そこには暗い裏切り
「ううん、予想していたよりキミはビッグウェーブ!わかった、このバッジを持って行きな!」
ポケセン前で律儀に待っていたリオルを回収し、ジム戦の前にダイゴさんを探し出そうと思って街中をうろついたが、どうやらダイゴさんはどこかに出かけていていないらしい。
予想としては、街外れにあるという石の洞窟にでも篭って石の発掘をしているといったところか。ツワブキ親子は揃って相当な石好きで、いつも仕事を抜け出しては石を掘っているんだと聞いた。
しかし、予想はしていても先に進めなかった。
洞窟の奥に何やら珍しい壁画が残っていたようで、最近それに注目が集まっているんだとか。壁画を見に来た人で溢れかえって列すら成していて、時間がかかりそうだったので後回しにした。
というわけで、ムロジム突破。
「よっしゃ!
あ、いや、ありがとうございます」
俺が持っている手持ちで格闘タイプと相性がいいのは飛行、エスパー、フェアリー。つまりライラとフレアだ。
ひたすらに同じ技を連続して出してしまったのは大変申し訳ない。
思わず握りこぶしを作ってしまった手をほどき、差し出されたバッジを受け取った。
「それにしても、随分と鍛えてあるみたいだね。そのポケモンたち」
「まあ…いつかはリーグで優勝するのが夢なんです」
「へえ、それは楽しみだ!
なら、キミの才能はいつの日か大きな波となって、ポケモントレーナーたちの間に驚きの嵐を巻き起こすかもしれない。
キミという名のビッグウェーブを全身で浴びまくれるときを楽しみに待っているよ!」
そういえば、この町の北側にある石の洞窟にはもう行ったか?と聞かれて頷く。ダイゴさんを探すために行きましたとも。
「数千年前の壁画とか、珍しい石とか。ロマン溢れる遺跡でさ。さっき知り合いのダイゴってやつを誘ったんだけど、喜んで一人で走っていったよ」
誘ったのに一人で行ったのか。ダイゴさんの石好きは周りが見えなくなるほどのことらしい。
ああ、石を両手に持ちながらニコニコしているダイゴさんが容易に想像できる。思えばあいつとダイゴさんとの三人で石の展覧会を見に行ったとき、ダイゴさんが一番子供みたいにはしゃいでたよな。
それにしてもまた石の洞窟か。あの人混みが少しは少なくなっていればいいんだけど。
―――
――――
ポケセンに寄ってフレアたちの回復をしてから石の洞窟を訪れる。
少し遅い時間帯だからか、洞窟の中にいる人たちはまばらになっていて、今度は難なく奥に進むことに成功した。
ダイゴさんに会うついでに、数千年前のものだという壁画も見ていこう。ちょっとした仕事の報酬みたいなものという認識でもいいだろ。
そう思って薄暗い奥の方に歩を進めた。使うのにジムバッジが必要だったフラッシュはライラに覚えさせてある。リオルも俺の隣を歩いていた。
壁画の前に一人の男の人がいた。
「…ふむ」
水色かかった灰色の髪、特徴的な服装。どこか漂う気品。少し裾を汚しているのが彼らしい。
間違いなく、俺が探していたダイゴさんである。
やっぱりこんなところにいた、とその後ろに駆け寄る。どうせこの人だって俺のことを覚えていないんだろうが、まあ多少馴れ馴れしくしたって気にしないだろう。
「原子の世界においてはここまで強大な力を纏っていたというのか…」
超古代ポケモン、凄まじいパワーだ。
そう呟くダイゴさんの言葉が気になって壁画に目線を向ける。薄暗い空間ではあまりはっきりと見えることはないが、なんとか形だけはわかった。
そこに描かれていたのは、超古代ポケモンのカイオーガ。そしてその視線の先に流れていくものは、三角の流れ星のようなもの。
なんだこれは。こんなもの、石の洞窟にあったのか。
「そしてこの姿はメガシンカとも異なるなにか――
…うん、もう少し調査が必要だな。
ん?きみたちは…」
同じように壁画を見つめていると、こちらの気配を察知したダイゴさんがこちらを振り向いた。あの日と変わらない穏やかな眼差しが俺を射抜く。
不思議そうにしているダイゴさんに一歩近づき、荷物の中に手を突っ込む。
「デボンのツワブキさんから預かり物をしています。どうぞ」
「ああ、ありがとう」
預かっている手紙を渡す。これで仕事完了、次はカイナに渡ってキンセツに向かおう。
受け取ってくれたことに安堵している俺とは反対に、ダイゴさんはふと考える仕草を見せてこちらに聞いてくる。
「ボクは名乗っていないはずなんだけど、どうしてボクがダイゴだと?」
降りていた肩が跳ね上がった。いやいや、そこ気にしちゃうのか。言われてみれば確かに、ダイゴさんに名乗ってもらった覚えはないけど。
何も考えずに渡してしまったことを後悔しつつ、どうやってこの場を乗り切ろうかと必死に頭を回す。無難に写真を見せてもらったという言い訳でもいいだろうか。
「ええと、その、写真をですね…」
「父は写真を持っていないよ」
「えっ嘘だろ」
確かに写真の現像は高いけど、あのツワブキさんが持っていないだなんてそんな。
しかしダイゴさんは頭を振って「僕の写真は撮られてないからね」といった。とんだ大誤算である。後ろからリオルが「馬鹿」と吐き捨てたのが聞こえた。
言葉を失った俺に、ダイゴさんは困ったように笑いかけた。