そして二人は、

ミツルはラルトスを捕獲した。
そのことがよほど嬉しかったのか、ジグザグマをボールに戻すことも忘れてひたすらにボールを見続けている。新人トレーナーあるあるだ。

かくいう俺も「昔」はあれくらい喜んでいたので何とも言えない気恥ずかしさがある、若いって素晴らしい。俺もあそこまで喜びたい。
それにしても、ラルトスか。視野には入れてなかったけど、カロスで見つかったというフェアリータイプの一匹でもあるし、パーティにいれたいな。

「よし、ラルトス捕まえよう」

思い立ったが吉日。暴れん坊将軍なポチエナのボールを取り出し、どこかにラルトスがいないか見回す。

「シズクさん、ありがとう!ジムに戻ろうよ!」

しかしミツルはそんなことは気に留めなかったようで、興奮した素振りを隠さないまま俺の腕を握った。片手にはラルトスのモンスターボールを手にしたままだったが。
まさかとは思うけど、父さんは考えなしに歩き回る俺の抑止力としてミツルをおいたわけじゃないよな。違うよな。

ポケモン捕獲の主役とも呼べるミツルに逆らえるはずもなく、俺は引きずられるようにしてジムの方へと歩き出した。

「それにしても、一発で捕まえれるなんて思わなかったなあ」
「え?」

「普通、ポケモンを捕まえるのにも結構苦労するんだよ。ポケモンを上手く弱らせることができなかったり、ボールが当たらなかったり、あとは逃げられたりするし。
ミツルは捕まえるのも上手いし、多分育てるのもうまいだろ?トレーナーになれるんだったら、上の方目指してみろよ」

俺の知ってるミツルはポケモントレーナーだった。ということが一番関係してるんだが、そのことを彼は知らないので黙っておいた。
あいつが言っていた通りならかなり強いトレーナーになれる。あいつの影に隠れてはいたものの、実は一度戦ってみたいと思っていたのだ。

ミツルもそれを考える素振りを見せて、考えておきます、とだけ言った。

「たっだいまー!」
「ああ、おかえり。うまくいったか?」

トウカのジムに飛び込み、父さんに挨拶をする。ジムはある意味父さんの第二の家といっても過言じゃない。たまには第一の家に帰ってきて欲しいものだ。
ミツルが元気よく返事をしてジグザグマを返却した。答えはそれだけで十分だ。

こっちを見てくる父さんに肩をすくめておどけた様子を見せた。いくらなんでも早すぎるって言うんだろ、知ってる。

「あ、そういえばシズクさん。ちょっとマルチナビを貸してもらっていいですか?」
「ん?フレンド登録?」
「そっちもお願いしたいんですけど、ちょっとしたお礼を」

声をかけてきたミツルに首をかしげつつ、カバンからとりだしたマルチナビを手渡す。フレンド登録以外に何か機能とかあったっけ。
ミツルは手馴れた操作でマルチナビに何かしていたかと思うと、少ししたらマルチナビは俺が聞いたことがないような音を立てて何かを知らせていた。

はいどうぞ、と戻されたそれは見たこともない画面に切り替わっている。

「なんだこれ」

素っ頓狂な響きをもった音が壁をわずかに反射した。

「プレイナビです!これを使うと、出会ったこともない人とバトルができたり、ポケモンをもっと可愛がったり…他にもいろんなことができるようになるんですよ!」

興奮気味に語られた内容が右から左へと流れていく。どうやらミツルは俺のマルチナビにその機能を追加したらしかった。
あまり機械が得意じゃない俺はマルチナビの最低限のアップロードこそすれ、ダウンロードできる機能をほぼインストールしていなかったので、この機会に入れてくれたんだろう。

フレンド登録の欄を見ると既にミツルの名前が追加されていた。ミツルは逆に機械に強いらしい。

「これで、ぼくもシズクさんの…えっと、その…」

頬を赤く染めて中々言葉を紡ぎ出せないらしい、ミツルは視線を泳がせながら口を開けたり閉めたりしている。

「おう!ミツルも俺の友達だな!」

きっと言いたいことはこれだ。アタリをつけてそう言うと、ミツルは何か言いたそうにしつつも頷いた。よしよし、気恥ずかしいもんな、こういうことをいうのは。
お礼を言いながらジムから出て行ったミツルを見送る。

ミツルが出て行ったことを確認した父さんの雰囲気が刹那にして変貌する。優しい大人から、威厳を保つジムリーダーの顔へ。

「…さて、シズク」
「はい」
「ポケモントレーナーとして強くなりたいのなら、まずはわたしからアドバイスをしてあげよう」

ジムリーダーとして認められているのだから、父さんは凄腕のトレーナーだ。そのトレーナーからのアドバイスは役に立つ。
父さんは俺が顔を引き締めたのを確認し、その重い口を開いた。

「まずはこの先にあるカナズミシティに行くんだ。そこでツツジというジムリーダーと戦うといい!
そうやって各地のポケモンジムでジムリーダーを倒し、ジムバッジを集めていけ。

もちろんわたしもジムリーダーだ、いずれシズクと勝負することになるだろう。だがそれはシズクがもっと強くなってからの話だよ」

数日で挑もうと思っていたことはお見通しらしく、釘を刺されてしまった。
この人に敵わないのはデフォルトか。流石ジムリーダー、もとい俺の父さんである。

「…ちなみに、父さんにはバッジがどれくらい集まったら挑めるくらいになる?」
「そうだな。…4つ、くらいか。楽しみにしているよ」

4つか。全然遠いんだが、今ここで挑んだとして勝てるかと言われたら99%でNOだ。残り1%はハプニングが起きてうやむやになる、など。
地道に鍛えていくしかない。カナズミと言ったら岩タイプのポケモンが中心だから、フレアはワカシャモまでは進化させておこう。

なんだかいつまで経っても父さんには敵いそうにない。