胞子の源を探せ

目的だったラルトスも捕まえたし、さっさとトウカの森を越えてカナズミに向かう事にする。
その日は大分暗くなったからポケセンに泊まったけど、カナズミは早めにジム戦を終わらせておきたいのだ。カナシダトンネルはまだ開通していない。

その間ポチエナの名前をさんざん考えては発表していたが、ポチエナはどれも気に入ることなく反応しなかったのでポチエナのままである。

トウカの森で欲しいのは岩と地面、そして水に強い草タイプ。ここで出てくるちゃんとした草タイプはズバリ、キノココだ。
運がよければキノココにだって会えるはず。ラルトスよりかは遭遇率も高いし、よし。

「目指せ、キノココ捕獲!」

ボールから手持ちである三匹を出し、キノココの捜索を手伝ってもらうことにした。
俺も草を横にずらし、枯葉を模した体を探す。森の中にいるだけあって、木の枝や葉に擬態するタイプのポケモンが多い。キノココもその内の一つだ。
当然見つけにくいわけだが、なんとしてでも見つけたいので目を凝らすしかない。

「うーん、いないなあ…」

探しつつトウカの森を歩いていると、前方に白い物体が現れた。突然現れたそれに驚きつつ足を止める。
そこにいたのは人間だった。ある程度は整えられているもののボサボサな髪、少しこけた頬、視力が悪いのかメガネをかけている人間。
白い物体だと思った原因は彼が身に纏っている白衣だ。

「ねえキミ、この辺でキノココってポケモン見なかった?おじさんあのポケモン好きなのよね」

出で立ちからして研究職についているだろうおじさんはこちらに声をかけてきた。どうやらキノココを探しているらしい。
同士がいる。彼もまだ見つかっていないらしいが、二人で協力すればキノココも見つかるんじゃないだろうか。

「俺もキノココを探してるんです」
「本当かい!?」
「はい。なので、よかったら一緒に…」

探しませんか、というところまで言葉は続かなかった。
奥の方から走ってきたやつがいきなり激昂して、研究員(?)に掴みかかったからだ。

「待ち伏せしていたのに、いつまでもトウカの森をうろうろと…待ちくたびれたから来てやったぞ!」
「は?」
「やい!デボンの研究員!その書類をこっちに寄越しやがれ!」

あ、やっぱりキノココ好きなおじさんは研究員だったのか。
それにしたって、人が待ちくたびれるくらいキノココを探していたとは。それほどキノココの遭遇率は低いのか。

言っておくが、俺はいざこざに関わるつもりは毛頭ない。理由はさっさとジム制覇をしたいからという単純かつ明確なものだった。

そう思っていても、この状況はそんなことを許してくれるわけじゃないらしい。研究員さんは俺の後ろに隠れて助けを求めてきた。
子供に頼るってどうなんだよ。

「なんだお前。そいつを庇おうってのか?」

この人を擁護するつもりは全くと言っていいほどありません。

「アクア団の邪魔をするやつは子供でも容赦しねえ!勝負しやがれ!」

どうやら話を聞くつもりなんてないらしく、男はボールを取り出して勝負をふっかけてくる。少しは冷静になれよ、俺は一般人だってのに。
研究員さんも俺が撃退するものだと信じて疑わないらしい。…しょうがない。

「ポチエナ、」

そばで佇んでいたポチエナに声をかけるも、何かが気に食わないのかバトルに応じてくれる様子が見えない。ライラを捕まえるまでは協力的な体制だったのに。

相手のポケモンはこちらと同じくポチエナだった。しかもちゃんと言うことを聞いてくれるらしい。なんだそれ、羨ましすぎないか。
フレアはキノココを探しに行ったまま帰ってきていないし、ライラも同じく。そういえばあの二匹は迷ったりしてないだろうな。

とにかく、俺の手元にいるポケモンはポチエナしかいないのだ。たとえどんなに懐いていなくとも、俺はポチエナで応戦しなくてはいけない。

「いけっ!ポチエナ、体当たり!」
「な、避けて砂かけ!」

男の指示でこちらに走ってくるポチエナ。反射的にこちらも指示を出したが、こちらのポチエナは言うことを聞かず、ただ避けただけで終わってしまう。
こいつ、何が不満だって言うんだ。そりゃあいきなり攻撃して捕まえたことは不服かもしれないが、俺だってやりたいことのために必死なんだ。少しくらい指示を聞いてくれてもいいじゃないか。

中々言うことを聞いてくれないポチエナに悪戦苦闘している俺に気づいたのか、相手も余裕さえ感じられる笑みを浮かべて攻撃を仕掛けてくる。
この男、性悪だな。

いい加減苛立ちさえ覚えてきた。俺が一体何をしたんだ。
折角もう一度やり直せると思ったのに。あの日が来るかわからない、俺が知っている過去と少し類似した世界で、またあいつと戦うことが出来ると思ったのに。

こんな調子じゃ、あいつにまた勝つことはできない。

「いい加減、俺の指示をきけよ!エポナ!!」

無意識に出たその言葉に、ポチエナは瞬きほどの間、時を止めた。

「次、氷のキバ!」

ちょこまかと動き回っている相手の動きを鈍らせるために叫ぶ。素早いやつは厄介だが、この森のポケモンのように擬態ができるわけじゃない。
なんと素早さはこちらのほうが上だったのか、敵の背後に回ったポチエナが勢いよくその毛に覆われた首に噛み付いた。

空気が凍る。冷え冷えとした森の中でもさらに気温が下がったであろう地帯に立ちすくむ俺たち。

どしゃり、重量感のある音がして、凍ったポケモンが地面に落ちた。