宙に浮かんで追いかけて

挨拶もしたし、あとはさっき思いついたようにラルトスの捕獲をしよう。できたらシンクロのオス…は、ポチエナみたいになりそうだからメスで。

102番道路をトレーナーとバトルしつつ練り歩く。ハルカのことがあるまでは暴れていたポチエナだが、今は渋々といった様子で指示にも従ってくれている。
普通は最初からこれくらいの関係だと思うんだけどな!

フレアといいポチエナといい、どうしてマイナスから始まるパーティなんだ。普通のトレーナーよりも好かれてないんじゃないだろうか。
それにさっきから出てくるポケモンもメスばかり。補正でもかかってるのか。

「なあフレア、このどうしようもない感情を発散する術を教えてくれ」

目の前で着実に力をつけていく自分のポケモンに聞こえるようにぼやくと、そいつは何か考える素振りを見せたあとに一つ鳴いて黙った。それ以上はなにも話すつもりはないらしい。

そういえばポチエナにまだニックネームをつけてないな。いい加減考えなければいけない。
そんなことを考えていてもラルトスが出てくる様子は見えず、暗くなってきた道でひとり、深いため息をついた。

ミツルがついてるんだとすれば、俺はついてないのかもしれない。トレーナーに必要な運なるものが。

「…よし、ポチエナ」

ボールの開閉スイッチを押して地面に投げる。華麗に着地したそいつはジト目でこっちを見てきた。そこまで嫌な顔をされると困るんだが。

「ラルトス、見つけたら教えてくれ」

すぐに眉をしかめてそっぽを向かれた。少しは打ち解けてきたんだろうけど、こいつがまともにいうことを聞いてくれるまでの道のりは長そうだ。
俺のいる方角とは反対に進んでいくポチエナを追いかけ、草をかき分ける。
ポチエナに何かひと工夫しているものもないので、離れてしまうとすぐに野生と混ざってしまうからだ。

灰色の尻尾を頼りに道なき道を進んでいると、不意にその尾が一回転した。

「ポチエナ?」

こちらを向いたポチエナは白い何かを咥えており、その白い何かはポケモンであり。
このあたりで白い体のポケモンなんてものは突然変異で生まれた色違いのポチエナか、それとも俺の探しているラルトスしかいない。

緑とピンクに彩られた頭があった。

「…ポチエナ、お前すげーな」

思わず呟いたその言葉。
ポチエナはそれに鼻を鳴らして咥えていたラルトスを離した。逃げると思ったが、ラルトスはポチエナに怯えているらしく、青ざめた表情でこちらに擦り寄ってきた。

ラルトスはポチエナが俺のことを毛嫌いしているのを理解しているらしい。敵意を抱かないのはいいが、それはそれで複雑な気分だ。
特に抵抗することもなくボールに収まったラルトス。早速外に出して図鑑を向けた。

「特性、シンクロ。控えめな性格なのか。
俺はシズク!これからよろしくな!」

シンクロというのは、ある特定の状態異常になると相手にもその状態を写すという特性だ。ラルトスの特性はシンクロ、あるいはトレースというものの二種類しかない…はず。
伝えてはいなかったものの、俺の望んでいたラルトスが見つかった。くやしいが、ポチエナには感謝するしかない。

差し出した手はポチエナのときのように噛み付かれることなく、かといってフレアのように乱暴につつかれるわけでもなく、ゆっくりと白い手が載せられるだけだった。
普通のポケモンってこんな感じなのか。思えばラグナもほかのポケモンもこの感覚だったっていうのに、初めて体感したような錯覚を覚えた。

これからこのラルトスは大切にしてやろう。

「よし、お前の名前はライラだ!」

抱き上げて決めておいた名前を告げる。ラルトス、もといライラがうろたえたように手を上下に動かしたが、嫌がっているようには見えなかった。
ライラのそばにいるのが一番心が癒される気がする。

緑色の頭に顎を乗せてしばらく反応を楽しんでいたら、ボールからフレアが飛び出してきて不機嫌そうに俺の腕をつついてきた。
なんで俺はフレアにここまで嫌われてるんだ。だからそんなに嫌ならハルカについていけば良かったじゃないかとあれほど言ってるのに。

フレアも懐に入れてやると大人しくなったのでそのままにしておく。ポチエナも呼ぼうとして、そこでまだ名前をつけてないことを思い出した。

「エポナだ、」
「がう?」
「お前の名前。エポナだよ」

いい響きだろ。
大人しい二匹と同じように抱えようと手招きする。が、挨拶したときと同じように噛み付いてきたので素早く手を引いた。また本気で噛み付いてこられたぞ…

「なんだよ、そんなに気に入らなかったのか」

一応ラルトスを探していたときから考えていた名前だったんだけど、気に入るまでいい名前を考えるしかないか。
肩を落とす俺に近づいてくるポチエナ。攻撃をするわけでもなさそうなのでそのままにしておく。

ポチエナは近くでとってきたらしいオレンの実を一つこちらに転がしてきた。

「がう」
「…これ、どうするんだ?」

特に何をするわけでもなく、ポチエナは自分の手元に残ったもうひとつの木の実をかじり始めた。食べろというのかこれを。
仕方なく地面に転がったそれを拾い上げ、土埃を軽く払って齧る。様々な味が混ざった奇妙な味が口の中に広がった。

不味くはない、が、美味いのか?

一応もらった手前、変な味だなとも言えず、「うまいな」とだけ告げた。
ポチエナは軽蔑した視線を投げかけ、鼻で笑いながらそのままオレンの実を齧った。お前もこの味好きじゃないのかよ。