手を組んで危険を走る

あの少女がいなくなったあとも、反抗心のようなものが自分の中に芽生えたのか、しばらく自分の頭だけで理解しようと奮闘する。
しかしそんな俺の頑張りは徒労に終わり、結局何も頭に蓄えられないまま思考を放棄する結果となった。時間を無駄にした気がするのはきっと勘違いではない。

そもそもポケモンに関すること以外は頭の回転率はすこぶる低い数値をたたき出しているのだから、どれほど頑張ろうとも俺に全部理解できるなんてことはなかった。

仕方なくここにいるというツワブキさんを探すことにして、青装束以外の人を探しつつ歩き回る。今まで見た通路にはいなかったから奥に居るのは確定だろう。
二階に上がった俺を迎えたのはホウエンの模型。ミシロを探すのもいいな、と思いつつ奥の方を覗き込んだ。たしかこの博物館は二階建てだったから、ここから見えるところで全てだとは思うが。

何枚かのガラスを通した先、抹茶色が小さく映し出されている。その周りに青や黒といった様々な人影が見えた。あの中の誰かがクスノキ館長ということか。

駆け寄った俺の視界に入ったものは、予想外のことに巻き込まれているリオルとひとりの男性、そして先程話しかけた少女だった。

「やいやい、クスノキ館長さんよ!デボンから荷物が届いてるんだろ?そいつを渡してもらおうじゃねえか!」

男性の前に立って庇う少女、そして戦闘態勢のリオル。それに対峙しているのは見慣れた青い装束…アクア団が二人。
もしかしてあの男性がクスノキさんだろうか。うん、アクア団のやつらも写真で確認してる、間違いなくクスノキさんだ。

話を聞く限り、そいつらの狙いは俺が持っているデボンからの荷物らしい。もちろんまだ届いてないので、クスノキさんや少女にとっては疑問でしかない。唯一リオルだけが敏感に気づいたが。

首をひねりつつ、クスノキさんはそんなものは届いていないが、と告げる。アクア団は顔を見合わせた後、すぐさま少女を睨みつけた。

「ならお前が持っているんだな、小娘!」
「私は持ってないわよ」
「なにぃっ!?」

客が来なくて面白くないギャグコントみたいなやりとりだ。完璧に取り残されてる。
一応俺、この騒動に巻き込まれる立場なんだろうけど。しかし実際巻き込まれているのは俺じゃなくて向こうの少女とクスノキさんだ。少女に関してはとばっちりにしか見えない。

仕方ない。クスノキさんに手渡さなければ先にも進めないんだから、さっさと手助けして終わらせよう。

「デボンの荷物は、俺が持ってるけど?」

なるべく気配を殺して近づき、その背中に話しかけた。少女を見ていたアクア団が勢いよく振り返る。
荷物をカバンから取り出して見せる。この中に入っている何かの正体を俺は知ることがない。

「お前、たしかトウカの森での…」
「さあどうする?俺と戦うか、そいつをいたぶって通報されるか。…それとも、逃げる?」

最後の選択肢はもちろん挑発だ。こんなところでアクア団が引き下がるとは思っていないし、そもそも引き下がるつもりなら後ろから追撃する算段だ。脅迫するようなやつにかける情けはない。

片方はなぜかたじろいだ様子を見せたが、もう片方は俺の読み通り挑発にかかった。その短絡さは直したほうがいいぞ、と内心だけで教えておく。
俺の問いかけに訝しげに眉をひそめる少女を端で捉えつつ、腰につけていたボールを一つ外した。

「いけっ、キバニア!」
「コノハ!」

キバニアとコノハなら、タイプ相性としてはこちらのほうが有利だ。相手がどれほどのものかわからないが、恐らく俺のほうが勝つだろう。
戦略を組み立てようと頭の回転を早くさせたそのとき、ぼんっと煙る音が響いてもう一匹のポケモンが現れた。

「なっ!?」

いつの間にかこちらに移動してきた少女が、コノハの隣にポケモンを出したのだ。眩しいほどの電光。この地方には生息していないイーブイの進化系の一つ、サンダース。
一対一の勝負だっていうのに、なんでこの少女はポケモンを出しているんだろうか。

「二人で戦ったほうが早いわ。さっさと終わらせましょ」
「そんなこと言われたって、お前、」
「私があなたに合わせてみせる。…あなたたちも、そのほうがいいんじゃない?」

少女は俺と同じように下っ端たちを挑発し、勝負を二対二に揃える。もうひとりが出したのはズバットだ。
ふむ、ズバットなら電気が一番いい。多分少女はキバニアに備えて電気タイプを出したんだろうけど、ズバットではコノハの相性がいまいちだ。そっちを相手してもらおう。

「ズバットを頼む」
「ええ。…サンダース、電気ショック!」

少女は意外にあっさりと意見を飲み込み、サンダースに指示を出す。素早く反応したサンダースが体中に電気を迸らせて前に飛び出した。
俺が驚いたのはその反応スピードだ。尋常な速さじゃない、116番道路のあいつに勝るとも劣らない強さがちらついている。

恐らく建物のことも配慮したのであろうが、サンダースの放った電気ショックは一発でズバットを沈めた。その威力にもぞっとする。
強くなるトレーナーはここまで強くなれるのか。

「コノハ、キバニアに向かってメガドレイン!」

これは俺が使われる立場だったんじゃないかと思いつつ、せめて足手纏いにならない程度には頑張ろうと気を取り直す。
コノハの攻撃をすんでのところで避けたキバニア。アクア団の指示でこちらに突進してくることを知り、大きくジャンプするように叫んだ。

「ふっ、空中では受身もとれまい!」

男が勝負あったと言わんばかりに不敵に笑った。いや、これで受身を取らせようとしているなら、ジャンプする必要はどこにもない。
多少高さが変わった程度、キバニアにとっては何も意味を持たない。少し向きが変わったキバニアがコノハにあたりそうになったところを見て、ひとつの指示を出した。

「やどりぎのタネ」

コノハの頭からなにかの種子が飛ぶ。物理攻撃しようとしていたキバニアは近くにいるわけで、その種子を真っ向から浴びることになった。

あっという間にキバニアの体に巻きついていく蔓。
締め付けられた相手はたまったもんじゃあない。蔓の重さも加わった分バランスが取りにくくなったのか、キバニアは音を立てて横に倒れ伏した。

「コノハ、ギガドレイン」

その言葉にゆっくりと頷いたコノハが技を繰り出し、あっさり勝負の決着がつく。少し手こずりはしたがいい方だろう。
俺がコノハをボールに戻したところで、少女もサンダースの頭を撫でているのを確認。その目の前には電気の余波が残っているキバニア。

ああ、絶対俺から勝負を持ち出さない方がよかったな、と、俺はそこでやっとこさ理解した。