ピンで留めるテレパシー

「勝者、挑戦者シズク!」

高らかに響いた声に動揺する周り。反対に俺はガッツポーズをして喜びを示した。
カナズミジム、攻略完了。

岩タイプを中心としているカナズミジムではやはりキノココ・コノハが大活躍だ。ちゃんと言うことを聞いてくれるポケモンっていいもんだ。
一日で鍛え上げたコノハはある程度のポケモンは太刀打ちできないほどの強さになってくれた。おかげでこのジムではコノハでしか戦っていない。

フレアも鍛えてワカシャモに進化したのにな、と思いつつ、不満そうにつついてくるそいつに掴みかかった。進化する前よりもつつかれる威力が上がってさらに痛いんだよ。
無闇に鍛え上げたのが悪かったのか、最小限の動きで俺の攻撃をよけられた。鼻で笑われる。

「ジム戦突破の嬉しさよりもフレアに対する怒りが勝るってどうなんだよ」

一応フレアも相性は悪くなかったし、フレアで挑むというのもよかったかもしれない。主にフレアのストレス発散のために。
一方的な争いをしている俺たちをジムリーダーであるツツジ…さん?ちゃん?が、「じゃれるのはあとにしてくださるかしら」と一刀両断した。じゃれついてない。

「なんにしても、ポケモンリーグの決まりではジムリーダーに勝ったトレーナーにこれをお渡しすることになっています。どうぞ」

女性らしいほっそりした手が握るそれを受け取る。ジムリーダーを倒した証、ジムバッジ。ここのバッジはストーンバッジだ。
ストーンバッジを持っていると、この辺りよりも少し強いレベルのポケモンもある程度まで言うことを聞いてくれるようになるのだ。

「ほら、ポチエナ!お前もちゃんということ聞いてくれよ!」
「…」

脇に置いていたボールから出ていたらしい、ポチエナに向かってそう言っても全く言うことをきく素振りは見せない。フレアはバトルでしかいうことを聞いてくれないし。
バッジの効力より俺の人徳のなさが上回るって複雑な心境になるな。

ひたすらメガドレインをさせていたコノハも嬉しそうに跳ね回り、その隣でライラがコノハの気持ちをキャッチしていた。

「それから…よろしければこちらも」

ツツジさんがもう一つくれたのは…技マシン?
秘伝マシンとは違う色合いのディスクを眺め、しっかりとしたカバーに貼られているラベルの文字を読む。岩石封じと書かれていた。

あれ、岩石封じってさっきツツジさんのノズパスが使っていた技だったような。

「岩石封じは相手に向かって岩を落とすことでダメージを与え、更には相手の素早さまでも下げてしまう技ですの。二つありますから、よろしければもらってくださいませ」
「おおう、いいのかよ…ありがたく貰うけど」
「ひとつあれば十分ですのよ」

本当に便利な時代になりましたわね。と、ツツジさんは微笑んでいた。
女性に対してデリカシーのない質問をするが、お前いくつだよ。少なくとも俺と同じ年か少し下くらいにしか見えないぞ。

それにしたって、ツツジさんはお嬢様みたいな口調で話しにくい。多分タイプ相性やらなんやらを勉強したっていうところには共感できるかもしれないけど、仲良くなることはなさそうだ。

マルチナビにツツジさんを登録し、ジムを出る。また再戦の準備ができたら戦ってくれると約束を交わした。
なんにしたって、やっと一つ目のバッジをゲット!

「コノハ、お疲れ!今日はもうポケセンで…」
「どけー!どけどけー!」

ジムから出て、そのままボールから出していたコノハに声をかけようとしたそのとき、大声がカナズミの街中を走り抜けた。
反射で声がした方に顔を向ける。風を巻き起こし道路を滑っていく人影に見覚えがあった。

あれはたしか、トウカの森で鉢合わせたアクア団だ。そういえばカナズミにも狙っているものがあると言っていたような。
そのあとを覚束無い足取りで追いかけていく研究員の姿にも見覚えが。キノココを探していたあの人だ。必死に走っているみたいだったが、速度からして追いつけそうにない。

アクア団が走っていったのは116番道路だ。カナシダトンネルの跡地はあるが開通していないので行き止まり、ほかに通れる道はない。
精々山に登るくらいしか逃げ方はないのになんであっちに走って行ったんだか。

「なあ、全員余力はあるよな」

俺の問いかけにボールがそれぞれ振動する。やる気十分、俺もまだ体力はある。
カナズミの道路を駆けた。動きやすい服装で旅に出て良かったとこれほどまでに思ったことはまだない。

カナズミから116番道路への入り口付近で息を乱して止まっている研究員さんが見えたがスルーした。今止まってしまえば逃がしてしまうかも知れない。
もしトウカの森と同じような短絡的な思考を回していたとすれば、116番道路に逃げてもカナシダトンネルにこもる可能性が高い。

トンネルの入り口付近で何やら慌てた様子のおじいさんがいたがそれを無視して飛び込んだ。

「ポチエナ、アクア団が逃げた方向はわかるか」

呼吸が荒い。口の中が乾いて痛いのを誤魔化すようにボールからポチエナを出し、アクア団が逃げた方向を探る。
ポチエナは少し周りの空気を吸い込んで「がう」と小さく吠え、俺を置いてさっさと走りだした。トレーナーが疲れてるっていうのに、その分の配慮は微塵も見せないな、おい。

最初から逃げ出したやつをポチエナに追わせたら良かったんじゃないかと思っても後の祭り、仕方なく笑う足を引きずってトンネルの奥に進んだ。

幸いにも、分かれ道も少し進めば正解の道が分かるようになっている作りになっていた。一本道のトンネルだったから助かった。
アクア団は岩で防がれている部分でポチエナに威嚇されて後退りをしている。

「追いついたぜ、アクア団!」
「げっ、あの時の…くっそー!奪ったポケモンは役に立たないし、いい所へ逃げ込めたと思ったのに、このトンネル行き止まりじゃねーか!」

こいつ、人のポケモンまで奪ったのか。本当に考えなしの悪人だな。
人のポケモンは中々懐かない。元々持っていた人間との生活が起因するからだ。ちゃんと愛情を込めて育てていたなら寂寥感が、雑に扱われたなら不信感が残る。

しかもカナシダトンネルの工事が中止されているのはこのあたりじゃ当たり前の事実だ。なんでこう、土地勘のない人間がこんなところに来ているんだか。

「やいお前!おれと勝負するんだな!?」
「いや、お前が狙っていたものと奪ったポケモンを返せば戦わないけど」

とか言っても、返してはくれないんだろうな。
戦う気満々の相手を前に、俺はポチエナをボールに戻して揺れているひとつのそれを取った。

「いけ、フレア!」