小さなことからこつこつと
体力満タン、しかもやる気十分のフレアに、まだ鍛えている途中のポチエナが勝てるはずもなく。
土にまみれた体が倒れ伏した。猛攻を繰り広げていたフレアが手を止め足を地面につき、そのポケモンから距離をとった。
アクア団の下っ端らしい男はその様子を頬を掻きながら眺めてぼやく。
「おかしいなあ…リーダーの話ではなにかの荷物をデボンから盗んでくるっていう楽な仕事だったはずなのに…」
もう完全に諦めムードが漂っている。ああ、たしかこの男はポチエナしか持っていないとかなんとか言ってたような。
ちぇっ!こんなもん返してやらあ!と言って投げつけられた荷物を落とさないようにキャッチした。それなりに重いものだったらしく、胸に当たって息が詰まる。いてえよ。
そのまま走っていった男を見届けて残ったキャモメに話しかける。
「…とりあえず、外までついてきてくれるか?」
メスだったらしいキャモメは特に反抗することなく俺についてきてくれる。ポチエナもこんなふうに言うことを聞いてくれればいいんだけど、とボールを触るも、嫌がるように左右に揺れた。お前本当に俺のこと嫌いだな。
薄暗いトンネルから外に出ると、血の気が引いた顔のおじいさんがこちらに気づいて走り寄ってくる。
「ピーコちゃん!無事で良かった!」
おじいさんのポケモンだったのか。
後ろをついてきていたキャモメは嬉しそうに俺を押しのけ、おじいさんの方に飛んでいった。あのキャモメもおじいさんも幸せ者だ。
一人と一匹が再会を喜んでいるのに水を差すのも悪いし、ということで何も言わず116番道路を後にした。
「おお、どうでしたか、デボンの荷物は…?」
デボンと言っていたので、返してもらった荷物はデボンの会社に持っていくのがいいだろう。そう思ってカナズミにあるデボンの本社を訪ねようと門扉を潜ろうとしたら、研究員さんが汗をぬぐいながら待っていた。
どうやら俺を待っていたらしい。
持っていたデボンの荷物を見せると、研究員さんは不安をとっぱらい、安心したような顔をした。
「きみは本当にすごいトレーナーですね!…そうだ!お礼にスーパーボールをあげちゃおう!」
荷物と交換に青い塗装のボールを渡される。たしかデボンで新しく開発されたスーパーボールだ。モンスターボールよりも捕獲率は上がるが、その分値段が少し高めの。
気持ちは嬉しいんだが、俺は別にそこまでポケモンを集めることはない。大抵のポケモンはモンスターボールでも捕まるからもらっても困るだけなのだ。
気持ちだけ貰っておこうと返却し、ムロタウンに向かうための準備を整えるためにショップのほうに足を向ける。
俺の腕を誰かが掴んだ。
「ちょっとついてきてくれるかな!」
「へ?」
「社長に紹介したいんだ!さ、こっちへ!」
「いや、そんなことは、ちょ、」
掴んでいたのは研究員さんだった。ぐいぐいと遠慮なしに引っ張ってくる研究員さんを無碍に扱うこともできず、なす術なく引きずられていく俺。
ひったくりもどきで取られた荷物を取り返しただけだっていうのに、社長に会う事になるなんて思ってもいなかった。もし俺がアクア団やマグマ団の仲間だったりしたらどうするつもりだったんだろう。
抵抗と言える抵抗をすることもできず、研究員さんが次々にパスしていくところにお辞儀をして通っていく。
こんなに簡単に部外者を入れちゃダメだろう、本当に。
「さっ、ここで待っていてください!」
「研究員さん、俺は」
「社長に話をつけてきますから!」
断るという選択肢を選ばせてくれ。
俺の心の訴えに反応する素振りを見せない研究員さんは、平然と俺を置いて部屋の奥へと走っていった。俺の話を聞け。
階段付近で待機するよう言われているので、部屋の奥の様子は見えない。もちろん社長さんの姿も拝見していない。
もしかしたら今、研究員さんもいないし、帰ることだってできるんじゃないか?
社長さんとはまだ会ってないわけだし、そもそもそれほど重要なことをした覚えもないわけだし、よくわからないまま連れてこられましたって言えばきっと。
いや、よくわからないまま連れてこられたって言ったら研究員さんが犯罪を犯したっていう認識にされるか…?そうなるとこう、再会したりするとたいへん気まずい。
とりあえず下の階に逃げることは確定。階段を降りて出入り口まで連れて行ってもらおう。
「お待たせー!…何をしてるんだい?」
「な、なんでも!」
いざ歩き出そうと階段の方に後ずさっていたら研究員さんが戻ってきた。あと少しで足をかけていたっていうのに、惜しい限りだ。
仕方なく研究員さんの後についていき、デボンの社長さんに会う。
「よく来てくれた!わしがデボンコーポレーション社長のツワブキだ!」
キミのことは先程聞かせてもらった。デボンを代表して、わしから礼を言わせてもらおう。
大したことをしていないはずなのにこの高待遇はやめてほしい。それともあれか、デボンは荷物を取り返しただけで社長さんに会えるのか。
混乱でごちゃごちゃになっている頭に、社長さんは押し込むかのごとく様々な言葉を吐き続けた。