。「昔」はハルカの相棒だったやつだ、むしろこれくらい強くなきゃ納得はいかない、が、こんな性格してたのか。

抱き上げても腕をつつき続けるフレアに悪戦苦闘しつつ103番道路を目指した。目を離したらどっかではぐれそうだし仕方がない、俺の腕は犠牲になるのだ。

コボクタウンを通り過ぎ、奥の方にある草むらを探る。
確か俺とハルカはこのあたりで初めてバトルを…っと、噂をすればなんとやら、水が溜まっているところでミズゴロウを遊ばせているハルカを見つけた。

そこで俺はまたもや驚いた。
あの遊んでいるミズゴロウは、ラグナだ。ハルカと同じで少し雰囲気が違っていたが、そいつは見まごうはずもない、ユウキのパートナーだったミズゴロウだった。

自然と腕に力が入ったことに気づいたのか、フレアが不思議そうにこちらを見上げているのがわかった。ああ、フレアも記憶がないんだっけ。残念だ。
このまま順当に行くのなら、俺の元相棒であるラグナも記憶がない。ならダメージを受ける前に覚悟を決めるべきだ。

ラグナのこと、ハルカのことを受け入れて、フレアと一緒に旅をする覚悟を。

「ハルカ!」

あの日と同じように声をかけると、ハルカは不思議そうにこちらを向いた。俺の姿を見るやいなや目を輝かせてこちらに走り寄ってくる。ああうん、可愛い…じゃなくてだな。

「シズクくんも、お父さんからポケモンをプレゼントしてもらったんだね!」
「お、おう。これでバトルできるぜ!いてっ」
「アチャモ…!シズクくん、アチャモを選んだんだ!てっきりキモリかなって思っちゃってたよ」

残念だけどミズゴロウを選びたいと思っていました、なんて口が裂けても言えない雰囲気である。そりゃあ昔はキモリとミズゴロウで悩んでたけど。アチャモは見事選択肢から外れてたけど。

腕に抱かれているフレアはとうとう観念して攻撃をやめたのか、今のところ痛みが更新されることはない。このまま俺に懐いてくれることを祈るのみだ。
ゆっくりと地面に降ろしたところを見ていたらしいハルカが幸せそうに笑う。

「それじゃ、折角だしちょっとポケモン勝負しようよ!トレーナーってどんなものか、あたしが教えてあげるから!」

握りこぶしをつくり、俺につき出してくるハルカ。その目は好戦的に輝いている。
この世界でのバトルは二回目、それでも俺は前世の経験がある。ハルカはそれを知らないから堂々とした顔つきだ。

俺はあるはずもない面影を追いかけながら、ハルカが提案したバトルに勢いよく乗っかった。