炎にくるんだ謎を憂う

カナズミシティに着くと、既についていたらしいハルカと鉢合わせした。
ショップから出てきたハルカは大量の傷薬とモンスターボールを購入していたらしく、カバンが相当な大きさに膨れ上がっていた。調査あるあるだ。

各地のポケモンを研究するため、調査をする場合は何匹かポケモンを捕獲する場合がある。しかし少量のボールしか持っていなかったら何度も街と調査している場所を行き来しなければいけない。
そういう時間を短縮するために、多少見栄えが悪かったりしても仕方ないような大人買いなるものをしなければいけないのだ。

前世じゃ俺もそんなことをしていたな、荷物に入りきらなかった技マシンをあいつにあげたりして何とか持ち運んでいたっけ。
あいつには使わないものばっかり渡して困らせていたと思う。大変申し訳ない。

そういえば、この世界の科学力のお陰か、同じ技マシンを何回でも使用できるようになっていたんだ。おかげで使われた後の用のないディスクは出てこなくて大変楽になっている。

「シズクくん?」

別の話題にそれていた思考をハルカが引き戻した。度々昔に思いを馳せるのも考えものか。
何でもないよ、と言って笑ってみると、ハルカは安心したように「そっか」と呟いた。

「大きな街だよね。ミシロタウンよりずっと広いよ。
ねえ、シズクくんは知ってる?ここにはね、トウカと同じようにポケモンジムがあるんだよ。もう少しポケモンを集めたら、あたしも挑戦しちゃうんだ!」

「おう!俺も、ちょっと鍛えたらジムに挑戦するつもりだぜ!
…そういえば、トウカでも似たようなこと言ってたよな。もう父さんに勝ったのか?」

「ジムバッジを4つ集めてからだよって言われちゃった」

ハルカにも言ったのか、父さん。
つまり今、ハルカと俺は同じ段階にいる。ここで絶対ハルカよりも先にジムバッジをとってやろう。そうすればきっとハルカより先にジムバッジだって集めれるはず。

そうと決まれば話は早い。
俺とハルカは挨拶を済ませ、それぞれ行きたい方向へと走った。俺はもちろんレベル上げのために116番道路に、ハルカはポケモン調査のために115番道路に。

116番道路には工事が中止されたカナシダトンネルがある。
トンネルの中に住むポケモンたちが音に敏感で、下手につつくと生態系を壊してしまうのではないかという話が出たので開発が停止されたんだとか。

その場所に続く116番道路はカナズミから近い絶好のトレーニング場になるのだ。
手早く強くなるため、116番道路にはびこるトレーナーたちと勝負しながら進んでいると、視界の端に映った一人の戦い方が少し気になって足を止める。

「スバメ、そこでつつく!」

相手のスバメが滑らかに空を飛び、その人の手持ちらしいポケモンに向かっていく。素早さ特化に育ててあるのか動きが素早い。そんじょそこらのポケモンは見失ってしまうほどの速さだ。

俺が気になった方は、ホウエンでは見たことのないポケモンを使っていた。
風に吹かれて揺れる青白い炎。白い曇りガラスにも見える脆さを象徴する体。どこかの洋館にあるシャンデリアのような出で立ちのポケモンだった。

あのポケモンは一体。

トレーナーを見た。
最初に目にとまったのは緑のピンズがついたベージュのハンチング帽。そして帽子の陰に隠れた草木色の伏せがちな目。オリーブ色のフード付きパーカーを来ているのは自然に紛れるためだろうか。

俺と同じか少し上の年だろうに、そいつはどこか落ち着いた雰囲気を持っていた。老成した空気といってもいい。当然のように、スバメの攻撃には微塵も焦りを見せなかった。
スバメがシャンデリアのようなポケモンの懐に潜り込もうと接近した。反撃するにも今から判断して指示を出すには少々遅い、そんな状況の中、

「トモシ、」

一言だ。
トレーナーの少年が一言、そのポケモンの名前らしいものを口にしただけ。それだけだというのに、ポケモンは全てを理解したようにほんの少しの反応を示した。
刹那、大風が吹いて辺り一帯が暗い炎に包まれた。

「なっ…」

ゴーストタイプの青白い炎。俺の予想はほぼ間違いなく当たりだろう。
草むらをも焦がすほど大きい威力のそれは、あのトレーナーのポケモンがやったものだ。

風によって集中力が乱れ、炎に気づいたらしい他のトレーナーたちがぞろぞろとやってくる頃には、ポケモンの炎は鎮静化を終えていた。
背を向けてこちらに向かってくるトレーナー。そのあとを浮いてついてくるポケモン。すれ違う際にそのトレーナーは俺の方を見た気がするのは勘違いだろうか。

無機質な機械音がカバンの中から響き、慌てて音の発生源を取り出す。
とりだされたのは博士からもらったポケモン図鑑で、明るく光を放っている画面は先ほどバトルを繰り広げていたポケモンのページを表示していた。

「しゃんでら」

別の地方のポケモンらしいそのページをひたすら見続けた。
図鑑のナンバーから察するに、このシャンデラというポケモンは普通のポケモンのようだ。それこそ伝説ポケモンのような強さではないはず、なんだが。

あの素早さであの威力。しかも傷一つ負っていない。ジムリーダー、いや、四天王やチャンピオンと同じくらいの強さだ。もしかするとそれより強いかも知れない。
まさか一匹をあそこまで育て上げるトレーナーが、こんなところにいるとは思っていなかった。カナズミジムにもあのポケモンで行くんだろうか。

あんなトレーナーになることができたのなら、もしかしたら。
ありもしない幻想を振り払いつつ消えていく背中を見つめる俺の後ろでは、黒焦げになってしまったスバメを抱きしめて泣いている少女と、体力を大幅に回復させる元気のかけらが残されていた。