名づけられたものに告ぐ
リオルが喋った。
いや、喋るのはポケモンも人間も同じだ。ただ問題にしているのは、このリオルが人間の言葉を話したっていうことで。
「え、な、ひとのことば、」
うろたえる俺に首をかしげていたリオルは驚いたように手を離した。え、まさか気づいていなかったのか、さっきの。
ポケセンの前で混乱している一人と一匹は、傍から見ればかなりおかしい構図だろう。いやだって、こいつ今喋ったぞ。普通人間の言葉って話せないだろ。
『お前、俺の言葉がわかるのか』
リオルが混乱した声で聞いてくる。バリバリわかります。頭に響いてくる感じだけど、流暢な発音だなとか言って褒められるくらいの人間の言葉です。
どうなってるんだこいつ。疲弊した頭に追い打ちをかけてくる混乱の中、ポケモン図鑑で見たリオルの説明文が頭をよぎった。
波動を使って他のポケモンとコミュニケーションをはかる、波動ポケモン。
もしかしてその波動とやらを使って俺に言葉を伝えているのか、このリオル。そんなポケモンがいていいのか、これなら世界中のリオルが意思疎通できるぞ。
とにかく理解できているということを示すために首を上下に激しく振った。
『あいつには伝わらなかったのに、なんで』
俺の反応を見たリオルは泣きそうな顔で呟いた。
あいつとは、このリオルの持ち主だろうか。やっぱり誰かの手持ちなんじゃないか!と講義したい気持ちを抑えつつ、泣きそうなリオルの頭に手を置く。すぐに払われた。
『あいつと同じことをしないでくれ』
「いや、そう言われても…」
そもそもあいつと同じ動作をするなって言われても、どんなやつか知らないから対処のしようもない。
撫でられるのが嫌だったのかとやめて様子を見る。少し乱れた髪を整えるリオルに、ふと思いついたことを聞いてみる。
「そういえば、お前ってポケモンの言いたいこともわかるのか?」
リオルは仮にもポケモンだ。ポケモンはポケモン同士で会話をすることができるみたいだし、それはこのリオルにだって適応される。
案の定頷いたリオルに内心でガッツポーズ。
「ならこのポチエナに、名前がどんなのがいいか聞いてくれよ!」
『名前?…普通、トレーナーが決めるものだろ』
「うぐっ」
確かにトレーナーが付けるものだけど、まだ決まってないんだよ。
リオルからの視線がどんどん蔑んだ目になっていく。悪いことをした記憶は無いのに、なんでこんなに好感度が下がっているのか。
ポチエナが見向きもしないのが悪い、とボールから出したポチエナを恨みつつ、リオルにニックネーム案を聞いてもらう。
ポチエナと話しているときは俺が言葉を理解することはできない。やはりリオル特有の波動が関係しているようだ。
聞いてくれたらしいリオルはこっちに向かって一言、エポナ、とだけ告げた。
「エポナって…お前、最初の名前嫌がってただろ」
『それはお前が嫌いだからだと』
「分かってたけどさらに傷ついたわ」
確かに驚かせて捕まえたのは悪いと思っているが、数日夜を共にしたんだから少しくらいは心を開いてくれたっていいんじゃないのか。ハルカのことを恨んでるのなら最初からお門違いである。
とにかく、エポナ。最初につけたニックネームが一番マシだったって認識でもいいんだろう。
ふんぞり返っているポチエナ、もといエポナをボールに戻すことに奮闘して数分。ようやく収まったボールを腰につけた。
「手伝ってくれてありがとな、リオル。
で、お前、たしか連れて行ってくれ…とか言ってたよな。どこに連れて行けっていうんだ?」
連れて行けっていうことはカナズミから出たいということだろう。何処に行きたいのかはわからないが、とりあえず離れるんだったら俺についてくるっていう手もあるし。
リオルは少し考えて告げる。
『俺のトレーナーのところに』
リオルのトレーナーのところに。それなら近くにいるんじゃないか?
多分泊まっている場所とか、次に行くべき場所とか聞いてるだろう。そう思ってリオルに尋ねる。しかしリオルは首を横に振っただけだった。
『行方不明、』
「へ」
『俺だけ置いてどこかに行った』
リオルの言葉に固まる。それって一般的に言う、ポケモンを逃がす行為なんじゃ。
しかしリオルが言うには「ボールはあいつの手元にある」とのことで。ああやっぱり、あいつとはトレーナーのことを指していたらしい。
しかしそれだとどこで会えるかもわからない上に、いつまで経っても会えない可能性も出てくる。カナズミで待ったほうが会える確率は高くなるのでは、と提案してみたが却下された。
なんでも他の人間と行動してなければまた放置されるんだとか。
「どんだけポケモンの扱いが荒いんだ、そいつ…」
どこに故意的にポケモンを放ったらかしにして人を連れてこさせるトレーナーがいるんだよ。いや、リオルの持ち主がいるけど。
『ポケモンの扱いはそれなりに丁寧だと思うけど』
「じゃあなんでお前はおいて行かれたんだよ」
『…』
話したくないってさ。
デリカシーのない発言をしたからか、リオルがそれ以上俺に教えてくれることはなかった。せめて名前とか容姿とか教えてくれたら、まだ探しやすくなると思うんだが。
「あー…リオル、俺と一緒に来る?」
沈黙に耐えられなくなり、リオルにそう問いかける。
いつ会えるかはわからないが、少なくとも俺はホウエンのほとんどの街を旅するわけで。つまりこいつの親、もとい持ち主にも出会う可能性は少しくらいはあるわけで。
顔を上げたリオルの手を取り、とりあえずまあなんとかなるだろうと笑いかけてやる。俺がリオルと一緒に行動していれば、あるいはあっちからコンタクトを取ってくれるんだろ。
『…いいのか?』
「俺の行きたいところに行っていいってんなら、な」
元々動き回るという目的は一緒なんだ。ついででいいなら少しの間くらい道のりをともにしたっていいだろう。
リオルは一も二もなく頷き、ポケセンの中へと俺を引っ張っていった。